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第21話『転校生と試練の迷宮』

 日差しが差し込んでくる窓際で、朝のホームルームをしているカイラス先生を見続ける。


 その内容は、魔法の試験場の無くなったはずの鍵が見つかったこと、そして今日は魔法の試験をすること、そして――



「――今日は転校生を紹介する」


 予告もない急な展開によってクラス中に衝撃が走り、全員が目を合わせる。全員が目線をドアに向ける。


「入って来ていいぞ」


ガラッ!


 ドアが開き、外から2人の美少女が入ってくる。

 片方は長い銀髪をリボンで結んだ、猫耳としっぽ付きの女の子。もう片方は、金髪ツインテールの女の子だ。


 そう、彼女たちは昨日から四つ子のメイドを務めることになったセレナ・クラヴィールとエルフィーネ・モランジェだ。

 屋敷ではメイドの格好をしているが、流石に学園ではしっかりと制服を着ている。


「じゃあみんなに自己紹介をしてくれ。『権能』もな」


「はい」


「は〜い」


 二人はそう返事をして、自己紹介を始める。


「はじめまして、セレナ・クラヴィールです。私の『権能』は《刻律の調律(こくりつのちょうりつ)》と《封界の楔(ふうかいのくさび)》です。ぜひ、よろしくお願いします」


「はじめまして〜。エルフィーネ・モランジェで〜す。『権能』は《幻響の舞奏(げんきょうのまいそう)》と《跳刃の舞踏(ちょうはのぶとう)》で〜す。よろしく〜」


 どうやらセレナはメイドの時とメイド以外の時では気合いの入り方が違うようだ。昨日のメイドモードの時は一人称は「(わたくし)」だったし、かなり丁寧な言い回しをしていた。


 エルフィーネに関しては……何も変わっていない。


 セレナの持つ一つ目の『権能』――《刻律の調律》は一定範囲内の時間のリズムを操ることが出来るものだ。

 時間を止めたり戻すことは出来ないが、攻撃のタイミングを早めたり遅めたりと器用なことができる。


 二つ目の《封界の楔》は結界を作るものだ。


 エルフィーネの一つ目の『権能』―― 《幻響の舞奏》は幻影を広げ、幻を人に見せることができる。


 二つ目の《跳刃の舞踏》は音や光の軌跡を利用し、分身したり空間を跳ねるように移動できるものだ。


 自己紹介を終えた二人は丁寧に頭を下げ、自分の席に座った。それを確認した先生は、扉に手をかけて言う。


「じゃあ早速だが、試験を始める。全員、すぐに魔法実習場に向かうように」


「「「はーい」」」


 クラス中がそう答え、すぐに外に出る準備を始めた。


◆◇◆◇


 実習場に着くと、普段は何もない地面に奇妙な魔法陣が描かれていた。

 魔法陣の中央には、黒鉄色の鍵穴がある。


「何あれ?」


「魔法陣?」


 と、生徒達が疑問を口にする。

 それに構わず、先生は懐から古びた鍵――おそらく見つかった試験場の鍵らしきものを取り出し、鍵穴へと差し込んだ。


ガチャン――


 重厚な音と共に、魔法陣が光り出す。その後、魔法陣の上に段々と扉が形成されてくる。


「これは……」


ガチャ――


 扉を開くと、眩い光を放出しながら、その中の全貌が明らかになる。


「す、すげぇ……」


 その場にいる全員が目を見開きながらその扉の中を見つめる。

 驚くのも無理はないだろう。なぜなら、扉を開くとその奥はありえないほど広い空間で、螺旋状の階段が果てしなく続いていた。

''異世界への扉''と呼ぶに正しいように見える。


「入れ。『ラビリンス・ゼロ』だ。気を引き締めて行け」


『ラビリンス・ゼロ』と呼ばれたその場所に、全員が足を踏み入れる。


 その広大な空間に広がるのはまるで迷宮のようなものばかり。

 広さだけでなく、様々な魔法建築にどこか神秘的なものを感じさせるものだ。


「こ、ここ全部試験場なのか?」


「すごい……」


 全員が見とれて驚きの声を上げている中で、先生が手を叩いた。


「はい、お前ら静かに。それでは今からこの『ラビリンス・ゼロ』にて、試験を行う」


 先生の合図と共に、全員の頭上に名前とチームが書かれた紙切れが配られた。


「チームは三人1組だ。そのチームでこの迷宮をクリアしてもらう」


 一人一人の頭上に淡い光が浮かび、名前が組み合わさっていく。


チームA

《ライン・ファルレフィア》

《アッシュ・フェルザリア》

《セレナ・クラヴィール》


チームB

《セツナ・ファルレフィア》

《レンゲ・ファルレフィア》

《エルフィーネ・モランジェ》


チームC

《アレス・ファルレフィア》

《グレイス・エヴァンス》

《エリシア・アルセリア》


 と、チームAからチームMまでが決まった。


「先生! 試験って結局何すればいいんですか?」


 一人の生徒が先生に尋ねる。


「ここは五階層まである。そして、全ての階層にボスがいるから全て倒せば良い。魔法だけでなく、『権能』も使って構わない」


「えーでもそれって最初の人に着いていけば何もしなくて良くないですか?」


 ごもっともな質問だ。確かに最初のチームがどんどんボスを倒していけば、残りのチームはついて行くだけでクリアしてしまう。

 これができるのなら試験にならないだろう。しかし――


「安心しろ。ちゃんと全チーム分、用意してある」


 そう、この広大な空間に、全チーム分の螺旋階段があり、その全てが全く同じ条件でクリアできるというものだ。これなら不正はできないだろう。


 周りに広がる大量の螺旋階段を見て、全員が驚愕する。そして、全チームがそれぞれの螺旋階段の目の前に行き、先生の合図を待っている。


「よし、全チーム位置に着いたな。それでは試験を開始する。始め!」


 その合図により、全チームが一斉に螺旋階段を登っていく。


◆◇◆◇


――【第一層】『断罪の門番』ゴルグ――


 チームA――即ち、ライン、アッシュ、セレナが第一層のボスと対面する。

 ボスの外見としては、巨体の機械騎士で、鋼の身体を持っている。


「あんたがボスってことで良いのか?」


「――」


「無視かよ。まあいい」


 返事もせずにゆっくりと立ち上がり、その両腕に持つ剣と盾を構える。

 いかにも門番という見た目だ。


「そういう感じね」


 そう呟き、ラインは血液操作で血液の剣を作って構える。

 アッシュは自身の『権能』――《空間操作》を使い、異空間の武器庫から長剣を取り出し構える。


「てか、お前は戦えるのか?」


「はい、もちろんでございます、ライン様」


 少しの心配をセレナにかけるが、当の本人は気にすることなく、そう返した。


「なら良いけど。行くぞ」


「うん」


カキィィン!!


 ゴルグの剣と、アッシュの長剣がぶつかり火花を散らしながら激しい剣を交えている。


「ラアッ!」


 その後ろから、ゴルグの背中に血液の刃で切りつける。しかし、圧倒的な物理防御と言うべきか、傷一つ付かない。


「硬いね……」


アッシュの剣技は圧倒的にゴルグを上回っていて、それをゴルフは全て受け止めることができない。しかし、その防御力故にどれだけ剣を振っても傷を付けることが出来ないのだ。


「「ウィンドカッター」」


 ラインとセレナは風の魔法を詠唱し、風の刃をぶつける。しかしやはり傷はつかない。


「もう少し全力でしないとダメだな」


 おそらく、ゴルグは物理防御だけでなく、魔法防御も兼ね備えている。そのため、生半可な物理攻撃も魔法も彼に傷一つつけることはできないだろう。


◆◇◆◇


 同時刻、チームBもまた【第一層】『断罪の門番』ゴルグと戦闘を繰り広げていた。


カキィィン!


「もー硬いよー」


 レンゲはそう呟きながら、圧倒的な身体能力でゴルグの攻撃を躱し続け、血液の刃で攻撃を仕掛けている。しかし、こちらもチームAと同じく、傷を付けることはできない。


「仕方ない。レンゲ、一旦戻って」


「はーい!」


 全ての攻撃を上手に躱し続けてセツナとエルフィーネの所に戻っていく。


「とりあえず、私の《切断》で」


 セツナは不可視の斬撃を飛ばし、ゴルグを全方位から切り刻む。すると――


「――」


 呻き声を上げたゴルグの全身に、少しだけ斬撃の跡が残っている。


「喰らった? すごい、セツナお姉ちゃん!」


「さすが〜」


「……なるほどね」


――セツナだけは攻撃が通った理由を予測することができた。

 こうして、チームBが最初のリードを果たす――




権能がまた多くなってきたので解説の方のepを作りました。

読んでくれてありがとうございます

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― 新着の感想 ―
チーム対抗戦みたいな感じなんですね。 てっきりラインのチームがリードすると思っていたら、リードしたのはセツナのチームですか。 これは波乱もあるのかも?
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