第31話『迷宮の外で』
十万文字突破しました! やったー!
【十執政】『第七位』ロエン・ミリディアがアレスのいるチームCに突如として現れた。その顔を見て、アレスはその男が以前ルシェルを連れて帰った男だと分かった。
また、その手には――
「そ、それは……」
鞭のような剣で拘束され、気絶している女――それは、【第三層】のボスである、『氷結の女王』リュミエール・フローズだったのだ。
「そっか、全チームに同じ敵がいるんだったね」
先生の話では、全チームに同じ敵がいるということだった。それなら、今アレス達チームCが戦っていた『氷結の女王』が、別のチームにいるのも当たり前だろう。
だが――
「いえ、彼女がいるのはチームA、B、Cだけですよ」
「え」
アレスはロエンに言われたことの意味が分からず、呆然と立ち尽くす。すると、ロエンはご丁寧に説明を始めた。
「本来なら、そこまで強く無いんですよ。各階層のボス達は。ですが、この空間は過去に『創世神』に作られたものです。そのため、君の――いえ、あなた達四人の力と反応してしまったんですよ」
「……なるほどね。だから違和感を感じたんだね」
【第一層】『断罪の門番』ゴルグを突破した直後、アレスは変な違和感を抱いていた。
特に気になる程でもなかったが、その後にレンゲとテレパシーで会話していると、彼女も違和感を抱いていたことがわかった。
その時は、理由がわからなかった。だが、ロエンの話からして、四つ子の『創世神』の力が反応してしまい、チームA、B、Cには、ゴルグ、ノムール、リュミエールという強力な敵が生まれてしまったのだ。
「それで、リュミエールを捕まえてどうするの?」
「まあ色々とですね。《引力の王》」
引力が発動し、ロエンに向かってチームCのリュミエール・フローズが引き寄せられる。
「な、何じゃこれは!?」
パシッ!
「《斥力の王》」
鞭のような剣で身体を拘束されたリュミエールに、弾く力が飛ぶ。だがそれは、リュミエールの身体ではなく、意識を飛ばした。これは、応用のようなものだ。
「これで二人目ですか。あと一人ですね。ヴァルク、行きましょう。では皆さん、またいつか会いましょう」
「あ、ちょ」
アレスの静止を無視して、ロエンとヴァルクは黒い羽根の霧に囲まれて、消えて行ってしまう。
「あー! 逃げちゃった! どうするの!?」
エオニアは焦った顔でヴォルスを見つめる。だが、ヴォルスは落ち着いたままだ。
「落ち着いてエオニア。僕たちは先に『ラビリンス・ゼロ』から出よう。きっと、アステナが何かしてるから」
◆◇◆◇
「さっむいなー」
【十執政】『第八位』サフィナ・カレイド。突如現れた『水神』と『氷神』の力により、サフィナに吹雪をかけ続ける。
「……早く倒れて」
『氷神』は、周囲に氷の刃を生成し、それをサフィナに放つ。終わらない刃の攻撃を、サフィナは避けるしかなかった。
「もーめんどくさいなー《幻焔花界》」
左目を隠すすと、右目が一瞬ピカっと光り、瞳孔が花びら状に変化する。
その言葉を呟くと、彼女は手に持つ扇子を力いっぱい振った。
「……花?」
大量の花の軌跡がイゼルナを包み込む。この花に触れると、五感が錯乱してしまうのだ。であれば、触ることはできない。
それなら、『氷神』の取る手段は――
「……凍って」
パリィン!
花は瞬く間に凍り、ガラスが割れるように砕けてしまった。
イゼルナは、氷で花の軌跡を凍らせた。
サフィナの出した花の軌跡は、空間に存在するため、空間もろとも破壊しないと壊せないのだ。
そのため、彼女は空間ごと凍らして破壊した。
意外と単純に思えるかもしれないが、空間まで凍らせることができるのは『氷神』であるイゼルナだけだ。『魔導師』であるグレイス・エヴァンスにも到底できやしない。
「うっそー!? もーどーすればいーのー?」
エルフィーネは眠らせたが、セツナ、レンゲ、そして参戦した二人の神の動きを止めることが彼女にはできない。
そろそろ彼女は帰らないといけないのに、この状況なら帰れないだろう。どうするべきか――と考えていると、目の前に黒い羽根の霧が現れた。
「ゲッ、その霧なによ」
気持ち悪いものを見たように、アクアは引き顔でそれを見つめる。だが、セツナとレンゲにはそれに見覚えがあった。――そして、二人の男が姿を現す。
「あっ、なにー? アタシを探しにきたのー?」
「はい。早く帰りますよ。それと――《引力の王》、《斥力の王》」
「何じゃ貴様!?」
引力で引き寄せられ、鞭のような剣で拘束されたリュミエールが、弾く力で意識を飛ばされてしまう。彼の鞭の剣にはすでに、リュミエールが三人も拘束されていた。
「えぇ!? 同じ顔がたくさんいる!?――あ、そういえばそうだね!」
三人の顔を見渡し、レンゲは驚愕する。だが、同じ敵が各チームに出ることを先生により説明されていたことを思い出した。
「ていうか、あなた前にルシェルを連れて帰った人? それに……あんたは――」
「ええ、そうです。えっと確か君は……なんていう名前で潜入してたんです?」
「はぁ……アレン・クロスだ。――お前、何でそんなに睨んでるんだ」
アレンの――いや、ヴァルクの顔を見て、セツナは睨んでいた。
「その様子だと、親友が消えたーとか言ってたのは嘘で試してたって事ね」
「ほう、理解が早いな」
「うっさい」
セツナはすぐに、アレンに騙されていたことを理解したのだ。そのことを普通に褒めるが、彼女からは冷たい返答しか返ってこない。
再び、黒い羽根の霧が三人を包み込む。
「ちょっとあんたたち逃げるつもり!? 待ちなさいよ!」
「さようなら」
アクアの叫びも届かず、三人は霧に包まれ、消えてしまった。
◆◇◆◇
黒い霧が現れたのは、学園の裏に存在している山の中だ。そこで、ロエン、サフィナ、ヴァルク、そして三人のリュミエールが霧から出てきた。
「ふー脱出せいこー。追ってこられないでしょ?」
「まあそう思いますが、念には念を」
彼が地面に手を当てると、透明な結界が三人を包み込む。これは、魔力探知すら封じ、結界の外からは内側が見えない完全な空間だった。
「ていうかー、『氷結の女王』を三人も集めてどうするのー?」
不思議そうな目で、ロエンを見つめる。すると、ロエンは優しく微笑み、
「彼女は『創世神』の力の影響で現れた存在です。それなら、彼女達の力を合わせればあの四人にも対抗できると思ったので」
と、何とも壮大なものを考えたものだ。
「へーじゃあ早速合体させちゃおー」
急かすサフィナに「はいはい」というように、融合させる準備をする。だが、その前に後ろから声が響く。
「なんか凄いことしようとしてるみたいだけど、させねえよ」
それは再び、髪色と瞳が真っ白になったライン・ファルレフィアだった。
「な……どうやって来たんですか」
「こっちには最強の頭脳を持ってる人がいるからな」
ラインの後ろには、白銀の髪と瞳を持つ、神秘的な美貌の女性――『知恵の神』アステナが立っていた。
(おそらく三人がかりでも彼には勝てないでしょう。それなら――)
三人がどれだけ戦っても、『創世神』であるラインに勝つことは出来ないだろう。『創世神』の力に対抗できるのは、『創世神』の力だけだ。
そして今、『創世神』の力の欠片から生まれたリュミエール・フローズが三人いる。
となると、対抗する手段は――
「《引力の王》」
その瞬間、空間が歪んだ。
大気が凄まじい唸りを上げながら収縮していく。
ギィィィイィ――ッ!!
リュミエール三体の身体が光の粒子へと分解され、一箇所に吸い寄せられていく。
水色の光を放出しながら、氷の魔力、冷気の波動、『創世神』の欠片。それら全てが渦を巻き、一点に収束していく。
衝突の瞬間、視界を貫く閃光が爆ぜ、足元の大地が軋む。
「……妾たちの……記憶が……混ざり合う……」
彼女たちの声が重なり、次第にひとつへと統一されていく。
引力の核の中で、三体のリュミエールが完全に融合を果たした――。
やがて、そこに現れたのは、以前の彼女達とは異なる気配。
白銀の長髪に、氷の王冠を頂き、氷晶のドレスを纏った女。
それこそまさに『氷結の女王』。否、『凍界の女神』と呼ぶに相応しい。
空気が凍り、地が震える。三人が合わさり、『創世神』の力と氷が結びついたことで、彼女は新たな存在へと昇華した――
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