第50話『まさかの再会』
「よし、身体強化魔法は全員できるようになったな。今日最後に教えるのは――」
◆◇◆◇
「疲れた……早く帰りたい」
「身体は疲れてないけど六時間ずっと魔法は辛かったね」
六時間の授業を終え、四つ子はいつも通り仲良く帰る。商店街に近づくと、アレスは突然左に曲がる。
「どこ行くの?」
「魔法グッズ専門店。来る?」
アレスはそこの常連という話だが、他の三人は全然行ったことがない。どんなものが売られているのか気になった三人は首を縦に振った。
―― 扉を開くと、鈴の音が頭上で鳴る。壁に付けられているランタンによって少々明るくなっていた。
店内に足を踏み入れると、店主の老人から声をかけられた。
「いらっしゃい。あれ、同じ顔が四人? 誰がいつもうちに来てくれる子かい?」
「僕です」
「そうかそうか。ゆっくりしていってくれ」
店主に頭を下げ、四人は周りをウロウロする。その中にある一つの棚にラインは気を取られた。
「なんだこれ? 吸血鬼専用?」
吸血鬼専用と書かれた棚には血液が繊細なデザインのガラス瓶に入っているものや、銀色のブレスレットなどがあった。
「この瓶って……」
「前に僕が三人にあげたものだね」
以前アレスが買ったガラス瓶。店主によると、魔法で生成された栄養血液らしいが、その瓶を受け取る前にラインは見たことがあった。
(あの時……)
それは、【十執政】『第四位』セルヴィ・ミレトスと戦っている時に現れたダンピールの男が飲んだものと一緒だ。アレスにもらった時も既視感があったが、その瓶をちゃんと見て確信に変わった。
「このブレスレットってどんなものですか?」
「それは吸血鬼が付けると力を味方に流せるものじゃ。それにしてもお前さんは吸血鬼の棚ばかり見るのか」
この店主はアレスが吸血鬼だということを知らない。そのため、吸血鬼コーナーばかり見ているアレスのことを「不思議な子じゃなー」といつも思っている。
アレスもわざわざ自分から教えるタイプでもないため、普通の子を演じているのだ。
「面白そうだしこのブレスレットって買ってみるか。お前らもいる?」
「買ってくれるの? じゃあ欲しいな」
「どっちでも良いけど。買うなら買って」
「わーい! ラインお兄ちゃんが買ってくれるー!」
特に否定されなかったため、ラインはそのブレスレットを四つ購入した。
――礼をして外に出る。このまま真っ直ぐ帰ろうとすると、レンゲが「お花屋さん行きたい!」と言うので花屋に向かって歩き始める。
「欲しい花でもあるのか?」
「ううん! この間たくさんお花もらっちゃったからお礼言いに行くの!」
「なんて良い子なんだ」と他の三人は感動しながら通りを真っ直ぐ進む。すると、花屋がみえてきた。だが――
「嘘だろ……」
花屋の目の前に、見覚えのある二人組がいたのだ。
◆◇◆◇
「ねーロエンー早く帰ろうよー」
「商店街に来たいって言ったのサフィナですよね!? それにヴァルクを待ってるんですから帰るわけにもいかないでしょう」
商店街の道を歩きながらサフィナは両腕を上げて怠そうな顔をする。そんな二人が花屋の前に近づくと、子供の泣き声が聞こえてきた。
「うわぁーん! うわぁーん!」
その声を出した子供が花屋から出てきて、しゃがんで泣き続ける。
「うわーめっちゃ泣いてるじゃん。どうするの? ってロエン?」
ロエンにどうするかを聞こうとして右を見るが、ロエンの姿は消えてしまっていた。すると、正面から彼の声が聞こえてきた。
「君、大丈夫ですか? 何かありましたか?」
「ううっ……お母さんとはぐれちゃって……」
涙を流している少年の足を見ると、膝が剥けて血が出ていた。おそらく母親を探すために走り回った時に転びでもしたのだろう。その傷を見たサフィナも少年に近づく。
「うわーけっこー痛そうじゃん。大丈夫ー? これでいいかなー?」
その子の足を触り、治癒魔法をかける。すると膝の傷は治っていき、少年も痛みが消えた。だが涙は止まらず、まだ大声で喚いている。
「困りましたね。あ、そうだ。サフィナ、あれ見せてあげてくださいよ」
「えー。まーいいや。ちゃんと見ててよー?」
すると、突然彼女の両手に対の扇が現れる。折りたたまれていたそれが開くと、まるで花のように綺麗な桃色や黄緑色が入った刃が展開する。
「ほら」
踊るようにそれを振ると、攻撃の軌跡が綺麗な花の形を描いた。
「わぁ……綺麗な花……」
泣いていた少年は段々と涙が止まっていき、その花に魅了された。
「ルーク! ルーク!」
その声は、花屋の少し向こうから聞こえてきた。その方向に目をやると、こちらに向かって走ってくる女性の姿があった。
「はぁ、はぁ、ルーク! なんで花屋まで来てるの? お母さんから離れたらダメでしょ?」
「ごめんなさい……」
母親に謝る少年の後ろ姿を見ていると、母親と目が合った。
「二人ともありがとうございます。息子の相手をしてくれてたんですね。本当にありがとうございます」
「いえいえ。見つかって良かったです」
「良かったですねー」
「お兄ちゃん、お姉ちゃんありがとう!」
感謝しながら手を振る二人を見届け、ロエンとサフィナは再び商店街を回ろうと後ろを向く。
「あ……」
「ゲッ……まじ?」
後ろを向くと、先日彼らが襲った四つ子がいたのだ。
「なんでお前らがここにいるんだよ。 変な事企んでるんじゃねえだろうな?」
「まさか。私たちはヴァルクを待っているだけです。まあ、商店街に来てるのはサフィナが言い出したからですが。……そんなに睨まないでくれますかね?」
まさかの再会に驚きながらも、嘘もつかず正直に言う。だが、ライン達は全然信用できないようにギロっと睨んでいたのだ。
「信じられるわけないだろ。ヴァルクが俺の隣でご飯食べたんだぞ!? 本当にいい度胸してるぞあいつ……」
「えぇ……隣で食べたんですか? 確かにいい度胸してますね。それはあなたに同意見です」
ラインからヴァルクの話を聞いた二人は肝が据わっている友達に呆れながらお互いを見る。
「そういえばお前ら今何してたんだ? 親子が手振ってたけど」
「ああ、子供が母親とはぐれてしまったようで。泣き止ませようと思いましてね」
「なんだ、意外と優しいところあるじゃん」
人の心がないと思っていた奴らにも優しいところがあり、セツナは少しだけ感心する。
「では私たちはこれで。またいつか」
「じゃーねー」
ロエンとサフィナは軽く手を振った直後、黒い羽根のような霧が包まれ、消えていった。
予想外の人物と会ったことで花屋で買い物をすることを忘れてしまい、四人は屋敷に向かって歩き始めてしまった。
◆◇◆◇
屋敷の扉を開くと、光が溢れ出てくる。目を瞑って居間にあるソファーに向かうと、アステナとセレナ、エルフィーネがいた。
「あ、おかえり。帰ってきたんだね」
「おかえりなさいませ」
「おかえりなさいませ〜ご主人様達〜」
三人に挨拶を返してライン達もソファーに座る。すると、セレナがブレスレットに気づいた。
「そのブレスレットは何ですか?」
「吸血鬼がつけたら味方に力を分けれるんだってさ。面白そうだから買ってみた」
「へー面白そうだね」
近づいてきたアステナがブレスレットを触るのかと思いきや、ずーっとラインの手を握って離さずにいる。
「そろそろセツナが邪魔するね」とアレスが思っていると、それより先にセレナが声を上げた。
「もう晩御飯は出来てるので食べましょう。ご主人様達、どうぞ席についてください!」
二人のメイドと『知恵の神』が丹精込めた料理が運ばれようとしていた。
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