第35話『最善の結果』
血描写有りです。気をつけてください
※タイトル変更しました。以前は「【最強だけどデメリットあり!?】『創世神』と吸血鬼の間に生まれた四つ子は無敵の力で魔法学園生活を送ります〜」でしたが、「『創世神』と吸血鬼の間に生まれた四つ子は平穏な魔法学園生活を送りたいんですが、それは許されないようです。」に変更しました。よろしくお願いします
――『煌星の影』レオ・ヴァルディとの決闘が終わった次の日、ファルレフィア家の屋敷で、ラインとアレスは戦闘訓練をしていた。
「押され気味だな……」
二人の血液が何度もぶつかり合い、空に絵を描いているかのように綺麗な血液の紋章ができては崩れを繰り返している。
(血液操作の精度は互角か……俺の技に全部合わせてくるな……)
(兄さんの方が僕より優れてるけど、兄さんのはどこから来るかわかりやすい。左、右、左。次も……やっぱり左だね)
アレスはラインの攻撃を正確に分析し、全てを対処していた。アレスから見ると、ラインは攻撃をしてくる時に何か癖があるらしい。
だが、正直言ってこれはラインと長年一緒に暮らしている兄妹たちくらいしか気づいていないため、そんなに他との戦闘で弱点にはならない。
「折角だし使ってみるか。《創造》!」
生まれつき『権能』を与えられていない四つ子は、魔法学園に入学する時に自らに適当な『権能』を二つ与えた。
ラインが自分に与えたのは、《創造》と《破壊》だ。
その『権能』で剣を生み出し、血液の刃と共に飛ばす。しかし――
「《時間停止》」
アレスの『権能』により、飛ばされた刃は彼の半径1メートルで止まってしまった。
「これ意外と便利だね。でも魔力の消費激しいな……あれ、空が暗く――うっ!?」
遅かった。普段は夜になっても吸血鬼の力を抑えてるため、突然空が暗くなった今、アレスは力を抑えたままだった。そして、夜にした張本人は――
赤毛と緋色の瞳が、茜色に変わっていた。ラインが腕を振ることで、強力な血液の斬撃がアレスを襲った。
「痛っ……反応遅れちゃったな。兄さんはどこに――」
(正面に!? いや、でも兄さんならこのタイミングで刃で来るはず。僕も剣を作って……手を前に出してる!? 何を――)
「――血式・紅!」
「なっ……」
収束した血液が爆発し、それがアレスの右半身を貫いた。まともに喰らってしまったアレスは、血を垂らしながら地面の倒れてしまう。
「に、兄さん……今のは?」
「今のは一体……」
と、なぜか理由も分からぬまま技を開発して、それを炸裂させたことにラインは手を握ったり開いたりして驚いている。
「え、兄さんもよく分かってないの? 兄さんは昔からレンゲと同じで感覚派だもんね。『創世神』の方の技も作れるんじゃない?」
「レンゲはともかく俺って感覚派なのかな……まあ、出来て損はしないし良いか。もう一回……血式・紅!」
と、再び唱えたが、掌には血液の球体も作れず、なんの爆発も起こらなかった。
――既に茜色の髪は元に戻ってしまっていた。そのため、「血式・紅」を使えなかったのだがこの時のラインたちに知る由はなかった。
◆◇◆◇
「創血式・緋」
ロエンの血を少し吸い、一時的に覚醒したラインは、さらに少しの『創世神』の力を出して茜色の髪に白いメッシュが入った。
彼の手のひらから放たれた「創血式・緋」――吸血鬼化状態の技である「血式・紅」と、『創世神』の力を3:2の割合で混ぜたのだ。
「なっ――《反射》!」
ズゥゥン……
「ガァッ!? はぁ……おかしい、なんでだ? 一撃で破られた……」
この世界で、対抗策が無いに等しい『創世神』の力を混ぜたことで、100%の「血式・紅」では破れなかったソールの《反射》を貫通――というより、もはや無視したと言えるだろう。
炸裂した『創世神』の力を混ぜた血液が、ソールの身体を突き破った。
「はぁ、はぁ。治癒魔法が効かない……」
「簡単に回復されても困るからな。だから「書き換えた」んだ。今の技を喰らったら回復できないように」
いくらなんでもやりたい放題だと思うが、さすがは『創世神』の息子と言うべきだろうか。もちろん力の反動が来ている。しかし、それを現在『ラビリンス・ゼロ』に残っている兄妹たちと分けていることで、ラインは今戦えている。
「さすが……万能な『創世神』の力だね……。《未来の選択》」
「今度は何する気だよ……」
「ロエン、右」
「斥力の王」
ソールの言葉を聞いたロエンは、すぐさま右に弾く力を放つ。すると、右から来ていた数本の血の刃は消滅してしまう。
「なるほど。それが未来を最適な方に導く力か」
「そういうこと。《未来予知》の『権能』なんて相手にならないくらいだよ」
《未来予知》という『権能』もあるのだが、それは未来を見ても絶対ではなく、変わってしまう可能性もあるのだ。
しかし、彼の持つ《未来の選択》は未来を見た上に様々な選択が出来、さらに都合の良い未来に導けるのだ。
「馬鹿みたいな力持ちやがって」
「君に言われたくはないんだけど。きついなこれ……」
ソールの全身からは血が滴り、地面は真っ赤になっている。このままなら彼は出血多量で亡くなるだろう。
「てかよく喋るな。お前そろそろ死ぬぞ?」
「うん、確かにね」
と、一度頷いた後再びラインを見つめる。
「《――因果律操作》」
「――は?」
ロエン、サフィナ、ヴァルクの戦闘から見て、【十執政】の持つ『異能力』は二つのはずだ。そしてソールも《反射》と《未来の選択》の二つを使った。
彼は三つ目のものも持っているのだろうか。と、ラインの脳内が働く。だが、本当に驚くところはそこではない。なぜならソールは――
「さてと……。ロエン、サフィナ。ヴァルクを担いで貰えるかな。あ、『凍界の女神』も一応ね。会議に遅れる訳にはいかないんだ。早く戻ろう」
全身が回復――というより、何事もなかったかのように立ち上がっていたのだ。彼の服に付いていた血は消え、地面の流れていた血も消えている。
「どういう……ことだ……。治癒できないようにしたはず」
「それさ、勘違いじゃない? 僕はそんな技は喰らってない。僕が君の技を喰らった「過去」なんてものは存在しないんだよ」
(まさか、俺みたいに事象の改変が出来るのか!? いや、でもそれは『創世神』しかできない! い、一体どうなって……)
と、目の前の状況を信じられず、ラインたちは動きが止まってしまう。だが、その後ろでアステナは何か考え事をしているように見えた。
「ロエン、頼むよ」
「人使いが荒いですね……。まあ良いです」
その瞬間、黒い羽のような霧が現れ、五人を飲み込む。
「またその霧かよ……。創血式・――うっ!?」
限界のようだ。兄妹たちと反動を分けて受けているとは言え、二度も連発して「創血式」を打つことが出来なかった。
茜色の髪に入っていた白いメッシュはどんどん消えていき、ただの茜色になった。
「安心して。多分またすぐ、会うことになるだろうから。さようなら、『創世神』の血を引く子」
それだけを残し、黒い霧が晴れようとしている。だが――
「血式・紅……」
爆発した血液が、同じように霧に吸い込まれていった。彼らに当たったかは分からないが、最後の一撃だ。
――霧が晴れ、【十執政】は完全に逃げてしまった。逃げられたことに不満を持つように、イグニスは大剣を肩に抱えて舌打ちする。
「一回、あの迷宮に戻ろうか。合流しないとね。ラインは……立てそうにないし、僕が担ぐよ」
ヴォルスは倒れて動けないラインを背中に担ぎ、立ち上がる。全員が『ラビリンス・ゼロ』に飛んで帰ろうとすると、アステナが声を上げた。
「わ、私は飛んで行けないんだけど!? 誰か、背中に乗せて……」
「じゃあ私がおんぶするねー。乗って!」
と、元気に言うエオニアの背中に乗る。すると、五人は一斉に学園に向かって飛んだ。
「やっぱり空を飛ぶ時は風が気持ちいいね! 楽しい気分!」
「楽しいかは分からないけど、風が気持ちいいのは確かね。あれ、アステナ? 大丈夫?」
アクアはずっと恐ろしいものを見ているような表情をしているアステナを見て心配する。
「あ、うん。ぜ、全然怖くないからねこんなの。全然……全然……」
「……怖がってるんだ」
「怖がってないし」
イゼルナに指摘されるが、否定してエオニアの首にしがみついているアステナを見て、四人はただ笑うのだった。だが、アステナは何か考え事をしている。
(さっきの彼、過去を変えたり未来を都合良くする力……。そんな力を彼女は看過できないと思うけど……。一体あれは……)
突然、イグニスが声を上げる。
「おい、あの下にいるやつって……」
「下? なっ――」
イグニスの言葉に、全員が下を向く。するとそこには――
「アッ……シュ……?」
『剣聖』アッシュ・フェルザリアが、木に囲まれた地面に倒れていた――
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