第46話『平穏な日々』
15万文字越えました!
――ここはどこだろうか。何もなく、ただ緑が生い茂っている空間にただ二人だけ立っている。強い陽が当たる中、片目を瞑って隣の男の肩を叩く。
「ねぇアルケウス、ラインたちは大丈夫かしら? セレナちゃんとエルフィーネちゃんも連れてきたけどやっぱり心配」
いつも通り息子たちのことを心配しすぎなルナミアの頭をポンポン叩き、優しく語りかける。
「ルナミアは心配しすぎだよ。俺と君との子なんだから大丈夫だ。それに、俺らがいなくてもあいつらが見守っているだろ?」
『創世神』アルケウスがこの世界を生み出した時に創り出した神々や力を与えた神々。彼らがいつもラインたちを見守っていることはアルケウスはもちろん、ルナミアも知っている。
「そうよね、大丈夫ね。少し会えなくなるのは寂しいけど、行こっか」
「ああ」
アルケウスの目の前に、真っ暗闇の穴が出来上がる。その奥にはたくさんの小さな光があり、星空のように綺麗に見える。
――一瞬で、アルケウスとルナミアはその穴に吸い込まれその場から消えた。誰もいない緑が生い茂っている空間には、ただ陽光と風が注がれるだけだった。
◆◇◆◇
――グレイスと別れた後、ラインたちは屋敷に帰り着いた。『知恵の神』とともに他の神に会いに行っていた話をすると、突然セツナから壁ドンされる。その顔からはとてつもない怒りを感じた。
「へぇ? じゃあやっぱりお兄ちゃんは沢山女の子と会ってたんだ?」
「ま、待てって誤解だ! 俺はアステナに連れて行かれただけで……それに男の神もいたって」
「問答無用!」
弱い一撃だったが、胸を殴られる。胸を抑えながら暴力的な妹を持つと大変だと思っていると、アレスも同じことを思ったのかラインを見て軽く笑っていた。
「あ、ラインお兄ちゃんたち帰ってきたー! ラインお兄ちゃんどこ行ってたの?」
階段から降りてきた末妹が近づいてくる。疑問を浮かべた顔で歩いてくる末妹に、姉は誤解を含めるような言い方をする。
「他の女に会いに行ってた」
「おいこら誤解させるようなこと言うんじゃねえよ!? ただアステナに連れて行かれただけだ。ていうか、なんでお前ら知ってんだよ?」
そういえばそもそもなんでこいつらはラインとアステナが他の女の子と会っていると知っているのだ。そんな疑問をぶつけるとセツナが腕を組みながら答える。
「エルフィーネがお兄ちゃんとアステナさんが四人の美少女といる夢を見たって言ってたから」
確かに、『夢の神』フォカリナがエルフィーネを起こしたと同時に自分たちの様子を夢で送ったと言っていたことを思い出した。
しかし一つ間違っていることがある。それは、四人の美少女ではなく三人の美少女と一人の美少年ということだ。
『時間の神』、『生と死の神』、『夢の神』は女性だったが、『空間の神』だけは男だった。まあ、彼は姉である『時間の神』と顔がよく似ていたため、女性と間違っても仕方がないようにも感じるが。
「そうか、エルフィーネは起きたんだったな。どこにいるんだ?」
エルフィーネを探すように周りを見渡す。すると、階段からセレナと共にエルフィーネが降りてきたのだ。
「あ、ライン様〜おかえりなさ〜い。ライン様が可愛い子達といる夢見ました〜」
「エルフィーネ、それ何度も言わない方が……。セツナ様が怖いです」
その話をされる度に態度には顔には表さないが態度にはイライラが出ている。セツナ様は怒ると一番怖いのかも……と思った二人のメイドであった。
◆◇◆◇
それから数日、特に変化のない日々が続いた。普通の朝を迎え、学園に通って帰ってくる。【十執政】ともダンピールの男とも出会わず、四つ子の望んだ平穏な日々が続こうとしている。
ただ、一つだけ変わったことがあるのだ。それは――
「うん、これ本当に美味しいね! 毎日食べたいくらいだよ」
「そう言って本当に毎日いる奴があるか!?」
なんと、これまでずっと『魔導師』グレイス・エヴァンスの屋敷に引きこもっていた『知恵の神』アステナがラインたちの屋敷に住みつき始めたのだ。
一応グレイスに聞いた所、彼はそのことを知っていたがなぜラインたちの屋敷にいたいのかは知らないようだ。
その上、何度アステナに聞いても上手くはぐらかされて結局なんの答えも手に入れられずにいた。
今は夕食の時間だ。ラインの隣に座ってセレナ、エルフィーネが作った美味しい料理を一緒に食べている。
普通に生活しているが、特に邪魔に思ったりはしない。ちゃんと片付けの手伝いや掃除など色々家事をしてくれるし、いつも楽しそうにメイド二人と妹二人と話しているからだ。
ただ、二つほど問題がある。その一つは――
「凄く美味しかったよ。ありがとう」
皿をキッチンに運び、セレナとエルフィーネに感謝した後すぐにソファーに座っているラインの隣に座る。
「ね、ねぇ、一緒にお風呂入らないかい?」
と、毎日聞いてくるのだ。何度断っても諦めず言ってくる。
そして、毎日聞こえる言葉がもう一つある。それは――
「待った待った待った!」
セツナが横から飛び込んでくるのだ。普段はアステナとも仲良く話しているが、この時間になるとアステナを睨むようになる。
いつも邪魔されるアステナも少し気に食わないのか、頬を少し膨らませながらセツナを見つめている。
そんな風景を他は笑顔で見ていた。
「じゃ、じゃあ俺入ってくるから」
「あ……。はぁ、行っちゃった……」
立ち上がったラインの腕を掴もうとしたが、めっちゃ速い速度でいなくなってしまったため、アステナは頬を膨らませてソファーに倒れる。
(「好きなんだったら積極的に行こう!」ってスピリアとアスタリアが言ってたのに全然上手くいかないな。本当に合ってるのかな? あの姉弟の言ったこと……)
数日続けても全く効果が出ず、アドバイスをくれた『空間の神』スピリアと『時間の神』アスタリアに心の中で文句を言う。
ラインがいなくなると人が変わったようにアステナの膝に頭を乗せて眠り始めるセツナを見て、「この子はそんなにライン君のことが好きなのか……」と思うアステナであった。
◆◇◆◇
もう一つの問題、それは、毎日寝る時にアステナとセツナが隣にいることだ。ラインの左腕をセツナ、右腕をアステナが抱きしめてスヤスヤ寝ている。
これもまた、アステナがラインと寝ようとするとセツナが飛んでくるためだ。
いつもは自室に入っても夜遅くまで起きているが、この二人はすぐに寝てしまうのでラインもすぐ寝るようになり、実は目覚めが良くなった。
(はぁ……眠い。寝るか)
そして、ラインの身体を眠気が襲い、彼も段々目を閉じていった。
(今日も上手くいかなかったな……明日こそは一緒に入るんだから)
目を瞑りながらも、アステナは普通に起きていた。心の中で今日の反省をして次の日に活かそうとする。だが、今のところ成功していない。
ラインの腕にぎゅっと抱きつき、アステナの心臓は爆発するくらいバクバク鳴っている。身体が全然落ち着かない彼女の頭に、男の声が響く。
(アステナ、俺とルナミアは他の世界に夫婦旅行してくる。アリシアスたちやイグニスたちにもテレパシーで伝えたが、お前がちょうど屋敷にいるみたいだからな。ラインたちの面倒を見てくれよ?)
それは『創世神』アルケウスからのテレパシーであった。急に脳内に声が響いて驚いたが、すぐに落ち着いてテレパシーを返す。
(うん、分かったよアルケウス。夫婦旅行楽しんでくると良いよ)
そう返答した後、ラインの顔を見ながら彼女は眠りに落ちた――
読んでくれてありがとうございます!




