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第25話『【十執政】の目的』

  チームBは【第二階層】『霊界の囁き』ノムールと戦闘を繰り広げている。


 地面に潜り込んでいたノムールは地上に出て、そのお面を外し、明らかにヤバそうな漆黒の魔力砲を口に溜めていた。


「……これで終わりだ」


「レンゲ、エルフィーネ、二人でここを飛び回ってくれない?」


「え、まあ良いけど」


「りょ〜か〜い」


 すると、セツナを残してレンゲが周囲の壁を飛び回り、エルフィーネも《跳刃の舞踏(ちょうはのぶとう)》を使い、レンゲの軌跡を追って移動し続けている。


「うん、そのまま移動しててね」


 セツナは人差し指をノムールに向け、指先に『創世神』のエネルギーを集結させる。

 セツナが取る手段は――


グゴゴゴゴゴゴォッ!!


 ノムールがその魔力砲を真正面に放出するのに対し、セツナは立ち止まり、防御魔法を展開する。そして――


ズゥゥ……ン!!


 空気が振動し、セツナの指先から『創世神』のエネルギー砲が放たれる。しかしそれは真正面ではなく、レンゲとエルフィーネが動いた軌跡に向かって放たれた。


 放たれたそれは、鏡で反射する光のように壁で反射し続け――


バチバチバチ……パァン!!


 ノムールの背中に激突する。


「グァァァァ!!」


 耳を蝕むノイズのような断末魔が響き渡り、三人は耳を抑える。


「うるさ〜」


 断末魔が終わると、その身体は段々と塵になり、消滅していく。


ギィィィ!!


 と、扉が開く音がし、螺旋階段が現れる。


―― チームB【第二階層】『霊界の囁き』ノムール『突破』――


 三人は螺旋階段を登りながら、話をする。


「セツナお姉ちゃん、さっきの攻撃ってどうやったの?」


 と、レンゲが尋ねる。


「『創世神』の力を集めて、壁に反射したら威力が少しずつ上がっていくように設定したの」


 セツナはさらに続ける。


「力を使いすぎてお兄ちゃんみたいに倒れたくないからね」


「へ〜頭良いな〜」


 螺旋階段が終わり、目の前に巨大な扉が現れる。その扉を開くと、中はこれまでと大きく違っていた。


 まるで氷の宮殿のように、辺り一面は氷の柱が立ち並んでいる。


「綺麗……」


 三人が周りを見渡すと、目の前に氷のような透き通った髪を持った美女が立っている。その全身を水色のドレスコードで包まれていた。


「よくぞここまでたどり着いたものじゃ。妾はリュミエール・フローズ。この層の絶対の女王よ」


 綺麗で透き通った声がその空間を響かせる。


―― 【第三層】『氷結(ひょうけつ)の女王』(のじょおう)リュミエール・フローズ『開始』――


「手始めに貴様らの実力を測ってやろう。フリーズニードル」


 氷魔法が詠唱されると、リュミエールの周辺の空間が凍り、無数の氷の針が出現する。そして、それらは三人に向かって放たれる。


「《切断》――ッ!?」


 セツナは『権能』を使い、迫り来る氷の針を切り裂こうとした。しかし、『権能』を使用出来なかったのだ。


「危な〜い」


セツナの顔に当たりそうなところで、エルフィーネが防御魔法を展開した。


「あ、ありがとうエルフィーネ……」


「ここって『権能』が使えないの?」


レンゲがリュミエールに向かって尋ねる。


「そうじゃ。この空間は妾の魔法により、『権能』の行使を不可能にしているのじゃ。さあ、次はどうじゃ? ブリザード・レイ!」


 それが詠唱されると、周囲の空気が静まり返り、吐息すら白くなる。

 冷気のビームが発射され、青白い光が三人に向かって放たれる。


 エルフィーネが再び防御魔法を展開する。しかし――


「えいっ!!」


 レンゲが血液の刃で正面から突っ込み、迫り来るビームを真っ二つに切り裂いた。


「えぇ……」


 セツナが驚愕の表情で見つめているが、それに構わずリュミエールに急接近する。


「な、なんじゃ!?」


「えいっ!」


 血液の刃と、リュミエールの氷の剣が何度も衝突する。

 何度も何度も、衝突しては氷の剣が破壊され、作り直してを繰り返す。


「くっ……フリーズチェーン!!」


「何それ!?」


 知らない氷魔法が詠唱され、地面から氷の鎖が現れる。それはレンゲの四肢を絡み付こうとするが――


「インフェルノ!!」


セツナにより炎魔法が詠唱される。凍った空間の中、レンゲがいる地面が一気に炎に包まれ、地面から現れた鎖は燃え尽きてしまった。


 リュミエール一度後ろに後退する。


「ふむ、結構やるようじゃな。――グレイシャル・フィールド!!」


 またもや知らない魔法が詠唱される。

 すると、リュミエールの足元に展開された魔法陣から、薄く青白い光が漏れ始める。それは冷気の波となり、瞬く間に辺り一面を包み込む。


「何これ? ――ッ!?」


 次の瞬間、空気が硬質なガラスのように透明度を増し、肌に突き刺さる冷気が一気に広がった。

 呼吸が白く凍り、足先が鈍り、指先の感覚が消えていく。魔力の流れまでもが鈍化し、まるで体内の血液すら凍り始めたかのようだった。


「これ、まずいかも……」


 セツナ、レンゲは血液の刃すら作ることができなくなってしまった。エルフィーネはというと、今にも倒れそうになっている。


「インフェルノ……」


 エルフィーネの詠唱した炎魔法により、一瞬、三人の地面が燃え上がり温まるが、その炎もすぐに消滅してしまった。


「仕方……ない」


 セツナがゆっくり目を閉じる。すると、空気が一度沈黙する。

 それと同時に、セツナの身体を中心にして光が放たれる。それは『創世神』の力だ。


 周囲の空気は瞬く間に正常に戻り、レンゲとエルフィーネは段々と顔色が良くなっていく。

 セツナの綺麗な赤髪のミディアムヘアは、真っ白になり、その緋色の瞳も真っ白になる。


「な、なんじゃ貴様は……」


「セツナお姉ちゃん……」


「セツナ様……」


 と、三人は神々しい見た目になったセツナを見て驚きの声を上げる。

 それと同時に、リュミエールの下にあった魔法陣は音もなく消滅する。


「そ、そんなまさか……フロスト・ディザスター!!」


 知らない氷魔法が詠唱され、「ブリザード・レイ」より高火力のビームが、セツナに向かって一直線に飛んでくる。

 それは触れたものを全てを凍らせ破壊する、いわゆる「死の魔法」というものだった。


 しかし、そんな魔法はいとも簡単に消滅してしまう。


ギィィイイン――ッ!!


 氷が軋みを上げるような、高周波の音が実体のない空間に響き渡る。


 まるで世界そのものが悲鳴を上げたかのように、


パァン!!……パシュゥ!……


 衝撃とともにビームが四散し、冷気の爆裂音と共に空気が弾ける。


「まさか……今のは妾の最高火力の魔法じゃぞ?」


「今度はこっちから行かせてもらうからね」


 リュミエールセツナを見つめていた。瞬きもせずにだ。しかし、その姿は一瞬で消え――


「ッ!? どこに……」


ドンッ!!


 後ろから音もせず現れたセツナにより蹴り飛ばされてしまった。


「速い……妾も本気を出すしかないようじゃな」


 リュミエールの身体に魔力が集まる。その時、空間が凍りつくような「別の気配」を感じる。


「はぁーいストップストップー」


 女の声が扉の方から聞こえてくる。その場にいた四人が扉の方を向くと、白と紫の豪華なドレスを着た女がいた。


「……誰?」


「どーもー初めましてー。アタシは【十執政】『第八位』サフィナ・カレイドでーす。よろしくー」


 聞きなれない言葉が女の口から出される。それに対し、セツナ、レンゲ、エルフィーネは首を傾げていた。


「あっれーもしかして知らなかった!? あーそっかー!! アタシたちって表立った行動はしてないもんねー」


 一人で納得したように腕を組み、頷いている。


「えっと……サフィナちゃん? あなたは何をしに来たの?」


 レンゲが首を傾げながら尋ねる。


「アハッ!! アタシの名前呼んでくれるんだー嬉しいなー。目的? それはねー……『創世神』の力の欠片を集める事なんだー」


「「「――」」」


 セツナ、レンゲ、エルフィーネの三人が、一瞬だけ顔を強ばらせたが、すぐに平静に戻る。


「『創世神』の力の欠片を集めてどうするつもり?」


「ごめーん! それは言っちゃいけない決まりなんだー。ロエンとの約束だしー」


「ロエン?」


 知らない名前を出されてセツナが首を傾げる。


「そーそーロエン。そいつもねーアタシと一緒に来てるんだー。今はチームAに行ってるよー」


 セツナが驚愕の表情を浮かべ、さらに尋ねる。


「なんでここに来たの?」


 サフィナが羅針盤のようなものを取り出す。その瞬間――


「――ッ」


 空気が変わった。言葉では言い表せない、圧しかかるような空気が場を包み込む。


 サフィナの持つ羅針盤の針が動き出す。その中央に埋め込まれている何かしらの結晶が、紫色の反応を示す。


「これねー『創世神』の力の欠片を探す時に使うんだけどー、なんかAからCに強く反応してさー。だから集めに来たってわけー」


 サフィナは笑顔を見せているが、周囲は重くなった空気が漂っていた――




読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
AとBで同様に襲われたということは、Cにも別働隊が向かっていそうですね。 まだ強さが不明ですし、油断出来ない存在なので目が離せませんよ。
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