第32話『決まった運命』
第三十二話です!
「チィィッ! 何だよこれ!?」
ゴォォォ!
『氷結の女王』――否、『凍界の女神』リュミエール・フローズ。三人が融合し、完全体となった彼女は以前よりも強力な氷魔法、そして、『創世神』の力の欠片を持っていた。
空間を凍らすような吹雪が発生し、ラインを襲う。さらに、吹雪だけでなく、細かい氷の刃も降り続き、何度もラインの皮膚を切る。
ギィィィン!
世界そのものが悲鳴を上げるような音が響き渡る。ラインの目の前には、迫る吹雪を食い止めるバリアのようなものが貼られていた。
「とりあえずはこれで――ッ!」
ギィ……ギギギ……パリィィン!!
だが、そのバリアは白く軋み、木っ端微塵に砕け散った。そして、再び吹雪に襲われる。
「あいつ、『創世神』の力使いやがって……」
『創世神』の能力に干渉出来るのは、同じ『創世神』の力だけだ。
ラインの作ったバリアは、『創世神』の力を使わないと破壊できない。
だが、三人のリュミエールが持っていた『創世神』の欠片が融合し、その力を氷魔法と同時に放つことで、そのバリアを中和したのだった。
「チッ……面倒だ」
その吹雪により、ラインの足元は氷で凍ってしまう。続いて、ラインの髪色が茜色に変化する。まだ、学園内の夜の状態は続いているのだ。
ザァン!
強化された血液を操り、足周辺の氷を砕いた。やがて、吹雪が止む。
「ん、どこへ……」
吹雪が止むと、ラインはその場にいなかった。辺りを見渡し、ふと後ろを向くと――
「――血式・紅」
「――ッ!?」
ドォォン!!
まるで、爆発したような衝撃が走り、ロエン、サフィナ、ヴァルクは吹き飛ばされ、倒れ込む。さらに、先ほどロエンが施した魔力探知すら封じる透明な結界は、内側から壊される。
――これにより、魔力探知が可能になった。
「ちょっとー今の技なにー? ていうか服汚れちゃったしー」
サフィナはゆっくりと立ち上がり、そのドレスについた土を払う。
――血式・紅。ラインが吸血鬼の力だけを覚醒させた状態で放てる技だ。爆発的な火力を生み出す血液を一点に凝縮させ、放つ。
三人は防御魔法を展開したが、簡単に破壊され吹き飛ばされてしまった。
再び、ラインの髪と目の色が変化する。ゆっくりと真っ白になっていき――突然、通常の赤い髪と緋色の瞳に戻ってしまう。
「なっ……」
先程のリュミエール、ロエンとの戦闘で、ラインは『創世神』の力を引き出して戦った。その後、ロエンに奪われてしまったが、学園裏の山に逃げた彼らを追った時もその力を使った。
――ライン・ファルレフィアは、『創世神』の力を使いすぎた。
「く……そ……」
バタッと地面に倒れ、完全に無防備な状態になってしまう。
「今倒れるか……ライン君!」
後ろから見ていたアステナは、ラインを助けようと近づく。だが――
「私はあなたが何者か知りませんが、今、彼を助けてもらうと困ります。《斥力の王》」
「えぇ!? あ、ちょっと!」
アステナは、山から学園に向かって斥力で吹き飛ばされてしまう。
「あ、アステナ!? チッ……」
出来るものなら、飛ばされた彼女を今にでも助けたい。だが、体が動かず、地面にうつ伏せになっている状態では何もできやしない。
「とりあえず邪魔者は消えました。あなたでも力を使いすぎるとそんなふうになってしまうんですね」
「うる……せえな」
「ちょ、ちょっとロエンあれ見てよー!」
「え? どうかしました――な……」
サフィナに肩を叩かれ、彼女が見る方向を見つめる。その方向には――
「ど、どうやって……」
氷の円盤にしがみついているアステナがいた。意味がわからない光景に、ロエン、サフィナ、ヴァルクは戸惑いを隠せない。
だが、彼女が乗っているのは氷の円盤だ。ここで氷を使う者といえば――リュミエールしかいない。ロエンがリュミエールの方を向くが、彼女も戸惑った表情をしていた。
「リュミエールが驚いているということは彼女のではないのですか……なら一体誰の? ――ッ!?」
ゴォォォ!!
凍てつくような吹雪が、四人を襲う。『凍界の女神』であるはずのリュミエールですら、その吹雪を止めることができずにいた。
やがて、吹雪が晴れ、一人の女が歩いてくる。それは――
「……もうあなたたちは終わり」
銀白色のストレートヘアーを持ち、透き通るような青紫色の瞳を持つ美少女――『氷神』イゼルナだ。
◆◇◆◇
『氷神』イゼルナ――この世界全ての氷を操る事が出来る少女だ。彼女の前には、どんな氷魔法も意味をなさない。
相対した相手に出来ることは、ただ氷漬けになることだけ。
そして、それは『凍界の女神』であっても同じことだ。
「なんじゃ……妾の魔法が効かぬ……」
「……あたしに氷は意味ないよ」
「あ、ありえん……ならば――フロスト・ディザスター!」
リュミエールがその掌を前方を指した瞬間、大気が軋むような音を立てて収縮し始めた。空間全体が凍りつくような静寂に包まれる。
ズゥゥゥン!!
放たれたのは、音すら凍てつかせる冷気のビームだ。閃光のごとく地を貫き、触れた全てを氷塵と化す。
まさに絶対零度の断罪だ。
それは、『魔導師』でも死の危険を感じるほどのものだった。しかし――
「……無駄だって」
そのビームは、まるで何事も無かったかのように消え――
ズゥゥゥン!!
「ッ!? 《引力の王》!」
リュミエールのオリジナル魔法であるはずの、フロスト・ディザスターが、イゼルナから放たれた。
だが、それは、引力によって違う方向に曲がってしまった。
「……次」
「な、氷!? 何これ!?」
地面から出てきた氷に、四人の足は凍らされて動けなくなってしまう。
そして――
ゴウウゥゥ――バシュォォォオオオオンッ!!
空間を灼熱の烈風が切り裂き、次の瞬間、燃えるように世界が軋んだ。
大気そのものを破壊するような炎の斬撃が、ロエンらに向かって飛ばされる。
「ちょ、ロエンーまずいってー! どうにかしてよー」
「いえ、私に言われてもこの状態では……」
「はぁ、仕方がない。《時間反転》」
焦っているロエン、サフィナに呆れたように溜息をつき、ヴァルクの時間が巻き戻る。
ヴァルクだけが、イゼルナのフロスト・ディザスターを喰らっていない状態に戻った。
そして、迫り来る炎の斬撃を――
「《零刻輪廻》」
それが呟かれると、炎の斬撃はまるで近づけないかのようにその場に止まった。
「ヴァルク、ありがとうございます。でも、大丈夫ですか?」
「大丈夫なわけ……ないだろ」
力を使い果たしたのか、彼は眠るように地面に倒れ込んでしまった。
(時間を止めた!? てか、あいつら一体何の『権能』なんだよ……嫌な予感するけど、一応……《真実の瞳》)
地面にうつ伏せになりながらも、見た者の『権能』がわかる『権能』を使い、サフィナとヴァルクを見る。だが――
(やっぱり……あの二人もロエンと同じで『権能』を持ってねえ……さっきからの力は一体なんなんだよ……)
と、そんなことを考えていると頭の中に声が響いてくる。
それは――
(やっぱり、君も彼らの力を気になってたんだね)
氷の円盤のしがみついている『知恵の神』アステナだった。
彼女は、『知恵の神』の力で他人の心を覗ける。さらに、テレパシーで会話もできるのだ。これは、ずーっとグレイスの屋敷に籠っていた彼女には必要不可欠な能力だった。
イゼルナの頭の中にも、アステナの声が響く。
(ライン君が彼らの『権能』を見たけど、やっぱり何も無かったよ。てことはそういうことだから気をつけてね)
(……うん、分かった。ありがとう)
と、心配の忠告をした。テレパシーで会話が出来るのは、四つ子とアステナだけだ。
そのため、イゼルナなどの属性神達はアステナから脳内に話しかけられても、アステナに対して話すことは出来ない。
まあ、アステナは心を読めるため、大体何を考えているかは分かるのだが。
属性神には、テレパシーで会話をする力がない。普通だったら、綺麗な連携は取れない。
そのはずだが――
「ね、ねぇロエン、あれ見て……」
『炎神』イグニス、『雷神』ヴォルス、『風神』エオニア、『水神』アクア。
四人の神が空を飛び、上から降ってきたのだ。
数百年も一緒に同じ屋敷に住んでいる彼らにとって、お互いの思考を理解することは容易い。
ここにきて、完璧な連携を取れてしまう五人――いや、テレパシーで連携が取れるラインとアステナを含めると七人が揃ってしまったのだ。
『氷神』がいるこの場所で、『凍界の女神』の力は完全に無効化される。この状況に、ロエンとサフィナは冷や汗を流し、焦りと緊張を見せていた。
だが――
「な、来たんですか?」
「まあねー」
「今度は誰だよ……」
地面に倒れ込んだまま、ラインは目の前に急に現れた男を見つめる。
「ん、ああ、君が『創世神』の力を持っている子ですか。――僕は【十執政】『第一位』ソール・アスタリウスです。よろしく」
「次から次へと……」
「まあ、仕方ないさ。運命は最初から決まってるんだから――」
その男――【十執政】『第一位』ソール・アスタリウスが参戦した――
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