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第33話『暴かれた神の血』

 ――ロエンの身体が黒い羽根のような霧で包まれたあと、チームAにいる五人はすぐにこの迷宮から出ようとした。

 螺旋階段を降りようとしたが、彼らの脳内には疑問が走った。

 そう、『ラビリンス・ゼロ』の【第三層】のボスであるリュミエール・フローズが消えていたのだ。

 

「あいつ一体どこに……」


「魔力探知しましょうか?」


 セレナにそう言われて、ラインは彼女に任せることにした。

 セレナが目をつぶり、魔力探知だけに集中する。その間、彼女のしっぽや耳が激しく動いている。

 

「ん……」


 魔力探知は学園で全員学んでいるが、かなり高度な技術のため、『魔導師』グレイス、『煌星の影』レオのように学園でも魔法がトップの者たちにしかできない。


 セレナの家系――クラヴィール家は代々吸血鬼の貴族であるファルレフィア家に仕えているメイドの家系だ。人間は魔力探知が苦手だが、吸血鬼や獣人、エルフなどの生物は、生まれつき少しだけだがそれが出来てしまう。


 獣人として生まれ、さらに吸血鬼の元で育ったセレナには結構簡単に出来るものだ。


「ん……あ、いました。先程(わたくし)達を襲ったロエンという男と一緒にいます」


「あいつ、いつの間に……逃げ足も早いし……」


「僕たちも追うしかないね」


 アッシュの言葉に頷き、その場にいた五人は螺旋階段を降りる。【第二層】に降りたところで、彼らの足は止まってしまった。


「嘘だろ……」


 そこには、様々な魔物がいた。ここを突破した際はいなかったので、おそらくロエンが連れてきたのだろう。


「結構多いな……」


「十数匹くらいいますね……どうしますか? ライン様――」


 セレナは魔物を見て「ゲッ……」と嫌な顔をしてラインを見る。すると、ラインは掌を出して血液を出して球体にしていた。


「――血式・紅(けっしき・あか)


ドォォン!!


 その瞬間、掌に集まっていた血液の球体は放たれ、爆ぜるように様々な方向に血が飛ばされた。


 その強力な一撃により、十数匹いた全ての魔物は消し飛んだ。


「ら、ライン様、今のは一体……」


「なんか前にアレスと戦闘訓練してた時に偶然出来たんだ。でも、普通の姿じゃなくて今みたいに吸血鬼の力を覚醒させてる時しか出来ないんだよ」


「な、なるほど……」


 先程学園内だけを夜にしたことで吸血鬼の力が覚醒し、茜色となった髪を触りながら答えるラインを「凄いですね……」のような目で見ていた。


「早く出るぞ」


「はい!」


 ――【第二層】の螺旋階段を降り、【第一層】に到達するとまた魔物がいた。今度はそれらを『剣聖』と『炎神』が燃やし尽くし、最後の螺旋階段まで降りることが出来た。


◆◇◆◇


「よし、とりあえず出れたか……チームBとCどっちに行ったんだ? アレスとセツナにテレパシーを……」


 ロエンがどちらのチームに行ったか分からないため、ラインは『創世神』の力でチームBにいるセツナとチームCにいるアレスにテレパシーで会話を送ろうとした。

 だが――


「あ! ラインお兄ちゃんいたー!」


「うぐっ!? れ、レンゲ……」


 横から突然レンゲに強く抱きつかれ、倒れそうになるがすぐに体制を立て直す。


「ねえ聞いて! 【十執政】っていう組織? のサフィナちゃんって子が来たの!」


 彼女は言葉を続ける。

 

「その子と【第三層】のボスが前にルシェルって人を連れ帰った人と昨日ラインお兄ちゃんに怒鳴ったアレンって人に連れていかれちゃったの!」


「え、は、え?」


 昨日、学園に来たらアレン・クロスという男にラインは怒鳴られ、「親友を助けてくれ」のようなことを言われた。

 結局、ラインはアステナと一緒に学園に行き、『神龍オメガルス』に消された人たちを助けたのだが――


「お人好しなお兄ちゃんはまんまと騙されたってことね」


「セツナ……」


「でも、僕たちは最初から勘づかれてたみたいだよ。あの羅針盤でね」


 セツナの後ろから歩いてきたアレスにそう言われて、驚きの連続にラインは頭が混乱した。


「あ、ていうかお前らどうやってここまで……」


「私たちのところはレンゲが全部倒して来たわ」


「僕たちのところは僕とヴォルスさんで全部倒したよ」


 二人の話を聞いて「やっぱりイグニスさんとアステナだけじゃなかったんだ」という気持ちと、「レンゲはどうなってるんだよ……」という二つの気持ちが何度も交差した。


「あ、エルフィーネ!? 大丈夫ですか!?」


 後ろから薄い青色のウェーブロングのストレートヘアーの美少女――『水神』アクアがエルフィーネを担いで歩いてきた。そしてセレナはエルフィーネを見て慌ててすぐ近づく。


「サフィナって子にやられたみたいよ。セツナが言うには一日経ったら目覚めるって話らしいけど」


「あ、ありがとうございます……」


 セレナは丁寧にお辞儀をし、アクアは密かに「なんて礼儀正しい子なの!」と素直に感動していた。


「く……そ……もう動けねぇ……」


「あ、グレイス」


 声のした方に目を向けると、『雷神』に担がれたグレイスと『風神』に担がれたエリシアがいた。


「二人とも大丈夫?」


 アッシュが二人のもとに駆け寄ると、グレイスが弱い声で言った。


「結構きついな……エレメントキャタスト二回使ったし……」


「私は大丈夫なんだけど……この可愛い子が『担ぐからじっとしてて!』って何回も言ったから……」


「えへへー可愛い子って言われちゃったー」


 薄緑のツインテールと翡翠の瞳を持った美少女――『風神』エオニアが頬を赤らめ、嬉しそうな笑みを浮かべていた。


「あーエリシア、その人はエリシアよりもずっとずっと年上だよ?」


「え? え、嘘? そんなまさか〜」


「私は君よりお姉さんだよ! だって『風神』だもん! ――あ! ごめんヴォルス……」


 ふいに自分が神であることをバラしてしまい、エオニアは申し訳なさそうな顔でヴォルスを見つめた。


 属性神達は普通にこの世界で生活しているのだが、誰にも自分たちの正体をバラしていないのだ。そのため、彼らの正体を知っているのはアルケウス、ルナミア、ラインたちくらいだ。


 申し訳ない顔をするエオニアに『氷神』イゼルナが話しかける。


「……大丈夫。さっきお姉ちゃんも堂々と言ってたから」


「もう、それ言わなくてもいいじゃない!」


 アクアが頬を膨らませながらイゼルナの肩をぽこぽこ叩いていた。


 ――突然、アッシュが口を開いた。


「つまり……今ここには神様が六人――いや、十人いるってことで合ってるかな?」


「……」


 アッシュが言葉を発し、全員が沈黙した。今ここにいるのは四つ子、『剣聖』、『魔導師』、メイド二人、5人の属性神、『知恵の神』だ。

 普通に考えればこの場には六人の神しかいない。だが――


「はぁ……まあ、ロエンが何度も『創世神』の話してたからな……バレるのも仕方ないか」


 どのチームでも、それぞれに向かっていた【十執政】が何度も『創世神』の力を集めにきたということを言っていた。

 そのせいで、これまで隠していたのにアッシュ、グレイス、エリシアに知られてしまった。


「『神龍』との戦いの時だったりルシェルとの時だったり、髪と目は白くなるし変な攻撃するし、あとここでの戦いでただの吸血鬼じゃないとは思ってたけどね」


「えと……じゃ、じゃあ四人は吸血鬼と神様のハーフってこと?」


 情報量が多すぎて頭をかきながらエリシアが尋ねる。


「そ。正確に言うと吸血鬼と『創世神』のハーフなんだけど」


「『創世神』って宇宙を作った神様よね!? あと私たちに『権能』を与えてるのも……あ、もうダメ。頭痛くなってきた」


「あ! この子気絶しちゃった!?」


 情報量に耐えきれず、彼女はエオニアの背中で気絶してしまった。


「てか、お前らあまり驚いてなくない? エリシアがおかしいだけか?」


 気絶したエリシアとは対照的にアッシュもグレイスも友達が神様だったことに驚いてはいるが平然としている。


「俺は小さい時から『知恵の神』がうちに住み着いてたからあんまり……」


「僕もアステナさんと会ったことあるし……あと『神剣』があるからね」


 本来なら神と会える存在などほぼいないが、二人はアステナと会ったりアッシュに関しては代々受け継がれる『神剣』があるので気絶するほどではないようだ。


「なるほど。てか細かい話してる場合じゃないな。あいつらをおわないと……でもどこ行ったか」


 ラインがハッとしたように呟くと、アステナがラインの肩をつついた。


「彼らを見つけたから行こうか」


「え!? ど、どうやって……」


「君が必要ないって言った『知恵の神』の力だよ。欲しくなったかな? あげないけど」


「いらないって」


 元気そうにラインに絡み、楽しそうにしているその光景にこれまでの引きこもりアステナを知っているグレイス、アッシュ、五人の属性神はポカンとしていた。


「え? みんなどうかした?」


「仲良いなって思ってさ。まあそれはいいや。二人で先に向かってて。この子達を寝かしたら僕たちも向かうから」


「分かったよ。それじゃあ行こうかライン君」


「ああ」


 グレイスを担いだヴォルスが二人を急かし、ラインは走れないアステナをおんぶしながら『ラビリンス・ゼロ』の扉から出ていった。


「アステナ……あいつラインと会ってから変わったな……めっちゃ元気だ」


 グレイスが呟き、『炎神』イグニスも腕を組みながら


「俺には冷たいっていうか厳しいこと言うんだけどなあの女」

 

 と呟く。


「それは君がいつも荒々しくてうるさいだけでは?」


「あんたいつもうるさいもん。もうちょっと静かにすればいいのよ」


「……イグニスはいつもうるさい。あと近くにいると溶けそうになるくらい暑いし」


「えーそんなにかな? 確かにいつもうるさいし元気だし熱いし! 荒々しいけどいい人だよ!」


 厳しい反応をするヴォルス、アクア、イゼルナとは対照的に褒めている……かはわからないが、優しいエオニアの頭を撫でる。


「やっぱお前が一番優しいな。あいつらとは大違いだ」


「エオニアが優しすぎるのもありますが、君はもう少し落ち着いてみては?」


 イグニスとヴォルスが睨み合っていると、エオニアが「あ!」と声を上げた。彼女の方を見ると――


「ごめんごめん、イグニスが触ってきたから炎を吸い込んじゃった」


 薄緑色のエオニアの髪に橙赤色のメッシュが入る。『風神』である彼女は、他の属性神たちに触られると力が反応してしまい、一時的だがその属性も扱えるようになるのだ。


「……熱いのが増えちゃった。冷たくしないと」


 今度はイゼルナがエオニアに触れ、彼女の髪色に銀白色のメッシュが入った。


「あ、冷たくなった! ていうか早くこの子たち寝かせて行こ!」


 ヴォルス、アクア、エオニアはそれぞれ担いでいるグレイス、エルフィーネ、エリシアをゆっくり地面に寝かした。

 

 それを見ているアレス、セツナ、レンゲはいつもこんな生活をしているのかと思いつつも、面倒見がいいとことに感心していた。


◆◇◆◇


「みんな……間に合ったのか……」


 地面に倒れ込んだラインは、突如現れた【十執政】『第一位』ソール・アスタリウスを見つめたあと、後ろに来た四人の属性神を見た。


「安心して。寝てる子たちはアレスたちとあのメイドの子に見てもらってるわ」


「また新しいのが増えてるが、直接対決と行くか」


「……多いね」


 そうして、神たちと【十執政】の戦いが幕を開ける――




読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
神様と十執政の戦い。十執政は出揃って無いし、神様が圧倒的有利な感じでしょうか。 でも、怪しげな道具を所持していたし、そういった+αで何かしら打開してくる可能性は拭えませんね。 次話から戦いが始まるのか…
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