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第2話-2『吸血鬼vs『煌星の影』』

「ま、待てって! 落ち着け!」

 

「うるさい黙れ! サンダークラッシュ!」


「――っ!」


 先程より荒々しい戦い方のレオにラインは防戦一方だ。雷魔法を放たれ、高出力の落雷がラインを襲った。


 ラインは顔をしかめたが、負った傷は吸血鬼特有の再生力で瞬く間に治癒していく。火傷で焼けた肌が新しい肌に置き換わっていく様子に、周囲の生徒からは驚きの声が上がった。


「ハァッ!」


 ラインはレオを蹴り飛ばし、撃たれた炎魔法を『創世神』の力で消滅させた。

 続けて周囲の空間を変容させ、陽光が差し込む魔法実習場を一気に夜に変えた。

 

「周囲が急に夜に……」


 生徒たちは驚きながらも、両者が本気を出すことになったと認識し、先ほどよりもさらに興奮を高めていった。

 赤髪と緋色の瞳から、茜色の髪と瞳に変わったラインを見て、レオは息を呑む。


「やっと本気で戦う気になったか!!」


 レオはもう一つの『権能』、《獅子の咆哮(ししのほうこう)》を発動させた。体から金色のオーラが放出され、驚異的な身体能力と魔力の上昇を果たす。


 二人はもはや周囲の生徒が目で追えないほどの速度で動き回り、激しく戦闘を繰り広げた。空気を切り裂く音、魔法の爆発音、そして時折見える血液の剣とレオの拳のぶつかり合いだけが彼らの存在を示していた。


 ――三分後、突如として静寂が訪れ、レオの体が重く地面に落下した。


「おおおおお!! 吸血鬼の野郎強えじゃねえか!!」


 周囲から歓声が沸き起こる。誰もがラインの勝ちだと確信していた。

 しかし、レオはまだ諦めていなかった。彼は最後の力を振り絞り、身を起こした。


「これで終わり……だ」


 彼は両手を前に突き出した。

 瞬間、大きな爆撃のような音が鳴り響き、レオが《獅子の咆哮》で上昇させた魔力をすべて注ぎ込んだ渾身の魔力砲をラインに向かって放たれる。

 

 眩い光が実習場を包み、視界を奪う。


 ――放出が終わった後、ラインがいた場所には何も残っていなかった。生徒たちは驚きつつも、勝敗が決したとばかりに拍手を送った。


「さすがの威力だな……」


「これで終わりかー」


「まじで死んじゃったの? 大丈夫だよね……?」


 ――誰もがレオの勝ちを確信した瞬間、ラインの声が響いた。


「――俺の勝ちだ」


「っ!?」


 レオが振り向いた瞬間、彼の胸元に鋭い刃が迫っていた。


 ラインは血液から作り出した真紅の刃をレオの心臓に向け、正面から突き立てた。レオは目を見開き、そのまま地面に倒れ込んだ。


「え!? あいつ生きてるぞ! 今度はレオが死んじまったか!?」


 周囲が騒然となる中、ラインは穏やかな表情でレオに近づき、治癒魔法を施した。光に包まれたレオの傷が癒え、ゆっくりと目を開いた。


「……なんで」


「……別に。俺は殺すつもりなかったし。一度倒せば大人しくなると思ってさ。それに……」


 彼が親指を向ける方向にはレンゲがいる。


「俺の妹は争い事が嫌いだからさ」


「……はぁ」


 レオは言葉を失い、静かに身を起こした。ラインは真剣な眼差しでレオを見つめ、尋ねる。


「それで? 吸血鬼をそんなに恨む理由、聞いていいのか?」


 レオは地面に視線を落とし、重い口調で語り始めた。


「……五年前、俺の故郷の村に一人の吸血鬼がいたんだ。そいつは一年くらい村で生活して村の人達と仲良くしていた。でもある日、俺が村に帰ったら村が……血の匂いで染まってたんだ」


 彼の声は震え、目に涙が浮かんだ。


「すぐに家に帰ると家族が全員殺されてたんだ。親も、兄も! そして……一番大事だった妹も!! その時後ろからあの吸血鬼の声が聞こえてきたんだ」


 彼は涙が流れるのを止めずに話を続ける。


「俺は『なんでこんな事をしたんだよ! 仲良く一緒に遊んだりもしたじゃないか!!』って。そしたら『俺たちと仲良くしてたのは油断した俺たちを殺すためだった』って言われたんだよ」


 レオは拳を握りしめ、地面を殴りつけた。顔を怒りで真っ赤にし、涙を何とか抑えて続ける。


「恐怖を通り越して絶望した俺も殺されそうになったところを通りかかったカイラス先生に助けられた。俺は先生の養子になってここに入ったんだ……」


 周囲の生徒たちも駆け寄り、レオの話を聞いて多くが涙を流した。悲しみと怒りの理由を知り、彼を理解する目で見つめている。


「俺は、ただお前が吸血鬼ってだけでお前のことが許せなかった。だから……悪かった。誤解してたんだ。吸血鬼って存在は全部悪だって」


 先程までとは態度が変わり、レオは素直に謝罪した。


「……なるほどな。まあそういうことなら……」


 ラインは静かに右手を差し出した。

 レオはその手を見つめ、少し迷った後、笑いながら握り返した。周囲の生徒たちからは大きな歓声が沸き起こる。


「ただ、殺すとか言われたのは納得してないけどな」


 ラインは冗談めかして言うと、レオは照れくさそうに頭をかきながら呟く。


「悪かったよ」


 アッシュとグレイスも近寄り、ラインの肩を叩く。


「ったく、びっくりさせるなよお前ら」


「両方とも死ななくて良かったよ」


 同時に、アレス、セツナ、レンゲもラインに向かって駆け寄ってきて、レンゲが抱きついてくる。


「ラインお兄ちゃん!!」


「うおっ!」


 緋色の瞳を潤ませながら、レンゲは必死にラインの体を調べる。


「大丈夫、ラインお兄ちゃん! 怪我はない!?」


「お前はいつも心配しすぎだ。もう全部治ってるよ」


 ラインは優しく妹の頭を撫でた。


 恐る恐る近づいてきたレオがレンゲに向かって声をかける。


「えっと……君はラインの妹? 悪かったな……」


 レオがレンゲに謝罪すると、レンゲはラインの背中に身を隠し、牙を剥き出しにしてレオを睨み続けた。まるで、それ以上近づいたら襲うと言わんばかりの圧で。


 アレスが微笑みながらセツナに尋ねた。


「セツナ、あれは威嚇かな?」


「レンゲは私たちが傷つくのを見たくないからね。その元凶は許せないだろうね」


 セツナは赤い髪を風になびかせながら答えた。彼女とアレスが笑いながら話し、ライン達の元に合流する。


「まあ死ななくて良かったよ、お兄ちゃん」


「死なねえよ」


 ラインは余裕そうに妹の目を見つめ、妹もまた、信じているような目で見つめていた。


「そうだよ、セツナお姉ちゃん!!」


 そんなラインにレンゲも同調して声を上げる。


「はいはい。わかりました」


 セツナは両手を軽く上げて降参のポーズを取った。アレスがセツナの肩に手を置き、互いに見つめ合って笑った。


――決闘が終わり、四つ子とレオたちの新たな友情の始まりを見て、周囲の生徒たちも笑顔に包まれていった。


 『剣聖』と『魔導師』と友達になり、彼らの輪が広がっていく。これから始まる学園生活は、予想以上に波乱に満ちたものになりそうだった。

読んでくれてありがとうございます!

第2話が長かったので、二つに分割させました!

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