第40話『『剣聖』の戦い』
血描写あるので気をつけて
――アリシアスは何かを感じた。それは地上で一つ命が尽きたということだ。だがしかし、燃え尽きた命は同じ肉体で再び生を成した。普通ではあり得ない、自然の摂理に反する事だった。
「『生と死の神』のボクからしたら、そんな『異能力』を認めるわけにはいかないんだけど……どうしたものか」
アリシアスは腕を組んで落ち着いているように見えるが、つま先をなん度も地面に叩きつけたりため息をつきまくっているのでかなりイライラしているに違いない。
この様子から察するに、前みたいに心臓を貫かれても復活! のようなことをしたらめちゃくちゃ怒られるだろう。
「ねーあんまり足ドンドンしないでよー。まだぐっすり寝てたのに……」
また新しい女性の声が神殿の方から聞こえて来た。声がする方に振り向く。
そこには、ふわふわして柔らかそうなラベンダー色のドレスを身に纏い、腰まで伸びている銀髪には星型のヘアピンがいくつも散りばめられている。
「フォカリナ……今頃起きて来たの?」
「別に良いでしょー? あれ、アステナもいるじゃん。それとそっちはもしかして?」
スピリアにフォカリナと呼ばれたその少女は、雲のようにふわふわしているものに座って浮かんでいる。
柔らかそうな雰囲気を持つ藍色の瞳に見つめられ、ラインは一瞬で身体の力が抜けそうになる。
「あ、ごめんごめーん。力切ってなかったよ。これで大丈夫かな? あたしと目を合わせたらみんなすぐ寝ちゃうんだよねー」
「アリシアスと同じことしてるじゃん。流石は姉妹。正反対なのに」
しれっとアステナがそう言い、ラインは二人の顔をよく見る。目を見たら背筋が凍るような恐怖感を持つアリシアスと、全身が心地良くなって眠ってしまうフォカリナ。
正反対な二人だが、確かに似ている。
アリシアスは赤色の目、フォカリナは藍色の目という違いはあるが、髪色は同じだし顔もよく似ている。
「姉ちゃんは怖いからねー。お姉ちゃんと同じくらい怖い。寝ているあたしを無理やり起こそうとするし」
「うるさいな。姉さんはそんなに怖くないでしょ? あとずっと寝てるフォカリナが悪いんだから。全く」
意外と普通の姉妹なんだなと思っていると、ふわふわ空を浮かびながらラインに近づいてきた。
「はじめまして。あたしは『夢の神』フォカリナだよ。仲良くしてねーラインくん」
「あ、どうも。よろしく……お願いします」
フォカリナはラインの周りを何度もグルグルとして、やっと止まった。
「へー前見た時よりけっこー大きくなってるんだねー。最後に見たのはアスタリアをラインくんの夢に送った時だからなー」
「『夢の神』ってそんなこと出来るんですね……」
「へへへー便利でしょ? こんなことも出来るんだー」
そう言って指をパチンと鳴らす。しかし、数秒経っても何も怒らないため、ラインは首を傾げる。
「エルフィーネ・モランジェちゃん? で合ってるかな? ラインくんのメイドの子に今のあたしたちの状況を夢で送ったんだー。ついでに起こしてあげたよ。なんか眠らされてたみたいだねー」
「あ、エルフィーネを? ありがとうございま――」
エルフィーネを起こしてくれたことに礼を言おうとすると、アスタリアがフォカリナの頬を掴んで引っ張った。
「ちょっと何してるの!? ライン君はともかく人じゃんその子! わたしたちは神様。そう易々と人にわたしたちの姿を見せて良いわけないでしょーが」
「うわー! ごめんなさいー! 姉ちゃん、見てないで助けてよー」
「これはアスタリアが正しいよ。そのまま引っ張られときなさい」
頬が伸びて伸びてめちゃくちゃ柔らかい。アリシアスに「姉ちゃんのケチー」と言うような目を向けながら引っ張られ続けていた。
その場にいる全員がそれに笑っていると、突如アリシアスが声を上げた。
「一体何回命を落とした? あの男は……」
◆◇◆◇
「はぁ、はぁ、はぁ……」
一体何回剣を振ったのか、何時間戦っているのか、何回この男を斬ったのかもう分からない。人がいなくて木に囲まれているこの場所で、『剣聖』はある男と戦っていた。
「そろそろ体力が切れてきた頃じゃねえのか? ハハッ! まさか偶然『剣聖』を見つけられるなんて付いてるぜ!」
「僕に、一体何の用? 君とは会ったこともないはずだけど。何も言わずに戦うことしかしないね」
「俺は【十執政】『第四位』セルヴィ・ミレトスだ。昨日他のメンバーが世話になったらしいなぁ?」
「チッ……」
彼の言う他のメンバー。それは、アッシュのいるチームAに来た『第七位』ロエンの事ではなく、ラインを助けに行く途中でアッシュを襲った『第二位』の男のことを言っているように聞こえる。
「可哀想だなぁお前。わざわざ何年も剣降ってきたんだろ? 全部が無駄なんだよ! ――あ?」
「……うるさい」
長剣に心臓を一突きされ、吐血しさらに全身から血が溢れ出る。だが、傷はすぐに塞がり再び立ち上がった。
「よくもまあ簡単に他人を斬れるよなぁ。俺には理解できない――ぜ」
スパァン!
「無駄なんだよ。何度俺を殺しても俺は復活するからなぁ!」
「一体、君はなんで死なないんだ……」
何度剣を振ってこの男を殺しても、瞬きする間に生き返ってしまう。自然の摂理を超えたこの男をどうやって倒せば良いのか。そんな考えが『剣聖』の頭をよぎる。
「なんで死なねえのか気になんのか? 仕方ねえな。《再誕の輪》」
『異能力』を唱えると、彼の頭上に数字が浮かび上がってきた。そこにはこの世界の言葉で60000と書かれていた。
「その数字は……一体」
「これは俺の残機だ。つまり俺はあと六万回生き返れる! 六万回も俺を殺すことができるのか? この三時間で、俺はまだ一万回しか殺されてないぜ?」
「だったら、もっと早く殺せば良いだけだろう? 《空間操作》」
異空間の武器庫を出現させ、右手を突っ込んだ。アッシュが腕を引き上げると、空間が燃えるように熱くなり汗が流れ出て来る。
炎のように燃えた剣――『神剣』アグナシスを構える。
「《超加速》」
「な、どこ行きやがった!? 出てこい! な、ひだ――り」
パシュュゥン!
炎の斬撃がセルヴィを襲い、その命はことごとく燃やされていく。頭上に表示されている数字は、先ほどよりも早いスピードで下がっていっていた。
「テメェ! ふざけるんじゃねえ!」
周りをグルグルと移動するアッシュに向けて魔法を放つが、全て燃やされて無意味になる。
――『神剣』に鞭のようにしなる件剣がまとわりつく。
「この剣は……」
「ロエンに借りてて良かったぜ。炎への耐性がついてるから簡単には燃えないしな! あとは――ガハッ!?」
『神剣』をつ拘束し、余裕を持った笑みを浮かべていたセルヴィの背中を何かが貫いた。
「あ、あいつ今度はどこ行った!?」
『神剣』は絡まれたまま上空に残っている。しかし『剣聖』はそこにいない。『剣聖』がいるのは――
キィィィン……!
薄氷を覆った剣により、真正面から心臓を突き刺された。その一撃で身体の内部から凍っていき、とてつもない痛みがセルヴィを襲う。
「残機がどんどん減ってるよ」
「テメェ…! この剣は一体……」
「これは『神剣』フロストリア。初代『剣聖』が作ってもらった七本の『神剣』の一つだよ」
ドォォン!
雷魔法を放たれ、アッシュはギリギリ《超加速》で後ろに下がった。
『神剣』フロストリアに数秒突き刺されただけだが、今の一突きで残機は30以上減っている。
『剣聖』は上空に飛び上がり、『神剣』アグナシスを絡めている剣を凍らせ――
パリィィン!
破壊した。そして出てきた炎の『神剣』を――
「はぁっ!」
「グハッ!?」
『神剣』が蹴り飛ばされ、セルヴィの身体を燃えるように貫いた。
「また、あいつはどこに――」
炎と氷の『神剣』を持った『剣聖』の一撃が、後ろから接近していた――
読んでくれてありがとうございます




