第49話『新たな魔法』
「おいまだ許可も出してないだろ。勝手に座るな」
アレン・クロス――否、【十執政】『第十位』ヴァルク・オルデインは堂々とラインの隣の席に座る。
「別にいいと言ったのはお前だろ」
「いい度胸してるじゃねえかお前……よく堂々と俺らの前に顔を出せるな?」
先日の『ラビリンス・ゼロ』にてアレス、グレイス、エリシアのいたチームCを襲った男。その上、学園入学式の日から四つ子のことを狙っていた。
ラインたちを襲ってきたくせによくもまあ堂々と昼食を一緒に食べようと言ってきたものだ。
アッシュが腰につけた長剣に手を伸ばそうとすると、「待て待て」と手を前に出す。
「別に戦いにきた訳じゃない」
「お前が言っても説得力に欠けるぞ。何のつもりだ?」
「アレン・クロスって名前でここに入学してるんだ。登校するのは当たり前だろ」
確かにそれはそうなのだが、なんでそんなところはしっかりしているのかわからない。警戒しながらも食事の手を進めていると、ヴァルクは話し始めた。
「ま、元々俺もロエンもサフィナも戦うつもりはなかったしな。ロエンが言ってたと思うが」
「はぁ? そんなこと言った訳……いや、あるのか?」
何言ってんだこいつというような目でヴァルクを見ながらあの時の出来事を思い出す。……確かに言っている気がする。
『仲良くしに来た訳では無いですが、戦いに来たつもりでもないんですよ』
(――確かに言ってたなあいつ)
ロエンが言っていたことを思い出し、「あー」というような顔をしていると、ヴァルクも「ほらな」と指を向けてきた。
「で、俺はここで食べていいよな?」
「もう勝手にしろ」
聞いてくる割にはもう食べ始めていて、今退いてもらうのもちょっと可哀想だと感じてそう答える。
食べ始めるヴァルクを呆れた目で見ていると、また後ろから声をかけられた。
「ラインー俺も一緒に食べていいか?」
「なんかお前の顔久しぶりに見たな。まあどっか座れ」
それは、『煌星の影』レオ・ヴァルディだった。クラスが違うこともあり、『神龍オメガルス』戦以降会っていなかったが元気そうで何よりだ。
「じゃあここでいっか。――あれ、お前誰?」
レオは適当にラインの正面の席に座る。すると、彼はラインの隣に座っていた男の顔を見て尋ねる。
「……俺はこいつらの隣の組のアレン・クロスだ」
「……へーアレンって名前なんだ。よろしく、俺はレオ・ヴァルディだ」
「ああ、よろしく」
それだけの挨拶を交わした後、二人は話もせずに黙々と食べ続ける。まあ今会ったばかりのやつと楽しそうにご飯を食べることはあまり出来ないだろう。
そんなことを考えながらライン達も昼食を口に運んだ。
――十分ほど経つとチャイムが流れる。それは、昼食時間終了の合図だった。
「鳴ったしもう俺教室戻るわ。じゃあなー」
「俺も教室に戻る。またな」
「いやお前はもう戻ってこなくて良いから」
レオにだけ手を振り、ライン達は再び魔法実習場に戻る。あと二限だ。四限目までずっと《円環展開》とかいう技を練習させられ、結局誰も成功することができなかった。
その練習をまだ続けるのかわからないが、流石に憂鬱になりそうだ。
「なあグレイス、お前どうやってあれしてるんだ?」
「どうって言われても、俺は感覚派だしなー。てかお前ら神様だから一番できそうなのになんでできないんだよ」
図星をつかれ、ラインとアレスは苦笑いしながらお互いの顔を見つめる。
「僕たち、子供の頃から血液操作とか『創世神』の力ばかり練習してたから魔法を全然使うことがなかったんだよね」
「魔法の練習とか数えられるくらいしかしたことないしな」
「それでこの学園に入れたのはもう天性の才だね……」
と、アッシュは驚愕の表情で見ていた。
◆◇◆◇
魔法実習場に戻ると、腕を組んだカイラス先生が立っていた。
「全員戻ってきたか。じゃあ五限目を開始する」
「先生、また《円環展開》するんですか?」
「本当はそのつもりだったが、お前らの出来が悪いから簡単な魔法からにする」
生徒達はやっと苦痛から解放されて嬉しさが込み上げてきたが、ちょっと煽られて複雑な感情も同時に抱いた。
「まずはこれからだ。ブーストリア」
先生がそう言っても見た目に変化は現れず、みんなが首を傾げていると超人的な速度で動き出したのだ。
「は、速!」
そのあまりの速さに生徒達は驚愕の声を上げている。
「今のは瞬発速度を上げる魔法だ。今みたいに速く移動できるぞ。さて、次は……グラディオン」
またもや見た目に変化がないため首を傾げる。すると、地面の土を浮遊魔法で持ち上げて土の壁を作った。
「グラディオンを使えば、これがこうなるんだ」
でかい音が響き、土の壁は木っ端微塵に壊れてしまったのだ。
「今のは力を強化する魔法だ。ブーストのコツは両手両足に魔力を集中させること。グラディオンは両手に魔力を集中させることだ。簡単だろ?」
「「「ブーストリア!」」」
「「「グラディオン!」」」
先生の説明を聞き、生徒達は各々実演してみせる。すると、先ほどの《円環展開》とは異なり、全ての生徒がその魔法に成功したのだ。
「おお! やるじゃないかお前ら! じゃあ戦いで実演してもらうか。エヴァンスとフェルザリア、お前ら戦ってみろ」
また俺かよという顔をするグレイスとワクワクした顔をするアッシュは対照的だ。二人は互いに向き合い、魔法を呟く。
「「ブーストリア。グラディオン」」
砂埃が舞い、一瞬で二人の姿は消えてしまう。
「え?」
生徒達がそんな顔をする中、グレイスとアッシュはぶつかっていた。
「インフェルノ!」
「――」
グレイスの放つ魔法を次々と長剣で切り裂き、「ブーストリア」で強化した瞬発速度でその刃を降りかかる。
一方のグレイスも襲いかかる斬撃を「ブーストリア」の力で避けながら「グラディオン」で強化した魔法を放つ。
「あーお前ら、その辺で……」
他の生徒では実現不可能な圧倒的な戦いを見て、カイラス先生はこの二人を選んだことに後悔しながら辞めさせようとする。しかし、戦闘が楽しくてカイラスの声など聞こえていない二人は上空でバチバチ戦っていた。
「……あいつらはいいや。お前らもあそこまでは無理だがこの魔法を使うことで魔物に会ってもかなり有利に立ち向かえるようになるぞ」
その言葉に生徒達も嬉しそうな顔をするが、上空で戦っている二人から目を背けることができずにいた――
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