第28話『神々の参戦』
【十失政】『第八位』サフィナ・カレイド。チームBに突如参戦した少女だ。セツナ達と目を合わせていた彼女の手に、二つの扇子が現れる。
折りたたまれていたそれが開くと、まるで花のように綺麗な桃色や黄緑色が入った刃が展開する。
「な、なにそれ」
「凄いでしょー? あ、時間ないからアタシから行かせてもらうねー」
二つの扇子を持ち、それをレンゲの前に振りかざす。攻撃の軌跡が綺麗な花の形を描き、一瞬で魅了されてしまう。
「あ、綺麗なお花……」
そして、それは屋敷の庭園で花を育てるくらい花が好きなレンゲに一番効いてしまうものだった。花に魅了され、一瞬動きが止まった彼女に、扇子が振られる。
だがそれは――
「この子はレンゲと相性が悪いね。私が戦うから下がってて」
二人の間に割って入ったセツナによって、サフィナは吹き飛ばされてしまう。
「ありがとう、セツナお姉ちゃん」
レンゲはセツナの言うことを聞くように、素直に後ろに下がって行った。それを見てからサフィナを見ると、ゆっくりと立ち上がった。
「痛ーい。酷いよー容赦ないなー」
「先に私の妹を襲ったのはあなたでしょ? あの子には傷一つ付けさせないから」
白髪で真っ白の瞳となったセツナから出る圧は凄まじいものだ。サフィナは頬に少しだけ冷や汗をかき、再び扇子を構える。
「じゃあいっくよー」
「無駄ね。それは効かないよ」
またもや扇子の軌跡が花を描くが、今のセツナには通用しない。無惨にも、再び吹き飛ばされてしまう。
「くっ、白い髪のあなた強いねー。これだけじゃ仕留められそうにないよー」
明るくそう言うと、左目を隠す。すると、右目が一瞬ピカっと光り、瞳孔が花びら状に変化する。
「《幻焔花界》」
謎の言葉を呟き、また扇子を振りかざす。すると、大量の花の軌跡がセツナを包み込んでしまう。
「なにこれ?」
セツナがそれを触ろうと手を伸ばすと、サフィナの声が響く。
「あ、触らない方が良いよー。それに触っちゃったら五感を錯乱させちゃうんだー」
「なるほどね」
『氷結の女王』リュミエール・フローズの魔法により、この空間では誰も『権能』を発動させることはできない。
となると、サフィナの謎の力は『権能』ではないだろう。そう読んだセツナは、すぐに花の軌跡を破壊する。
パリィィィン!!
「うっそーまじ? そんなことあるんだ――!?」
「とりあえず、『権能』を使えるようにしよっか」
サフィナを思いっきり蹴り飛ばし、その足を準備運動みたいにクネクネさせている。こういう時の足癖の悪さはラインととても似ているように感じる。
そして、右手の掌に真っ白のエネルギーが溜まる。一気にそれが解放されると、この空間を眩い光が一瞬で広がり、セツナ以外の面々は目を凝らす。
パリィィィン!!
何も無い空間に、何かが割れるような音だけが響きわたり、全員がゆっくりと目を開ける。
その音は、この氷の空間に張り巡らされていた『権能』が使用不可になる魔法結界を消し飛ばした音だった。
「これで大丈夫かな。じゃあエルフィーネ、行くよ」
「は〜いセツナ様〜」
音や光の軌跡を利用し、分身したり空間を跳ねるように移動できる《跳刃の舞踏》を使い、サフィナに向かって飛びかかる。
「へーあなたも凄いねー。これはどうかなー?」
扇子が振り回され、花の軌跡がエルフィーネに襲いかかる。だが、それらを上手く交わしまくり、人差し指を構える。
「フレイムスパーク、アクアパレット、フリーズニードル」
炎、水、氷魔法が詠唱され炎と水の弾丸、そして、氷の針をサフィナに向けて発射する。
「うわ、危ないなー」
スルッと交わし、扇子を振ろうとする。だが、それより先にエルフィーネの手が、サフィナに向けられていた。
「サンダークラッシュ」
雷魔法が詠唱され、落雷がサフィナに直撃する。
「アアッ!! 痛!! 容赦ないねー」
傷を治癒魔法で完治し、今度は右目を隠す。左目がピカっと光り、満月のような銀色に輝くと、再び謎の言葉を言う。
「《夢虚牢城》」
「うっ……」
突如エルフィーネは地面に眠るように倒れてしまう。
「ふぅ、これで一人は眠ったねー。あとは三人かー」
サフィナはゆっくりと振り向き、セツナ、レンゲ、そしてリュミエールを見つめる。エルフィーネはもう、動かずにぐったりとしていた。
「エルフィーネに何したの?」
「ちょっとねー眠って貰ったんだー。あ、安心してねー? 明日になったら元気に起き上がるよー」
「そっか」
セツナがサフィナの後ろにワープし、血液の刃を振る。
扇子と血液の刃が何度もぶつかり、火花を散らしながら見つめ合う。そうして何度も刃をぶつけていると、ふと羅針盤が地面に落ちてしまう。
「あ、しまったー。あれ? 何これ?」
二人とも、一瞬手が止まり、羅針盤に注目する。すると、先程紫色に光っていた結晶が、さらに濃ゆい紫色を放出していた。
「かなり濃ゆいねー。貰っちゃおっかー」
サフィナがゆっくりと指輪を取り出す。それは、黒曜石のような漆黒と紋様が刻まれた銀色の環が常に回転していて、また、羅針盤と同じく中央に紫色の結晶が埋め込まれていた。
その指輪を、左手の人差し指にはめる。すると、一気に周囲の空気が変化する感覚を覚える。
シュゥゥゥ!!
「な、なに!?」
全ての質量がサフィナの周囲に吸い寄せられるような密度を持ち始める。指輪に向かって、大気中に漂っていた、目に見えない''『創世神』の力の欠片''の痕跡を静かに察知し、淡く脈動しながら回収を始めた。
――やがて、顕現させていた力を吸われてしまったセツナは地面に膝を立てて倒れ込み、真っ白な髪と瞳は赤髪と緋色の瞳に戻ってしまった。
「嘘でしょ……そんなことできるなんて……」
「あ、セツナお姉ちゃん!!」
レンゲはすぐに駆けつけ、膝を立てて倒れ込む姉を手で支える。周囲から見れば何ともお互いを思っている姉妹に見える。実際そうだが。
「ごめーんね。ていうか、あなたが『創世神』の力を持ってたんだねービックリしちゃったー。あ、時間来ちゃうなー帰るね。バイバーイ」
サフィナは優雅に両手を振り、【第二層】まで降りる螺旋階段に向かおうとする。だがしかし――
「うっ!? な、何!?」
凍てつくような吹雪がサフィナを覆い、その冷たさに動けなくなってしまう。
「氷!? この層の番人の人かなー?」
サフィナは、その吹雪を出した犯人がリュミエールだと思っている。だが、それは違った。
「……違う。やったのはあたし」
「ちょっとセツナ、レンゲ、大丈夫なの?」
二人の女性の声が、その空間に響き渡る。その声を出した方を向くと、セツナとレンゲは目を見開いた。
「あれ!? 二人ともなんで!? 久しぶり!!」
レンゲが声を上げて驚き、さらに喜ぶ。その相手とは――
「本当に久しぶりね、二人とも。もう大丈夫だからね」
「……久しぶり、二人とも」
薄い青色のウェーブロングのストレートヘアーと水色の瞳を持った美少女と、銀白色のストレートヘアーを持ち、透き通るような青紫色の瞳を持つ美少女がいた。そう、彼女たちは――
「え、ど、どうして……」
「その話は後よ。あとはアタシ達に任せてね」
『水神』アクアと『氷神』イゼルナ。二人の神がチームBにイレギュラーとして参戦した――
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