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第29話『神vs【十執政】』

血描写ありです。気をつけて

 アレスに血液の刃を飛ばされ、動きの邪魔をされたヴォルクは目の前の赤髪の男を睨む。


「俺は長引くのが嫌いなんだが。邪魔するな」


「そう言われても困るんだけどね」


 騎士のように、鎧で全身を包んだ男は大太刀型の巨大な斧剣を構える。柄の長さは2メートル近くあり、ヴァルクの背丈すら超えて圧倒的な威圧感を持つ。


 アレスが息を呑み、その斧を見つめていると、ヴァルクは何もない空間に対してその斧を大振りした。


「何だ!?」


 アレスの目の前には、銀色の歯車のような円環状の光がいくつも現れ、それら全てがアレスを襲う。


「チッ――」


 ほぼ避けることができたが、少しだけ頬に掠め、血が出る。だが、その傷は彼の吸血鬼としての再生力により、一瞬で再生した。


「ほう、吸血鬼の再生力はかなりのものだな」


「何で知ってるの?」


「どうでもいい。続きだ」


 なぜ吸血鬼だとバレたか分からないが、再び斧を振ろうとするヴァルクを見て、穏やかに話を続けることは出来なさそうだ。


パシュン!


 再び、園環状の光がアレスの目の前に飛んで来る。空間を蹴るように動きながら、全てを避け切り、血液の刃をその手に持ち、ヴァルクの視界から消える。


「どこに……後ろか!?」


 鎧のせいで顔は見えないが、無口なこの男から少々焦っているような声が聞こえた。

 ヴァルクが持っている斧は、リーチが長いが接近されると攻撃を受け止める程度しか出来ない。


 それに対して、彼が戦っている吸血鬼は血液を変幻自在に操り、至る所から攻撃を仕掛けられる。それはヴァルクにとって相性が悪い相手だった。


「チィッ!」


 血液を拳に凝縮させ、そこから放たれる打撃がヴァルクに命中する。それは、彼の鎧を凹ませるほどの威力を持つパンチだ。


「まさか、この鎧を凹ませるとは……」


「まだだよ。周りを見て」


「は?」


 アレスにそう言われ、ヴァルクは素直に周囲を見渡す。すると――


「血の刃が周りから……」


 四方八方から血液の刃が出現し、ヴォルクの鎧に刺さり、彼の動きを固定した。顔以外は動かすことができない状態になっている。


「お前……」


「じゃあ行くよ」


 アレスは再び拳に血液を凝縮させ、ヴァルクの顔をぶん殴ろうとした。だがしかし、その空間に異変が走る。


「《時間(タイム)反転(リバース)》」


 ヴァルクが小さく呟く。すると、目の前にいたはずのヴァルクは視界から消えており、さらにアレスが出した血液の刃による拘束まで無かった。いや、なかったことになっていたのだ。


「……まさか、時間の巻き戻し?」


「ああそうだ。出来れば使いたくなかったがな」


 ヴァルクは本当に使いたくなかったのか、使ったことによる後悔のようにため息をつき、続きをするかのようにゆっくりとその斧を構える。


「続きだ」


 アレスが息を呑み、ヴァルクを見つめている。すると、この氷の空間に、雷鳴のような眩い光が音を立てて現れた。


「な、なんだ?」


「眩し……」


 ゆっくりと光っている方向を向く。段々明るさは消えていき、やがて二人の人影が見えてきた。


「誰だ?」


「それは教えてあげなーい!」


「エオニア、もうちょっと危機感持って」


 その二人を見て、アレスは動きが固まった。なぜならその二人は――


 『風神』エオニアと、『雷神』ヴォルス。二人の神だったからだ。


◆◇◆◇


「全くお前もデカくなったもんだな。最後に見たのはガキの頃か」


 久しぶりにラインを見て、見た目が変わっていることに『炎神』イグニスは関心したような顔で見つめている。


「あなたたち……一体誰ですか?」


 ロエンは咳をしながらゆっくり立ち上がり、イグニスとアステナを見つめる。


「てめぇなんかに教えるわけねぇだろバカが」


「そうですか。口悪いですね」


 相変わらずの口の悪さに、ラインもアステナも呆れたような目つきで見つめていると、アッシュとセレナがラインに近づいてくる。


「ライン、大丈夫?」


「ライン様、大丈夫ですか?」


 ロエンによって、顕現させていた『創世神』の力を奪われてしまったラインは膝をついて動けずにいる。そんな彼を心配して走ってきたのが友達の『剣聖』とメイドだ。本当にいい仲間を持ったと常々思う。セレナとは昨日会ったばかりだが。


 二人に肩を貸して貰い、ゆっくり立ち上がるとアステナが近づいてきた。


「久しぶりだね。と言っても昨日ぶりかな?」


「そうで……だな」


「フフッ、うん、敬語じゃない方が良いね」


 昨日、アステナの部屋から出る前に敬語はやめてほしい的なことを言われたことを思い出し、しっかり敬語を取り去った。それに対してアステナは笑顔で笑い、嬉しそうな顔をしていた。


「おいお前ら話してる暇ねぇぞ。とっととこいつ倒してここから出るぞ」


 イグニスがイライラした表情で四人を見つめる。

 片足を地面に何度も打ち付けながらその炎の大剣をロエンに向け、今にも戦いたそうにしていた。


「何で私は君と来なければいけなかったのかな? エオニアとかと来たかったよ」


「うっせぇな、仕方ねぇだろ」


 そう言ってお互いに睨み合ってはいるが、特に嫌がっているわけでは無さそうだ。が、二人に意識を向けていたらロエンの姿が見つからない。


「《斥力の王(リペル・ロード)》――」


 と、弾く力が発動するよりも前に――


「させねぇよバカが」


「グフッ!?」


 後ろから思いっきり蹴飛ばされ、大きな音を立てながら氷の地面に激突する。


「くっ……強いですね……シャドウ・クレスト」


 闇魔法が詠唱され、漆黒の刃がその場にいる全員を襲う。だがそれは、『剣聖』によって完封されてしまった。


「ふぅ……」


 炎の剣――『神剣(しんけん)』アグナシスを使い、漆黒の刃をもやし尽くしたアッシュは一息付く。すると、その剣を見てイグニスが「あ」と声を上げた。


「お前……その剣」


 まるで懐かしいものを見たかのように、驚愕の表情でアッシュの『神剣』を見つめる。その状況に、『知恵の神』アステナ以外は理解できず、首を傾げていた。


「え、あ、これがどうかしましたか?」


 急に参戦した口調が荒い男に『神剣』を見つめられ、『剣聖』は少々怯えたような目で『炎神』を見つめる。


「それ……俺がフェリオスに作ってやったモンじゃねぇか」


「なっ!?」


 フェリオスと言う人名を聞き、アッシュは驚いた顔を見せる。いや、アッシュだけではない。ラインもセレナも驚いた顔をしていた。


 彼らがそこまで驚く理由、それは――


「ら、ライン様、フェリオスって初代『剣聖』の名前ですよね?」


「ああ、前に母さんから聞いてたな」


 フェリオス・レイ・フェルザリア。現代『剣聖』アッシュ・フェルザリアの先祖で、初代『剣聖』だ。

 

 以前、ラインが母親のルナミアから聞いた話によると、かつて事件を起こした四人の吸血鬼討伐に貢献した男の一人が初代『剣聖』フェリオスらしい。そしてそのことはこのレガリア王国内でもかなり広く知られている。


「これを作ったって言うのはどういうことですか?」


「まあいろいろあってな。作ってやったんだよ」


 なんとも曖昧な答えを聞かされ、「えぇ……」みたいな目で見つめるアッシュ。イグニスは密かに、アッシュからフェリオスの面影を感じていた。


◆◇◆◇


「あなた達一体だーれーぇー?」


 突然目の前に現れた、薄い青色のウェーブロングのストレートヘアーと水色の瞳を持った美少女と、銀白色のストレートヘアーを持ち、透き通るような青紫色の瞳を持つ美少女を見てサフィナは首を傾げる。


「アタシは『水神』アクアよ。この子達を助けに来たの」


 アクアは後ろにいるセツナ、レンゲ、エルフィーネを指差し、片手を腰に当て、威張りながら答える。すると、横から『氷神』イゼルナが話しかけた。


「……ねぇお姉ちゃん、簡単に自己紹介するなってヴォルスに言われてたよ」


「え!? あ、そうだった!」


 威張っていた顔が段々と焦った表情に変わり、アタフタしている。イゼルナはそんな姉の姿を見て笑顔になっていた。


「ちょっと、何で笑顔なのよ」


「……だって、お姉ちゃん可愛かったから」


「もう!」


 ド直球にそんな事を言われ、アクアの顔はみるみる真っ赤になってしまう。そんな姉妹を「何してるの……」と言うような目で見つめる姉妹も後ろにいた。


「えっと、二人とも私達を助けに来てくれたんだよね?」


「あ、うん、もちろんよ」


 レンゲにそう答え、コホンと咳をして再びサフィナの方を向く。


「じゃあ、今度はアタシ達が相手よ」


「……うん、頑張ろうお姉ちゃん」



読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
アッシュって、剣聖の何代目なんでしょうか? 大陸に広まっているということなんで、イグニスが初代に会ったのも結構昔? 歴史の長さ次第で、『剣聖』という名の重みが変わりそうなので少し興味を持ちました。
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