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第38話『天空の神々』

第三章開始!

 ――セツナ、レンゲ、アステナと共に食卓に向かい、それぞれ席に座る。すでにテーブルには豪勢な料理が並べられていた。


「何この料理!? 凄い……めっちゃ美味しそう」


「ありがとうございます。どうぞお食べください」


 誇ったような顔をするセレナに微笑みながら目の前にあるスープを飲む。


「美味い……」


 その場の全員がそう口に出し、セレナはさらに誇らしそうにしている。


「ライン様、本日は学園に行くのでしょうか?」


「行ったほうが良いんだけど……。いろいろ気になる事あるし休むつもりだ。アレスたちはどうする?」


「僕たちも休むよ」


 アレスの言葉に、セツナもレンゲも頷く。すると、エリシアが話し始めた。


「私はもう少ししたら家に帰るね。昨日はありがと」


「じゃあ私はエリシアちゃんを家まで送るよ! アレスお兄ちゃんも一緒に来ない?」


「良いよ。レンゲ一人なのは心配だし」


 ――そんな話をしながら十数分後、全員が朝食を終えた。

 アレスとレンゲはエリシアを家まで送りに行き、セツナはラインの部屋に戻ってベッドで寝ている。

 ラインは他愛のない話をしながら、素早い手捌きで食器を洗っているセレナを手伝っている。


「そういえばセレナは今日どうするんだ? 聞くの忘れてた」


「エルフィーネが起きるまでずっとそばにいるつもりです。まああと数時間もすれば起き上がるはずですが」


「エルフィーネの事好きなんだな」


「ええ。子供の頃からずっと一緒でしたし、双子みたいに思ってますよ。よし、全て洗い終わりましたね。手伝ってくださりありがとうございます、ライン様。では」


 セレナはラインに深々と頭を下げてすぐさまエルフィーネの部屋に向かっていった。


「で、うちの屋敷に来た理由を聞こうか。あとイグニスさんたちはどうなったんだ?」


「イグニスたちはあの後屋敷に戻ったよ。怪我もしてないし、特に問題は無いんじゃないかな。で、ここに来た理由だけど……」


 アステナは続ける。


「少しだけ私に付き合って貰いたくてね。……あ、付き合ってってそういう意味じゃないからね!? た、ただ一緒に来てもらいたいところがあるんだよ」


 頬を少し赤らめながら、そう口にしてラインをじっと見つめる。


「良いけど、どこに行くつもり……って急に何だよ!?」


 小さいため息をついてそう答えると、すぐに目元が布で覆われて視界が塞がれてしまった。


「悪いけど目隠しさせてもらうよ。一応ね。一回外に出ようか」


◆◇◆◇


 アステナに手を引かれて屋敷の外に連れ出される。目隠しのせいで周りは何も見えないが、陽光が当たって少し身体が重く感じる。


「私の手をしっかり握ってて」


 アステナの指先から光がほとばしる。それはただの魔法ではなく、彼女の『知恵の神』の力だった。

 その光はだんだんと上昇いていき、やがて雲をも貫いて天空への光の道が出来上がった。


「じゃあ行こうか――え?」


 たった一度、瞬きをしただけだ。光の道にも乗っていない。それにも関わらず、空間が一気に変わったのだ。

 群青と金に分かれた空に加えて、星のような光が滝のように流れている。

 さらに目の前には白銀の神殿が連なっていた。


「これは……。はぁ、そっちから招待してくれるとは思わなかったよ、スピリア」


「だってアステナがここに来ようとしただろう? だから僕は手伝っただけだよ」


 神殿から歩いてきたのは、金髪の美青年だった。真っ白のパーカーは、大きなフードとゆったりしたシルエットで星が流れるようなイメージを感じさせる。


「アスタリアはいるかな? 気になる事があってね」


「うん、姉さんならいるよ。ちょっと待ってて。――って、来てたし」


 金髪の彼が神殿の方を向くと、その奥から金髪の美少女がゆっくり歩いてきた。


「久しぶりアステナ。百年ぶりかな? おっと、その隣にいるのはもしかして……」


 銀色に光る砂時計のような模様が散りばめられたドレスはふんわりと広がり、時の流れを紡ぐようなものを感じさせる。


「そう、ライン・ファルレフィア君だよ。君も知ってるだろうけどアルケウスの息子だ」


「ちょっとアステナ? アルケウス"様"って言わないと。わたしたちが許さないよ?」


「面倒だね。そもそもアルケウスからは敬語や敬称はいらないと言われているだろう? 私はそれを素直に聞いているんだけど」


 両者の声が聞こえるが、目隠しをされているラインには視覚情報が何もないため、どこにいるのかすら分からない。しかし、その女性の声は昔聞いた事があるような気がしていた。


「それでもわたしたちはアルケウス様に生み出された存在だから。はぁ……まあ貴女は何を言っても聞かないだろうし良いよ。それで、要件は?」


「君は【十執政】って組織を知ってるかい? 私も一昨日知ったばかりなんだけどね」


「【十執政】か……。フッ、『知恵の神』なのに最近知ったなんて。平和に暮らしてたんだ。もちろん知ってるよ。そして貴女が聞きたいことも分かった」


 アスタリアは腕を組むと少しニヤけてアステナを見つめる。


「『第一位』の彼は未来を都合よく変えたり過去を改変する事ができる『異能力』というものを持ってたんだ。あんな力を君が見過ごすわけがない。あれは君が与えたのかい?」


「まさか。過去や未来を改ざんするなんて、『時間の神』のわたしからしたら許されない行為だ。だから何度も干渉してるんだけどちょっとした邪魔しか出来ないんだ。もちろん昨日も干渉したんだけどさ」


 久しぶりに会えたからか、楽しそうに話す声が聞こえる。しかし、訳の分からない場所で訳の分からない女性が話しているのを終始聞かされていたラインが不安そうな顔をしていることに気づく。


「アステナ、その子の目隠し取っていいよ。ていうかなんで目隠ししたの?」


「だってアリシアスがいるかもしれないだろう? ――これでよし」


 アステナによって目隠しが外され、視界には綺麗な空や宮殿が見えてくる。そして、目の前にいるアスタリアの顔を見た。


「わたしは『時間の神』アスタリア。はじめまして……じゃないね。一回夢で会ったかな?」


「あ、は、はい。前に夢で同じ声を聞いた気が……」


 まだ彼が子供の頃、一度だけアスタリアが彼の夢に出てきた事があるのだ。顔は今見るまで分からなかったが、その声は脳裏に染み付いていた。


「あの日、貴方は『創世神』の力で時間を改変しようとしたね。それが上手くいかなかったのはわたしが干渉したからなんだ」


 その日、ラインはセツナとちょっとした喧嘩をしてしまい、喧嘩をする前に時間を戻そうとしたのだ。残念ながらそれは上手くいかず、夢に出てきたアスタリアに注意喚起のようなことをされたのだ。

 それ以来、ラインは時間を改変する事をしようとすることは無くなった。


「本来なら許す訳にはいかないんだけど、貴方もわたしたちと同じで神様だしアルケウス様の血を引いてるから特別扱いってところかな。普通の者が時間をいじったらもう……ね?」


 声色は明るいが、恐ろしい事を言っているアスタリアに戦慄する。


「えっと、じゃあ何でソールは許されてるんですか?」


 ラインの問いに、少し困ったような顔をして話し始める。


「何度もあの男を消そうとしたんだけどね、あれは神の力と悪魔の呪いに助けられている」


「悪魔?」


 その言葉に耳を傾げると、今度は背後から声がした。


「あなたがアルケウス様の血を引いた子? 会ってみたかったんだよ」


 振り向くと、銀髪の美少女が歩いてきた。

 その女性は、淡い桃色と黒がゆるやかに溶け合うドレスを着ていて、その裾には桜の花びらと羽根の刺繍が交互に揺れている。


「ゲッ……いたのかい、アリシアス……」


「ゲッって酷いな。ボクは君と久しぶりに会えて嬉しいのに」


 腕を前で組み、ジロジロとアステナとラインを見る。

 その女性の赤い目を見ると、背筋が凍るような感じを覚えて心拍数が上がる。


「あ、ごめん。力を切ってなかった。 ――これで大丈夫?」


 再び目を見ると、先ほどの恐怖心は全く感じなくなった。


「毎回君と目を合わせる度に身体がゾクゾクするんだよ。本当に心臓に悪いね」


「じゃあアステナの死をもらおうかな?」


「君が言うと冗談に聞こえないんだけど……」


 肩を落とすアステナを笑顔で見つめるスピリアとアスタリアを交互に見た後、アリシアスはラインに目を向けて「言いたかった事が……」と話し始めた。


「あなた、この間ルシェルって男に心臓を貫かれたでしょ? でも『創世神』の力で生き返った。今回は見逃したけどできるだけ気をつけてね」


 『神龍オメガルス』と戦った時の事を言っているのだろうが、次はないぞと言わんばかりの威圧感に再び戦慄し、足がすくんでしまう。


 ラインはあまり他に対しての恐怖心がないのだが、アスタリアとアリシアスにはそれを超えるものを感じさせられる。


「……ん? またあの男か。死をなんだと思っているのか……」


 と、アリシアスは呟いたのだった――

読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
アステリアとアリシアスは格上の存在なんですね。 ラインがビビるのは余程の存在なのかと。 学園の生徒と四兄弟はかなり実力差があるし、普通の学園生活は難しいかな? 今後は十執政とのやりとりがメインなのかも…
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