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第22話『【第一層】『突破』』

最近調子がいい

  チームA、Bが【第一層】『断罪の門番』ゴルグと戦っている中、もちろんチームC――即ち、アレス、グレイス、エリシアも彼と戦っている。


「――」


 機械的な音を立てながら、ゆっくりと立ち上がり、両腕に持つ盾と剣を構える。

 この機械を倒すにはそこそこ強い攻撃を当てる必要があるだろう。


「返事もしないし、硬いしめんどくさいなお前」


「――」


「チッ」


 グレイスはゴルグの剣から逃げつつ、炎や水などの属性魔法を詠唱し撃ち続ける。

 ゴルグは盾で防ごうとするが、『魔導師』として、最強の魔法使いであるグレイスの魔法からは逃げられない。


「――」


 全ての魔法をゴルグの身体に当てるが、その防御力故に傷一つ付かない。


「……あ」


 どちらかというと、アレスはセツナと同じで知的に戦うタイプだ。グレイスとゴルグの戦いを見て、セツナと同じく、倒す方法の予測を立てることが出来た。


「ねえエリシア、君は《拘束》を持ってるよね?」


「うん、持ってるよ」


 エリシアはセツナとレンゲの友達だ。後もう一人友達がいるが、その子は別チームになってしまったため一緒に居ない。


「じゃあそれであいつを拘束して欲しい。できる?」


「出来るけど……簡単に破壊されるからちょっとした時間稼ぎにしかならないよ?」


「大丈夫。じゃあお願い」


 エリシアはこくりと頷き、《拘束》の『権能』を使ってゴルグの両手両足を透明な鎖で縛る。


「よし。グレイス、すぐにアレを撃って!」


「全く、人使いが荒いな……」


 グレイスは体勢を整え、その機械に向かって杖を向ける。

 詠唱を続けると周囲の魔力が杖に集中し魔法陣が出来上がり――


「――エレメントキャタスト!」


 そう叫ぶと、ゴルグに向かって魔力砲が放出される。


 エレメントキャタスト――『魔導師』の家系に伝わるオリジナル魔法だ。

 それを放出された敵は塵一つ残らない。

 先日、『神龍オメガルス』に使用した際に初めてダメージを与えられた魔法だ。グレイスはそれからもさらに改良し、その時よりも火力が上がったのだ。


「――」


「ふぅ…相変わらず威力がすごいね」


 真正面からそれを受けたゴルグは塵一つ残っていなかった。そうして――


ギィィィ!


 奥の扉が開き、第二層に続く螺旋階段が見えてきた。


「っ……」


 グレイスは膝をついて倒れてしまう。エレメントキャタストを使った影響だ。威力が強すぎる余り、使用者が動けなくなってしまう。


「ちょっと!? 大丈夫?」


「ああ、大丈夫……っと」


 エリシアが心配で近づくが、グレイスは問題なさそうに全身に治癒魔法をかけ、万全の状態に戻すことで普通に立ち上がった。

 これは一日一度しか使えないが、神龍戦でも使った技だ。


カッ……カッ……カッ……

 

 螺旋階段を登り、チームCが最速で第一層を突破した。


(……気のせいかな?)


 だがその中で、アレスだけが妙な違和感を感じていた。


 ――チームC【第一層】『断罪の門番』ゴルグ 『突破』――


◆◇◆◇


「……突破方法が分かった」


「ほんと!?」


 チームCが突破する二分前、セツナはアレスよりも先に突破方法を考えついていた。それは――


「アイツを全方向から一気に叩く。それか、高火力の攻撃を一点に叩き込む。どちらかすれば勝てると思うけど、私たちに出来るかどうか……」


 セツナが抱える懸念点、それはその二つの方法を実践出来るかだ。倒し方がわかってもできなければなんの意味もない。


「ねえ、なんでその2つの方法なら倒せるの?」


 レンゲが首を傾げてセツナを見つめる。


「まあ、予想なんだけどね――」


 セツナはその予想を話し始めた。


 セツナの予想はこうだ。

 ゴルグは攻撃を受ける部分に魔力を集めて防御している。

 だから、一部分を狙い、ゴルグの防御力を貫通できるほどの攻撃をする。

 もしくは全身を満遍なく攻撃し、全身に魔力を分散させ、一部分に集まる魔力を減らして貫通させる。

だ。


 エルフィーネは分からないが、少なくともセツナとレンゲは『創世神』の力を使うか、夜になって吸血鬼の力を覚醒させないとグレイスのような高火力の技を出せない。そのため、一部分を狙うより、全身を狙う方向で倒すと決めた。


「じゃあ、私が《切断》でアイツの全身を切り刻むから、二人が攻撃して」


「了解!」


「は〜い」


 セツナが《切断》で全身を切り刻み続けると、やはりその鋼の体に傷ができ始めてきた。


「やっぱりね。二人ともお願い!」


 そう叫ぶと、レンゲが圧倒的な身体能力で壁を蹴りながらゴルグに接近し、エルフィーネは《跳刃の舞踏(ちょうはのぶとう)》を使ってレンゲと同じ軌道で接近する。


「はい、エルフィーネちゃん!」


「ど〜も〜」


 レンゲは血液の刃を二本作り、その一本をエルフィーネに投げ渡す。


「えいっ!」


「――」


 二人によって投げられた二本の刃は、鋼の身体を貫通しゴルグは膝をついて倒れた。

 倒れると直ぐに、身体が塵のように消えていき何も無くなってしまった。


ギィィィ!


 奥の扉が開き、螺旋階段が姿を現す。


「これでクリアってことで良いのかな」


「さっすが〜ご主人様達〜」


「エルフィーネも頑張ったよ!」


「ありがと〜」


「ほら、早く階段上がるよ」


 レンゲとエルフィーネの和んだ会話にクスッと笑い、螺旋階段の方に向かう。

 しかし――


(あれ? なんか……)


(なんだろう? 変な感じ……)


「あれ、ご主人様達どうかしました〜?」


「「……いや、なんでもないよ」」


 セツナとレンゲもアレスと同じく、妙な違和感を感じていたまま、【第二層】に向かう。


 ――チームB【第一層】『断罪の門番』ゴルグ 『突破』――


◆◇◆◇


 チームCが突破した50秒後、そしてチームBが突破した10秒後、なんとチームAはまだ【第一層】で戦っていた。


「もっと本気でやんねえと……」


 アッシュは炎、水などの属性魔法を長剣にかけ、それでゴルグの剣と交えている。

 何度もゴルグの身体に長剣を振りかざしたが、傷はつかず、属性魔法をかけてようやく少し傷が付くようになったほどだ。


(アレスの方もセツナの方も攻略したか……俺らも直ぐに攻略しねえと……)


「――危ない!」


「っ!?」


 考え事をしている中、セレナの叫び声で顔を上げ、アッシュの方を見る。するとアッシュの長剣が折れ、今にもゴルグの剣がアッシュの首をかすめようとしていた。


「まずい! あ、セレナ!」


「は、はい!」


 セレナは直ぐに《刻律の調律(こくりつのちょうりつ)》を使い、時間のリズムを操りゴルグの攻撃タイミングを遅らせる。


「っ!」


 その瞬間、アッシュは《超加速》を使用し、後ろに向けて超高速移動をする。


「はぁ……危なかった……。助かったよ二人とも」


「俺はなんもしてねえよ。礼ならこいつに言ってくれ」


「わ、私もそんなに役に立つようなことは……」


「君が攻撃のタイミングを遅らせてくれたおかげで僕は直ぐに《超加速》で逃げれた。ありがとう」


「でも、剣折れちまったな……」


 セレナがいなければアッシュは死んでいただろう。

 しかし彼の持つ長剣は折れてしまった。おそらく、ゴルグの鋼の身体に何度も切りつけたことが原因だろう。


「はぁ、どうする? もうアレスのチームもセツナのチームも攻略してるし……」


「え、なんでわかるの?」


「な、何となく……」


 嘘だ。ラインは普通に『創世神』の力でレンゲと会話をしていた。レンゲはアレスにも連絡をしていたので、その二チームが突破したことはすぐに分かった。


「仕方ない。一発でやればいいだろ」


 ラインが片手を構え、得体の知れない攻撃をしようとする。


「あ、ちょっと待って」


「?」


 アッシュはそんなラインを止め、ゆっくりと立ち上がると、《空間操作》を使って異空間の武器庫を出現させ、そこに腕を突っ込んだ。


「これでいいかな」


 アッシュが腕を引き上げると、その空間が燃えるように暑くなる。

 アッシュの手には、炎のように燃えている真っ赤な剣が備わっていた。


「なんだよその剣」


「これはフェルザリア家に代々伝わる『神剣』(しんけん)アグナシスだよ。これを含めてあと七本あるんだ」


 そう言って構えたその真っ赤の剣は『神剣』アグナシスと言う名前らしい。見た目からして炎の剣だろう。


「じゃあ、行くよ」


 そう呟くと、《超加速》でゴルグに接近し、ゴルグと剣を交える。すると、ゴルグの剣や盾は直ぐに燃え、溶けてしまう。


「まじか……とりあえず俺らも加勢するぞ」


 圧倒的火力に驚きながらも、ラインは『剣聖』を邪魔しないようにサポートすることに決めた。


「わかりました!」


 セレナは《跳刃の舞踏》でゴルグの攻撃のタイミングを遅くし、アッシュの攻撃のタイミングを早くする。


 さらにアッシュは《超加速》で自分の動きを超高速化しているため、信じられない速度でゴルグの周囲を動き回り、手に持つ『神剣』でゴルグの全身を切り刻むことが出来る。


「よっと……」


 ラインもまた、周囲の壁を蹴ってあらゆる方向から血液の糸でゴルグをぐるぐる巻きに拘束し、動け無くなった所を――


「ハァッ!」


 アッシュの炎の斬撃がゴルグの胴を真っ二つにし、ゴルグの肉体は段々と塵になっていく。

 戦闘が終わるとアッシュは直ぐに、その『神剣』を武器庫に入れ直した。


「その剣凄いな……」


「本来は『剣聖』の『権能』がないと扱えないんだけどね。僕はそれを持っていないとはいえ、『剣聖』だ。だから仮の所有者として使えるようになってる」


 先代の『剣聖』であり騎士団団長だったアッシュの父親が五年前に『神龍オメガルス』と戦い、帰って来なくなった為、アッシュが代わりに『剣聖』を務めている。

 そのため、『剣聖』の『権能』を持っていないが称号は『剣聖』という少しややこしい事になってしまっている。


 七本の『神剣』はアッシュの言う通り、本来『剣聖』の『権能』を持った人にしか使えない。しかし、アッシュは仮契約により一日五分間だけの時間制限付きで使えることになっている。

 武器庫から出していない間は時間制限を受けないため、戦い終わるとすぐ武器庫に戻しているのだ。


ギィィィ!


 そんな話をしていると、奥の扉が開き螺旋階段が姿を見せる。


「階段が見えました。登りましょう」


 落ち着いたように階段を見て、二人を見つめる。それに答えるように、ラインもアッシュも返事をする。


「ああ、そうだな……」


「うん……ライン、どうかした?」


「いや、なんでもない」


 他の兄妹と同じくラインも妙な違和感を感じていたのだ。


――チームA【第一層】『断罪の門番』ゴルグ 『突破』――


 チームA、B、Cを後ろから何者かが付け狙っていることを知らずに―


――【第二層】『霊界の囁き』ノムール『開始』――



読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
神剣は強いんですね〜。 後ろから付いてきているのは教官たちかなと思いました。 弛んでいるとペシッとやられちゃうのでしょう……きっと。 (´ε`)
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