第41話『幼馴染の戦い方』
血描写あります。お気をつけて
「さよならだ。『剣聖』アッシュ・フェルザリア」
【十執政】『第四位』セルヴィ・ミレトスに放たれた紫色のエネルギーが、『剣聖』に炸裂しようとしていた――
◆◇◆◇
「なぁなぁロエン、『剣聖』ってどんな感じだった?」
【十執政】の会議が終わったあと、セルヴィは『第七位』のロエンにダル絡みをしていた。
肩に手を置き、ぎゅっと力が込められてロエンの黒銀のロングコートが伸びそうになる。
「手離してください。このコートお気に入りなので」
「あぁ悪い悪い。それで教えろよー『剣聖』ってどんな感じだったんだ?」
「別にあなたに教えることはないです。『第二位』に聞いたらどうですか? 彼の方が私よりわかっているはずですが。では」
セルヴィが声を出すより先に、ロエンは黒い羽根の霧に飲み込まれて消えていってしまった。結構他のメンバーにも優しいロエンだが、セルヴィにだけは態度がきついことをセルヴィは理解している。
今回も仲良くしようと思ったが、上手くいかなかったようだ。頭を抱えていると、後ろから青みがかった銀髪の男――【十執政】『第二位』が歩いてきた。
「ハハハッ! お前、ロエンにめちゃくちゃ嫌われてるじゃねえか。ドンマイドンマイ」
「あいつ俺にだけ当たり強いんだよな。まあいいや。で、あんたから見て『剣聖』のガキはどうだった」
少し背が高い『第二位』を見上げて腕を組む。すると、彼は不敵に笑って右手を構えた。
ゴォォォ……と燃えるような音が鳴り響き、紫色のエネルギーが彼の手のひらに現れる。
「この身体を持ってしても手こずったんだがな。俺ら【十執政】にある呪いの力で鎮めたんだよ」
◆◇◆◇
瞬間、紫色のエネルギーが巨大な音を立てて爆発した。周りにある木々は燃え、爆発の影響で空が白くなり視界が悪くなる。
『剣聖』の攻撃は届かず、連撃も始まらない。白くなった空間で、セルヴィは目を擦りながら立ち尽くす。
「ハハハッ! 本当に一撃で鎮んだな! でも結構やる男だったな。『剣聖』の『権能』を持ってないくせに」
大笑いしながら溢れ出てくる笑い涙を袖で拭く。
「――フリーズニードル」
刹那、氷の針がセルヴィの頬を掠めた。
「な……まさかこれを喰らってまだ立つの……か」
白い霧が段々と晴れていき、二人の男が立っているのが分かる。目の前にいたのは青みがかった銀髪の少年と銀髪の少年だ。
その銀髪の少年の正体は――
「お前は……」
「誰だか知らねえが随分長い間アッシュと戦ってたみたいだな」
それは、『剣聖』の幼馴染である『魔導師』だった。
「まさか、今の技を受けて立てるのか? どうなってる……」
「バカ正直に喰らうわけないだろ。無敵時間中の俺にダメージは与えられない。アッシュと紫のやつの間に割り込んだんだよ。だから俺もアッシュも無事ってわけだ」
グレイスの言葉を聞き、彼の後ろを見ると『神剣』に体重を乗せて立っているアッシュがいた。
「さーて続きだ。ルミナス・アロー!」
光魔法が詠唱され、グレイスの手先が一瞬光る。すると、彼の後ろに光の矢が大量に現れた。
だがそれだけでは終わらない。次々に召喚される属性魔法がセルヴィに襲いかかる。
「ハハハッ! どんな魔法だろうが残機のある俺は何度でも蘇るんだよ!」
残機のせいで死ぬ覚悟ができているセルヴィは攻撃を避けるということをしない。そのため、今グレイスが放った魔法も全て受けたのだ。
拳に紫色のエネルギーが収束し、一撃が放たれようとしている。
「無敵の俺のは通用しないって」
無敵のグレイスにいとも簡単に手で防がれ、セルヴィはもう一度放とうとする。しかし、その手は魔法で拘束されて動かせなくなっているのだ。
「う、腕が動かせねぇ! ってか、『剣聖』はどこ……」
それを言い終わる前に後ろに現れた『剣聖』によって上に向かって蹴り飛ばされてしまった。
「な、なんで俺を蹴飛ばしたお前の方が俺より上にいるんだよ!?」
自分を蹴飛ばした『剣聖』の方が自分より高い場所にいるのを見てセルヴィは驚きの声をあげる。
「『神剣』ヴィザレストと《超加速》のおかげだよ。この剣を持っている間は超高速戦闘が可能になるからね」
《超加速》の『権能』と初代『剣聖』が『雷神』作ってもらった『神剣』ヴィザレストのおかげで身体能力が超強化され、素早い戦闘を展開できるようになったのだ。
セルヴィより上にいた『剣聖』は雷の『神剣』で彼を叩き落とし――
「ガハッ!? これは、氷と炎の!?」
《空間操作》で出現させた炎と氷の『神剣』を突き刺したのだ。
「結構エグい事するよなお前」
「まだ優しい方だと思うけどね。グレイス、行くよ」
『剣聖』に少し恐怖しながらも『魔導師』は再び杖を構える。
ふとセルヴィの頭上を見る。先ほどまでこの世界の文字で60000と書かれていた残機は今の戦闘でどんどん減っていたのだが、遂に20000まで減っていたのだ。
「おい、お前の残りの命は二万らしいがまだ戦えると思ってんのか?」
「は? 二万? まさかそん……な」
確認してなかったのか、セルヴィは自分の数字を見て身体が震えている。そして怒りを込めた瞳でアッシュたちを見つめ――
「お、お前らぁ!! 俺の残機をここまで減らしやがって……?」
「僕に戦いを挑んだのは君なんだから悪いのは君だろ?」
一瞬の間に雷の『神剣』で切り刻まれ、また100減った。
「おいアッシュ。 ――」
「わかったよ。じゃあ行くよ」
何を話したのか、セルヴィには聞き取れなかった。だが何かしらセルヴィを脅かす攻撃をするということだけはわかる。手のひらに紫のエネルギーを収束させ、セルヴィは二人の動きを待った。
「インフェルノ! ウィンドカッター!」
『魔導師』に放たれた炎魔法により、空間が燃えるような熱気を放ちながら周囲に火柱が立つ。さらに、風魔法により風の刃が空気を斬るように真っ直ぐ進んだ。
流石に残機が減るのを恐れたのか、セルヴィは走って次から次へと向かってくる風の刃を避け、地面から出てくる火柱を命からがら避けていた。
そしてそこに――
「避けんなよ。今まで全部喰らってたんだから大人しく喰らおうぜ?」
「ど、どうやって!?」
急接近したグレイスがセルヴィの腰に足を絡め、セルヴィは足を踏み外しそうになりながらも走り続ける。
『剣聖』の速さなら可能だろうが、『魔導師』に一気に距離を詰められたことに驚きが隠せない。
「驚くよな? お前の方向に向かってアッシュに蹴り飛ばしてもらったんだよ。無敵時間中の俺にダメージはないからな」
「狂ってる……ていうか、俺に抱きついてどうする気だ? 振り落とすことだって……」
そこまで言って、セルヴィは言葉が止まった。身体の中で違和感を感じたのだ。それは全身から溢れ出る恐怖心といったものか。こいつをなんとしても振り落とせ! と、全身が言っているように感じる。
途端にグレイスが詠唱を始め、魔力が杖に集中し魔法陣が出来上がり――
「お前、何をする気……」
「――エレメントキャタスト!」
炎、水、氷、風、雷、光の属性エネルギーを貯め、それを対象に向けて一気に放出する『魔導師』の家系オリジナルの魔法が、その命を刈り取るように一気に放たれた。
セルヴィの断末魔が聞こえ、エネルギー砲が何度も何度もセルヴィの命を燃やし尽くし――
「はぁっ!」
《超加速》で追いついてきた『剣聖』に勢いよく蹴り飛ばされたのだ。
「はぁ、はぁ……こ、こんなバカな事があるか!? 俺がここまでやられるなんて……ありえない!」
――セルヴィの頭上にある数字は既に、2000になっていた。
「あと二千か。グレイスはまだ動ける?」
「ああ、ちょっとだけだがな」
エレメントキャタストを使った反動で身体が動かなくなるのはいつものことだ。だが、『魔導師』の『権能』による無限の魔力のおかげで彼は全身を何度も修復する事が出来る。
明らかに動揺している。先ほどまでの態度とは正反対だ。自分の残機を見て震え、足がだんだん後ろに下がっていく。
「はぁ、はぁ、はぁ……」
突如、こちらに向かって走ってきた男に三人は目を向ける。すると、その男も何やら驚いた感じであった。
「な、なんなんだよ!? 変な赤髪の女に追いかけられてよくわからないやつに捕まえられて……店主に謝ってここまで逃げてきたのに……。なんでまた人がいるんだよ!」
「何言ってんだお前」
「君は危ないから離れた方――」
その男を逃すように手を振った。しかし、それより先にセルヴィの放った紫のエネルギーが炸裂し、その男は絶命した。
「お、お前、何して――な……」
アッシュとグレイスは一瞬の出来事に驚き、再びセルヴィの方を向く。この男を逃すわけにはいかないと。
だが、二人は彼の頭上を見て時が止まるように動きが止まった。
「残機が……増えてる……」
2000まで減らした残機が、2001になっていた――
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