第34話『決着の一撃』
血描写あるので気をつけてください
「――じゃあ、僕たちから行こうか。エオニア、来て」
『雷神』ヴォルスが手招きをし、『風神』エオニアは素直に近づく。
ビリッ!……ビリリ……ビリリリィ!
『雷神』に肩を触られると、『風神』の薄緑色の髪に紫色のメッシュが入り、彼女の周囲はビリビリしていた。
ドォォン!!
「ッ!? 速――」
(左右から同時に!?)
バリリィ!
「なっ……これは結構厄介だね」
雷速で接近してきた二人のパンチを腕で受け止め、少し後ろに吹き飛ばされてしまう。
「全身が痺れてるね……戦いづらいな」
表情を崩さず、両手を握ったり広げたりし続け、ソールはヴォルスたちを見る。
だが――
(『創世神』がいない!? 一体どこに……)
地面に倒れていたはずのラインがいなくなっていた。首を動かすより先に、上空から声がした。
「血式・紅」
(上か!? ――!)
ラインの掌から放たれた血液の球体は爆ぜ、ソールに当たる――はずだった。
「グフッ!?」
爆ぜて飛び散った血液は、全てがラインの身体を貫いた。まるで、反射されたように。
(お、俺の技が反射された!? ど、どうやって……まさかこれがあいつの力か!? まずい、再生能力が……)
ラインは木の枝に落ち、倒れてしまう。今日、ラインは吸血鬼の力も使いすぎた。そのため、彼の吸血鬼としての再生能力が非常に下がってしまった。反射された「血式・紅」で負った傷を再生できずにいる。
「あ、ライン!」
「うっ……ゲホッ!」
ヴォルスが声を上げるが、ラインは身体が動かず吐血してしまう。
「『創世神』はもう限界みたいだね。あとは六人だけか」
「ラインを倒して調子に乗ってるみたいだなお前」
余裕があるように腕を組むソールに対して、イグニスが大剣を担ぎながら睨む。
「だって一番厄介な『創世神』が倒れたんだもん。君たちは所詮属性神でしょ? そんなに脅威じゃな……あれ?」
ソールが下を向くと、彼の足は氷で固められていた。動かそうとするも、氷が割れる気配もない。
「お手並み拝見ってところだな。オラァ!!」
肩に担いだ大剣を、ソールに向かって振る。すると、炎の斬撃が大気を燃やしながら真っ直ぐ進んだ。
「《反射》」
ズゥゥン……
ソールの持つ謎の能力が発動し、炎の斬撃は放ったはずのイグニスに向かって反射された。
「なるほど。この程度じゃ全然ダメってことか」
「あれ、なんで喰らわないの?」
「彼らは自分と同じ属性が効かないんですよ」
真正面から炎の斬撃に当たったはずのイグニスだが、ピンピンしていてどこにも怪我はない。不思議そうにしていたソールに、後ろからロエンが教えた。
「それかなりズルくない? まあ、ロエン、サフィナも頼んだよ。その氷の女王さんも戦えるのかな?」
「当たり前じゃ」
と、『凍界の女神』は当然そうに呟いた。
◆◇◆◇
属性神と【十執政】が衝突し、学園裏にあるこの山はさまざまな色や音を出して揺れている。
「《引力の王》!」
「クソガキが失せろ!」
「熱っ……あなたは本当に口が悪いし荒いですね……」
引力でイグニスが引き寄せられ、彼の炎の大剣とロエンの鞭のようにしなる剣がぶつかる。
「お前その剣さっき燃やされなかったか?」
「一応数本持ち歩いてるんですよ。壊された時のために……ね!!」
しなる剣の先端がイグニスの後ろから襲いかかる。だが、それは一瞬で燃え尽きてしまう。
「この剣は熱に弱いんですね……次は改良しなければいけませんね」
新たな鞭の剣を出し、イグニスと対峙している後ろではサフィナとリュミエールがアクアとイゼルナと対峙していた。
「……早く倒れて」
「あんた結構容赦ないことするわね……ま、関係ないわ。これでも喰らいなさい!」
一瞬の隙も見せず、吹雪でサフィナとリュミエールを襲っている妹の行動に引きながらも、アクアは目の前に生み出した水の球体を放つ。
「冷たすぎるよー」
そう呟いた少女は、右目を隠す。左目がピカっと光り、満月のような銀色に輝くと、再び呟く。
「《夢虚牢城》」
それは先ほど、エルフィーネを眠らせた謎の能力だった。
だが――
「う、嘘でしょ? どうして眠らないの? 目はちゃんと見てたし……」
イゼルナはすでに、サフィナの後ろに回り込んでいた。だが、サフィナはイゼルナの目を見て眠らせる技を使ったはず……と思っていたが、彼女が見つめていたものは――
「……あれはただの偽物。すぐに作っただけ」
それは、イゼルナによって作られたイゼルナの氷の像だった。吹雪のせいで周りが白銀の世界になってしまったことで、それが氷だということに気づかなかったのだ。
「えいっ!!」
「痛っ!?」
「貴様ら!!」
そして、二人は『水神』と『氷神』に蹴り飛ばされ、『炎神』と戦っているロエンとぶつかってしまった。
「ちょ、さ、サフィナ!? 蹴り飛ばされたんですか!?」
「痛ーい。ロエン頭硬いってー」
「悪かったですね……」
見つめ合っている二人を風が横切り、ふと上を見るとソールが『雷神』と『風神』と戦っていた。
(この二人速いね……)
雷速で移動できるヴォルスと、ヴォルスに触られたことで雷速で移動でき、さらに風で加速できるエオニアの攻撃を目で追うのは実質不可能だった。
『雷神』が振るう刃を《反射》で対処し、『風神』が放ってくる風と雷を混ぜた球体も反射する。
「ん、急に腕を掴んでなに?」
「多分反射できるのにも限度があると思ってね」
ドォォン!
『雷神』の身体からソールに電撃が流れる。それらを全て《反射》で防ぎ、掴まれた手を離そうとする。しかし――
ドォォン!!
「なっ!?」
「これ以上は反射できないんだね。はぁっ!」
「チッ!」
上空から蹴り飛ばされ、地面にいるロエン、サフィナ、リュミエールと激突してしまった。
(反射されない量はわかったけど……あの量の電撃を続けるのは僕にはちょっと難しいな……)
流す力をだんだんと上げ、ようやくその謎の力で反射されない量を見つけたが、それを維持して戦うのはヴォルスにとって辛いものだった。
「はぁ……まさかここまでやられるとは思わなかったよ。 ――」
一瞬、ソールが小声で呟いたが、小さすぎて聞こえなかった。
――何も起こる気配がない。五人はテレパシーを使えなくとも、完璧な連携を取ることができる。
五人が一斉に、ソールに向かって進んだ。しかし――
「――は?」
全員の攻撃に、ソール一人だけで対処されてしまったのだ。もちろん、《反射》をされない量の力で攻撃したため、反射はされていなかった。
「みんな、もう一回!」
炎、雷、風、氷、水の刃がソールに進む。だが、まるで何が起きるかわかっているかのように全て対処したのだ。
「おかしい。まるで全部読まれてるみたいに……」
「最初に言ったでしょ? 運命は最初から決まってるって。僕は未来の選択肢を全部予測して、現実を僕にとって最も有利な方向に導けるんだ。ま、あの方から与えられた『異能力』のおかげだけど」
彼の恐ろしい力に驚愕すると同時に、気になる言葉が聞こえた。『異能力』という言葉だ。そんなものをこれまで聞いたことがない。
「『異能力』が何かって聞きたいんでしょ? これは『権能』みたいなもので、【十執政】は全員持ってるんだ。代わりに『権能』がなくなるんだけどね」
聞いてないのに説明してくれたが、誰かがそれについて聞く未来を見たのだろう。
彼によると、『異能力』とはこの異世界に生まれた者が『創世神』から与えられる『権能』に近いものだということだ。
となると、リュミエールのせいで『権能』が使えなかった【第三層】で、ロエンたちが力を使えたのはそれが『権能』と関係がない力だったからだろう。
――木の枝に倒れながら、話を聞いていたラインはそう考えた。まだ反射された「血式・紅」で負った傷は全回復していない。だから彼は行動することにした。
「ソール! 時間がありません。すぐに戻らない――」
ガブッ!
「アガッ!? き、君は……」
牙がロエンの首に刺さり、血液が吸われていく。やがて、ラインの髪と目は茜色となり――
「なっ……傷が……」
全身が完全に回復した。
「うっ……くっ……」
「ちょっとロエン!?」
倒れたロエンをサフィナが抱える。
「もう完全に倒れたと思ったから君の未来を処理するのを忘れてたね……」
茜色となったラインの目と、ソールの目が互いに睨み合う。
「創血式・緋」
「なっ――」
茜色の髪に、真っ白のメッシュが入ったラインの新たな一撃が炸裂する――
読んでくれてありがとうございます!今日は 七夕ですね。織姫と彦星が会う日……ロマンチックですね




