第26話『『氷結の女王』vs『魔導師』』
エリシアの『権能』で両手両足を拘束されたノムールに対して三人が炎魔法を詠唱する。
「「「フレイムスパーク!」」」
瞬間、周りの空気が燃え上がり、火球となったものが漆黒の狼に向かって襲いかかる。
「グアァァァァァ!!」
三つの火球が衝突し、その全身が燃え上がる。ノムールは耳を蝕む叫び声を上げ続けている。
「うるせえな……」
――数十秒の叫び声が終わり、ノムールの身体は完全に塵になった。
―― チームC【第二層】『霊界の囁き』ノムール『突破』――
ギィィィィ……
ゆっくりと扉が開き、【第三層】へ続く螺旋階段が現れる。
「次は【第三層】ね。今度はどんなやつなのかしら?」
と、金髪ロングヘアを持つエリシアが尋ねる。
「行ってみるしかないよ」
カッ……カッ……カッ……
螺旋階段を登る三人の足音が、空間を響かせる。長ったらしい階段を一言も話さず登り終えると、目の前に巨大な扉が見えた。
ギィィィ……
ゆっくりと扉を開くと、これまでとは違った綺麗な氷の迷宮が広がっていた。
「すごい……全部氷なのかしら? ちょっと寒いわね……」
エリシアが寒そうに両手を擦っていると、声が響いた。
「妾の層までよくぞたどり着いた。褒めてやろう」
目の前に氷のような透き通った髪を持ち、その全身を水色のドレスコードで包んでいる美女が立っていた。
「お前がこの層の敵ってことか」
「そういうことじゃ。話している時間も惜しい。開始じゃ」
―― 【第三層】『氷結の女王』リュミエール・フローズ『開始』――
「フリーズニードル!」
氷魔法が詠唱されると、召喚された無数の氷の針が三人に向かって飛ぶ。
「ウィンドカッター」
グレイスに風魔法が詠唱されると、風の刃が向かってくる氷の針を切り刻む。
瞬間、リュミエールの口から知らない魔法が詠唱される。
「フリーズチェーン!!」
「なんだその魔法……」
氷の鎖がグレイスの地面から生え、四肢に絡み付こうと接近する。だがグレイスは、落ち着いた態度で飛び――
「インフェルノ」
火柱が燃え上がり、氷の鎖は燃え尽きてしまった。
リュミエールとグレイスは魔法を詠唱し続け、何度も何度も魔法をぶつけている。その間に入ることは邪魔になるかもしれないと思い、アレスもエリシアも手出しできなかった。
「凄い……グレイスってあんなに強かったんだ……」
お互いに1歩も譲らず、まさに互角の戦いを繰り広げている。二人はそれを見続けることしか出来なかった。
「ブリザード・レイ!」
氷魔法が詠唱され、冷気のビームがグレイスに向かって放たれる。
「ソル・レイ」
対抗するように、グレイスは光魔法を詠唱し直線型のレーザーを発射した。
ガギィィィ!!
二つのビームは衝突し、空間を揺るがすほどの衝撃が周りに広がる。
「くっ……」
衝突した魔法は膨張し――
バリィィン!!
巨大な音を立て、二つのビームは大破してしまう。
「まさか……ただの魔法だけで妾と互角以上に戦えるとはな。妾も本気を出すしかあるまい」
その瞬間、周囲の温度がさらに下がり、吐く息さえ真っ白になる。リュミエールからは莫大な魔力が溢れ出て、その全身が氷の球体に包まれた。
「な、あいつ何する気だ?」
パキッ……パキパキ……パキッ!!
氷の球体が崩れ落ち、中からリュミエールが姿を現す。その背後からは白銀の羽根のような氷の装飾が咲き、氷のように透き通った長い髪は、光を反射する純白の氷髪へと変化する。
「妾の名はリュミエール・フローズ。跪くがよい」
たった1歩進もうとしただけで、周囲の空気が凍る感覚が三人を襲う。
今この瞬間、リュミエール・フローズは『氷結の女王』として覚醒した。
リュミエールが虚空を手でなぞる。すると、この空間に何本も立っている氷の柱から交差する刃のような氷槍が四方から飛び出してくる。
「嘘だろ……インフェルノ!!」
「無駄じゃ」
三人の周りに立ち上がる火柱を氷の槍は無視して突っ込んで来る。
「危ない!」
だが、エリシアが防御魔法を展開し、氷の槍から三人を守ることができた。
「ありがとうエリシア」
「感謝などしてる場合じゃなかろう。フロスト・ディザスター!」
リュミエールがその掌を前方を指した瞬間、大気が軋むような音を立てて収縮し始めた。空間全体が凍りつくような静寂に包まれる。
ズゥゥゥン!!
放たれたのは、音すら凍てつかせる冷気のビームだ。閃光のごとく地を貫き、触れた全てを氷塵と化す。
まさに絶対零度の断罪だ。
「ヤバい……」
それは、『魔導師』でも本能的に死を感じる魔法だった。
「――エレメントキャタスト!!」
それは『魔導師』の家系、エヴァンス家に代々伝わるオリジナルの魔法。
詠唱中、炎、水、氷、風、雷、光の魔力を集結させ、それを対象に向けて一気に放出するものだ。
ゴォォォン!!
音速のスピードで六色の魔力砲が一気に杖から放出される。
二つの魔法は衝突し、大きな音を立てながら拮抗している。
やがて、二つが融合し【第三層】の空間を圧迫するように巨大なものになってしまう。
ガァァァァ!! ゴゴゴゴ……バァァァン!!
大きな音を立て、融合した二つの魔法は大爆発を起こし――
周囲に立っていた氷の柱は全て倒れる。氷は散らばり、雹のように細かく砕けてしまった。
「く……そ……」
【第一層】で一度使った「エレメントキャタスト」をもう一度使ってしまった。
一度撃つだけでも相当な魔力と体力を使ってしまい、普通の者なら動くことは出来なくなる。
だがグレイスは、代々魔導師の家系に継承される『魔導師』の『権能』により、実質無限の魔力を持っている。
そのため、撃とうと思えば何回でも出来るのだが、身体がついていかない。
グレイスは全身の力が抜け、そのまま地面に倒れ込んでしまった。
「結構な実力じゃな……じゃが、貴様が動けなくなっても妾はまだ動くことが出来る……」
リュミエールも爆発の影響により、かなりボロボロな状態になっていたがグレイスのように倒れるまではいかないようだ。
「……次は僕だね。エリシア、グレイスをよろしく」
「え、うん。でもどうするつもり?」
「どうしようかな」
不敵な笑みを浮かべるリュミエールを前にして、アレスは顎に手を当ててその女を見つめる。
「貴様の実力も見せて貰うぞ。フリーズニード――」
「待て」
声のした方を振り向くと、鎧のようなゴツイ格好をした男が扉から入ってきた。身体だけでなく、顔までも鎧で隠れていた。
「誰?」
「俺は【十執政】『第十位』ヴァルク・オルデイン。この空間に漂う『創世神』の力の欠片を回収しに来た」
まあご丁寧に話してくれた内容に、アレスだけが顔を引きつらせていた。他の二チームと違い、ここにはアレスが『創世神』の血を引いているという事を知る者はいない。
「悪いが始めさせてもらう」
ヴォルクが取り出したのは、ロエンやサフィナが持っていたのと同様の羅針盤だ。
その中央に埋め込まれている何かしらの結晶が、紫色の反応を示す。
「結構強いな。すぐに集めよう」
ヴァルクが再び、新しいアイテムを取り出そうとする。だが――
シュン!
「なんだ?」
「悪いけど、させないよ」
掌を向け、血液の刃を飛ばしたアレスが、目の前の男を見つめていた――
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