第48話『魔法の授業』
魔法実習場に着くと、カイラス先生の指示によりそれぞれが魔法を遠くの的に向けて放つ。
何度撃っても終わらず、地獄の時間が彼らを襲う。
――十数分間も魔法を撃たされ、魔力切れで倒れそうになる生徒も増えてきた。その様子を見たカイラス先生はため息をつく。
「はい、そこで止めだ。こんなんじゃ立派な魔法使いになれないぞお前ら」
すると、先生は一つの的に向けて杖を構える。
「《円環展開》」
聞き慣れない言葉が、彼の口から出される。すると、彼の立つ地面に半径二メートル程の魔法陣が現れた。
「何あれ」という生徒の声が次々と上がり顔を見合わせる。それには全く気を取られず、先生は的だけを見つめる。
「エクスプロード!」
――なんという魔法だ。彼の杖からそれが放たれた途端、耳を塞いでも音が響いてくる。
砂埃が舞い、目に入ってきてしまう。
こんな魔法を撃てば、いくら先生でも魔力がかなり消費されているだろう。
だが――
「……魔力消費が普通の半分くらいになってるな」
「え、そうなの? 全然わからないんだけど」
「魔法の実力が相当ないと見えないからな」
腕を組んで冷静に分析するグレイスを見て、近くにいたエリシアは首を傾げる。それもそうだ。そもそも魔法に精通した者でなければ相手の魔力を見る事ができない。
カイラス先生はこの国最高峰の魔法学園の教師になれる程、魔法の実力を持っている。
そんな彼は見た者の魔力量を測ることができるのだが、エリシアのようにまだ入学したての生徒たちは全く分からないのだ。
「ま、俺は『魔導師』だから見れるんだけどな」
一方で、幼い頃から魔法を叩き込まれた事と、『魔導師』の『権能』を授かったことによりこの国最強といっても過言ではないほどの魔法使いである彼からすれば特に難しくもない普通の技だ。
「でもグレイスは今先生が使ったのは使わないの?」
「前に父さんがあれ教えてくれたけど、俺は使わなくても魔力が無限だから関係ないんだよな」
彼の無限の魔力は『魔導師』の『権能』によるものだ。彼にはそもそも魔力切れが起きないため、先生が発動した魔法陣を父から教えてもらっただけで使ったことは一度もない。
改めて、「無限の魔力を持つ人はずるい」と思ったエリシアである。
◆◇◆◇
「お前らもうちょっと頑張れ! 全然出来てないじゃないか! あとエヴァンス! お前サボるな!」
他の生徒たちがその技に苦戦している中、腕を組んであくびをしていたグレイスに叱責が飛んでくる。
渋々、グレイスも練習を始めた。
「ねぇラインお兄ちゃん、全然出来ないよー」
「あんな技初めて見たしな……どうすれば良いんだ?」
何度しても上手くいかず、四つ子は互いに顔を見合わせて首を傾げる。すると、「うおっ!?」と生徒の声が聞こえた。その方向を見ると――
「お、お前すげえな! どうしてんだそれ!」
「先生が言った通りにしただけだ」
なんと、グレイスの足元に魔法陣が出来上がっていた。
その様子を見た先生も感心したように「おー」と言っている。
「このまましてもダメだな。実践形式にする。お前ら出席番号順に俺にかかってこい。あ、エヴァンスお前も俺を手伝え」
実践かよ……と言う顔でしょんぼりしている生徒たちと、試験官のようなものをやらされることになり不満そうなグレイス。
その両方を、「文句あるか?」という強い眼差しで先生は睨んでいた。
◆◇◆◇
――まずは出席番号一番、二番からだ。一番の生徒はカイラス先生、二番はグレイスの下に送られる。
「じゃあ行くぞ。俺の魔法をさらに強い魔法で打ち消してみろ! フレイムスパーク!」
「《円環展開》クレスト・タイド!」
先生の放った最低火力の炎魔法に対して、その生徒は水魔法最高火力を出した。地面から波のような水壁が現れ、飛んできた炎魔法を打ち消すことに成功した。だが――
「魔力をかなり使ったな。しっかり魔法陣を展開できてない。次」
と、三番の生徒が先生に呼ばれて訓練が始まっているんだなと実感する。
「じゃあ俺らも始めるか。行くぞ。アクアパレット」
「《円環展開》ブリザード・レイ」
最低火力の水魔法と、氷魔法の中で二番目に威力が高い「ブリザード・レイ」がぶつかる。
グレイスの放った水の弾丸は、冷気のビームで打ち消されて凍ってしまう。
「うーん、しっかり展開できてないな。頑張って。じゃあ、次?」
――やはり難しいのだろう。その後も番号順に生徒が訓練して行ったが、全然上手く行かない。もちろん四つ子もだ。何度も並び直され終わらない訓練に嫌気がさしていると、チャイムが鳴った。
「お、一限目終わりか。――あ、ごめん。四限目まで終わってるわ」
「はぁ!?」
体感時間がおかしいのではなく、本当に長い時間訓練させられていたのかと頭を抱える。
「悪い悪い。惜しいやつは数人いたが、それでも全然だな。まあ今から昼食だ。食堂に迎え」
「「「はーい」」」
◆◇◆◇
食堂にはすでに大勢の生徒たちがいた。幸い、ここは席の数が非常に多いので座れない人が出ることはない。
ラインとアレスはアッシュ、グレイスと、セツナとレンゲはリリスとエリシアとご飯を食べるというのがいつもの昼食の風景だ。
「兄さんは何食べる?」
「これにしようかな。美味そうだろ」
ラインが指差すのは、豚肉を炎魔法で焼き上げたパリパリの皮とジューシーな肉で定番の「豚の炎焼き」とかいうメニューだ。正直ネーミングセンスは微妙だが、味は学園のメニューの中で一番美味いと言われるほどである。
「じゃあ俺もそれにするか」
「辛いらしくて選べなかったけど、みんな選ぶなら僕もそれにしようかな」
他の生徒の話によると少々辛く、舌が燃えるほど熱いらしい。結構恐ろしいものな気がするが、それでも人気メニューというなら食べて損はないだろう。
「辛!? 熱っつ!?」
「え、そんな辛いの? うっ……か、辛いね。でも凄く美味しい」
少々ではない辛さにグレイスとアッシュが驚いている一方で、ラインとアレスは平気で食べている。
「うん、美味しいねこれ。ちょっと辛いけど」
「これくらいなら全然辛くないな。めっちゃ美味しいし」
吸血鬼の体質なのか『創世神』だからなのか、それともただ単にこの二人が辛さに耐性があるのか分からないが、次々に口に入れていく二人にグレイスとアッシュは引き気味で見ていた。
「おい、俺もここで食べていいか?」
「ああ、別にいい……ぞ?」
顔も見ずに返事してしまったラインが後ろを振り向くと、ラインの顔が驚愕のものに変わる。それは彼だけではなく、その場にいる三人もだ。なぜならこの男は――
先日、ラインにある頼みをした隣のクラスのアレン・クロス――否、アレン・クロスという偽名でこの学園に潜入していた【十執政】『第十位』ヴァルク・オルデインだったのだ――
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