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第45話『『剣聖』アッシュ・レイ・フェルザリア』

いつもより文字数少ないです。

 金色の粒子に身を包まれ、圧倒的格の違いを感じさせる『剣聖』アッシュ・フェルザリアを見て【十執政】『第二位』エルン・レイ・フェルザリアは恐怖を感じていた。

 先ほどまで動いていた手は震え、両足も痙攣が止まらない。ただならぬ気配をこの男から感じるのだ。


「あ、アァァ!!」


 『剣聖』から奪った氷の『神剣』フロストリアを振り回そうとする。だがしかし、腕が動かない。さらに、『神剣』が動き出したのだ。


「何だよこれ……ど、どうなって」


 すると、『神剣』はアッシュに向かって飛んでいき、彼の手中に収まった。まるで、彼を本当の所有者と認めたかのように。


「チッ……じゃあこれでどうだ!」


 今度は長剣を取り出してアッシュに襲いかかる。だが、エルンは違和感を感じた。分からないのだ、アッシュの攻撃の軌道が。これまでエルンの肉体に刻まれていた『剣聖』の『権能』で攻撃の軌道を全て読み、完璧な剣技で対処することが出来ていた。

 だが、なぜかその能力が失われていたのだ。そんな彼の脳内に、一つの予想が走る。


「まさか……お前が?」


「うん。『剣聖』の『権能』はたった今僕が受け継いだ」


 『剣聖』エルン・レイ・フェルザリアを倒して五年、その身体を乗っ取っていた彼はここまでの迫力を出すことは出来ていなかった。

 それはおそらく、アッシュが『権能』に頼らずに必死に剣技を磨き上げた後に『権能』を手に入れたからだろうか。


 戦っても勝てないと分かる圧倒的強者感。しかし、それでもエルンは逃げようとしなかった。一撃でもこの男に入れてやろうと考えたのだ。


 ――だが、その望みも一瞬にして潰えた。『剣聖』の放った斬撃が、エルンの身体を切り裂いたのだ。

 ただ、手を横に振っただけで斬撃が繰り出され、血が流れ出る。

 力が抜けたようにエルンは地面に仰向けに倒れた。


「あ、う……」


 倒れたエルンから声がする。だがそれは、エルンを乗っ取っていた者が放った言葉ではないとアッシュは瞬時に理解した。


「お父様……」


 エルンの隣にしゃがみ込み、その顔を見る。それは、本物のエルンの目だとアッシュは確信した。


「約束……果たせたね。アッシュが『剣聖』になるっていうのを見届ける約束。ちゃんと見届けられて良かったよ。……本当ならもっと一緒にいたかったけどね」


「お父様……まだ、まだ助かるかもしれないから! 諦め……ないでよ」


 五年ぶりに父親と話せたと思えば、今度はその父親が亡くなろうとしている。

 その状況にアッシュは涙を大量に流して悲しんでいる。


「泣かないでよ。セリアとお父様とも仲良くしてる?」


「うん……お母様ともお祖父様とも仲良くしてるよ」


「そっか、良かったよ。セリアには愛してるって伝えてて欲しいんだ。ずっと心配させちゃったからね……」


 息子、妻、父への感謝を述べながら、エルンの肉体は光の粒子になりどんどん消えて行く。


「さよなら、アッシュ。ずっと見守っているから安心してね。これは僕からの最後のプレゼント……かな……。――」


「あっ……父さん! 父さん……」


 ――先代『剣聖』エルン・レイ・フェルザリアの肉体は消滅した。そして、彼がいた所に剣があったのだ。


「これが……お父様の最後のプレゼント?」


 銀白色の刀身に、光が差し込むような金の文様が刻まれていて、神秘的で美しい見た目をした剣だった。

 ただそこにあるだけで心を落ち着かせるような印象をその剣に抱く。


 アッシュは最後にエルンが言った言葉を聞き取れずにいた。だが、その口の動きからして彼はこう言ったのだろう。


『愛してるよ』


 と。


 ――『剣聖』アッシュ・フェルザリアは、『剣聖』アッシュ・レイ・フェルザリアとして生まれ変わった。


◆◇◆◇


 およそ一時間後、アッシュは自身の住むフェルザリア家の屋敷に帰り着いた。その手には、エルンが最後に遺した剣を握って。


ギィィィ……


 扉が大きな音を立てながら開き、中に入る。すぐにリビングに向かうと、母親のセリア・フェルザリアがソファーで座りながら寝ていた。


「……ただいま。お母様」


「ん……アッシュ……おかえりなさい」


 目にかかった空色の髪をかきあげる母親を見つめている。すると、彼女が涙を流しているのに気づいた。


「お母様泣いてる?」


「え? ああ、夢でエルンに会った気がしたの。でも、夢にしてはしっかりとしたものだった気もするの。あれ、その剣はどうしたの?」


「お父様の形見だよ。……僕がお父様を斬った」


 ずっとずっと仲の良かった夫婦だった。たとえエルンが何者かに乗っ取られていたとしても、彼を斬ったのはアッシュだ。その責任を感じているのだろう。

 セリアはゆっくりと立ち上がり、アッシュに近づく。


「あっ……お母様」


 正面から抱きしめられ、アッシュは驚いた顔をする。すると、セリアは少し悲しそうに笑って話し始めた。


「夢の中でエルンに言われたの。『アッシュが僕を斬っても責めないでやって欲しい』って。まぁ、元々責めるつもりもないけどね。それに、言われたの」


「「『愛してるよ』って」」


 二人とも、エルンから同じことを言われたようだ。同じタイミングでそう言った二人は見つめあって軽く笑った。


「アッシュはちゃんと『剣聖』になれたんだね。良かったよ。これからも頑張ってね」


「うん、ありがとうお母様」


 可愛い息子の頭を撫で、ぎゅっと抱きしめる。

 エルンが亡くなってしまったことを悲しみ、大好きな夫との子がこれからも元気に過ごしてくれることを願うのだった――

読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
短くとも良いエピソードですね。 積み重ねた地力があったからこそ、力に振り回されず正しく受け取れたのかと。 こうして剣聖の想いが受け継がれていくのですね〜。 (*´ω`*) とてもほっこりした回でした…
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