第43話『それぞれの想い』
43話です! 血描写あるのでお気をつけて!
「なんで僕がこんなことを……人使いの荒い妹を持つと大変だ」
「うっさい速く」
アレスはセツナをおんぶしながら空を駆けていた。 エルフィーネの見た、ラインがアステナと四人の美少女といる夢の話を聞いたことでセツナの中で何かが切れた。
おぞましい空気を漂わせながらアレスに担がれ、空を進んでいく。
風邪を切るように進んでいくと、奥から何やら近づいてくる人影が見えてきた。
「あれ、お前らなんでこんなところに。無事だったのか?」
それは、アッシュとグレイスを掴みながら飛んできたラインであった。
エルフィーネの話からはかけ離れた二人を連れているのを見て、アレスとセツナは「やっぱりただの夢か」と思い、ため息をつく。だが、気になることがあった。
「無事ってなんのこと? なんもないんだけど」
「あーまずは逃げるぞ。話はそれからだ!」
焦っている兄の顔を見た兄妹は素直に後ろを向き、再び駆ける。ラインもそれについて行ってるとと突然、ラインの手を握るアッシュの力が強くなった。
「おい、急にどうし……た?」
下を向いて彼の顔を見ると、いつもの穏やかな表情とは違って怒りを込めたような顔をしていた。初めて見た顔に驚愕していると、アッシュはその瞳をラインに向ける。
「ごめん、先に行ってて。やらなきゃいけないことがあるんだ」
ラインが静止するよりも先に、アッシュは手を離して地面に向かって落ちて行ってしまった。
「あいつ、何して……」
すぐに彼を回収するために降りようとするとグレイスが「ダメだ」と言い放った。
「追いかけなくていい。行かせてやれ。あいつにはちゃんとやるべきことがあるんだから」
「……分かったよ」
そうして沈黙の時間が流れたまま、四人はさらに奥に進んでいくのであった。
◆◇◆◇
「はぁ、はぁ……な、なんなんだよお前!」
セルヴィ・ミレトスの残機は500になっていた。それは全て、突然現れた吸血鬼と人間の混血――ダンピールの男によってやられたものだ。これまで残機があまりにも多くあったため、余裕をこいていたセルヴィの顔は青白くなって態度も恐怖に狩られているものに変化した。
そんなセルヴィにダンピールは近づく。
「あと五百回殺せばいいのか。結構楽だな」
「待てよ……ま、待ってくれよ! た、頼むから殺さないでくれ……」
なんとみっともない姿なのだろう。おそらくこれまで六万人以上を殺害してきたはずの男から出る言葉がこんなものとは。あまりのみっともなさにダンピールも呆れ顔をしていた。
「ま、楽に殺してやるから安心しろ。お前を殺ったらあの吸血鬼たちだな」
右手の指に血液の爪を生成し、ゆっくりと、ゆっくりとセルヴィに近づいていく。その恐ろしさにセルヴィの心臓は高鳴り、命を脅かす感覚が全身を襲う。
「じゃあな。俺の妹を殺そうとしたことを一生後悔しろ」
その爪がセルヴィに当たりそうになった瞬間、「カキィン!」と刃がぶつかる音がした。
目を閉じていたセルヴィはゆっくり目を開け、目の前の光景に驚く。そこには、長剣を持った青みがかった銀髪の男――【十執政】『第二位』の男がいたのだ。
「な、なんで」
「【十執政】のメンバーが死ぬとあの方が悲しむからな。この俺に感謝しろよ」
「お前……一体何者だ? 今まで俺の攻撃を剣で返せたやつはいなかった」
相当自信があった攻撃なのだろうか。ただの長剣に受け止められたことにショックを感じているような顔をしていた。
「俺の身体は特別だからな。剣で俺に勝てるやつはいねぇんだよ。てか、お前めっちゃ残機減ってるじゃねえか。今日は早く撤退するか」
「おい待てよ行かせる訳ねえだろ。そいつは俺が殺す」
逃げようとする二人に怒りが隠せないのか、ダンピールの男は再び血の爪を生成して構える。すると、『第二位』は不気味に笑って長剣をその男に向けた。
「一撃で鎮めてやるよ」
構える長剣に紫のエネルギーを纏う。地面の草はだんだん燃え始め、熱気を帯びた空気が喉に入って呼吸がしにくくなる。
ドォォン!
爆発のような音がして一閃を放つかの如く、長剣と血の爪が衝突する。紫のエネルギーで強化された刃は、血の爪を溶かすような斬撃が起こる。
「――!」
「なっ……」
その斬撃は爪を燃やし尽くし、ダンピールの男の肉体をも切り刻み、深刻なダメージを与えたのだ。
「クソ……が……」
「意外と面白い奴だったな。そこそこ楽しかったぜ。セルヴィ、帰るぞ」
「あ、ああ……」
「待……て……」
その言葉も届かず、『第二位』と『第四位』は先に歩いて行ってしまった。
深刻な傷を負わされたダンピールは、脳が切れたように気を失ってしまった。
◆◇◆◇
(やっぱり……近くにいる……)
ラインたちから離れたアッシュは山を走っていた。 それは、セルヴィと戦っていた場所と近いところだ。
彼がわざわざそこまで走っている理由、それは――
「……まじか」
「昨日ぶりだね」
昨日、アッシュを学園で倒した『第二位』の男がいたからだった。
「俺が心身共にへし折ったと思ったんだがな」
「切り刻まれた傷を治療してくれた神様がいてね。心に関しては親友がいるから大丈夫」
「そうかよ。で? 今度は俺を倒しに来たわけか? 昨日負けたのにな?」
一々腹が立つような事を言われるが、アッシュの表情は何一つ変わらず怒りがその男を見つめている。流石の気迫に押されたのか、『第二位』の頬に冷や汗が流れる。
「僕は君を絶対に許さないよ。ねぇ、お父様」
両者の持つ青みがかった銀髪が、風でなびいた。
◆◇◆◇
その頃天空では『知恵の神』アステナ、『時間の神』アスタリア、『空間の神』スピリア、『生と死の神』アリシアス、『夢の神』フォカリナが神殿にて恋バナを披露していたのだ。
「へーじゃあアステナは最初ラインくんが怖かったんだねー」
「元々私たちの力はアルケウスから与えられたものだろう? だからそれを奪いに来たのかと思ってさ。でも色々話してみると信用できるようになったんだ」
「貴女そんなに饒舌だったっけ? いつも口数がもう少し少ないのに」
ラインの事について話すといつもより口数が多くなるアステナを「そんなに好きなんだー」というように四人は頷きながら聞いている。
「『知恵の神』が恋愛に疎いなんてすごく面白いじゃないか。ボクは『生と死の神』だから生命の愛についてはかなり理解してるんだけど、神の愛に関しては知らないからもっと教えてよ」
と、興味深く顔を近づけながら話を迫る。アリシアスも普段は無表情で無口なタイプなのだが、知らない事に対しての探究心は『知恵の神』であるアステナと同等くらいだ。
どんどん顔を近づけられ、アステナは顔を真っ赤にしながら呟く。
「その……昨日はライン君の屋敷に泊まってさ。妹のセツナちゃんも来てしまったけど一緒に寝ることができたんだ。他の人と寝るのは君達ぶりだし、スピリアを抜いたら初めて男の子の部屋に入ったんだ」
「僕は抜かれるんだ!? まあ僕達はお互いそういうのを気にしてないからね。それでそれで?」
どんどん顔を近づけるアリシアスとスピリアの後頭部を叩き、アスタリアは二人を自分に引き寄せる。
「こら、アステナ困ってるじゃん。ちょんとしなさい」
「「はーい」」
姉に甘えるようにアスタリアの肩に頭を乗せるスピリアと、スピリアの真似をして頭を乗せるアリシアス。そんな二人をフォカリナは空を浮かびながらクスクス笑っていた。
そして、さらにアステナの恋バナが始まろうとしていた――
読んでくれてありがとうございます!
実は、この作品の外伝作品も投稿しています! いずれ本編でも出てくるようなお話を載せていくつもりです!投稿頻度は本編に比べて落ちますが、面白い話を書くつもりなのでそちらも是非よろしくお願いします!
Nコードは「N4561KV」です!




