第20話『両親は再び消えていった』
ゴールデンウィーク短いよー!
気だるそうなメイド――エルフィーネに連れられた食堂には、テーブルに色とりどりの料理が乗せられていた。
そしてその中には、末妹のレンゲが食べたいと言っていたシチューがあった。
「あ、シチューだ! 作ってくれたの? 私今日食べたかったんだよね!」
喜んでいるレンゲを横目に、セツナが誇りを持ったような顔で腕を組んでいた。
「じゃあみんな座りましょうか。食べるわよ」
そうして、アルケウス、ルナミア、ライン、アレス……と、自分の席につき、食事をし始めた。
こうして両親と食事をするのは何日ぶりだろうか――と、そんなことを考えながら、ラインは食事を口に運んでいく。その中には赤色のスープがあり、それを口に入れると――
「うっ、何だこの味……誰が作ったんだよ……」
めちゃくちゃ不味かった。渋った顔をしながらそうつぶやくと、エルフィーネが「あ、そのスープ、アタシが作ったんだー」と言った。
本人が言った通り、この味なら料理は微妙だなと、その場にいた全員が思った。
◆◇◆◇
夕飯が終わったあと、二時間ほどの団欒の時間を過ごしていた。
レンゲは、久しぶりに両親に会えたのが嬉しいのか、ずっとアルケウスとルナミアの近くを行き来して後ろから笑顔で抱きついたりしていた。
セツナは、セレナとエルフィーネと仲良く話していた。何の話をしているかわからないが、セツナが仲良く話しているのは意外だ。
ラインとアレスはそんな二人の妹を交互にチラチラ見て、幸せと思いながら過ごしていた。
賑やかだった空間で突然、アルケウスが口を開く。
一瞬の沈黙が流れ、アルケウスの方を向く。
「さて、私たちはまたここを離れるが元気に過ごすのだぞ」
「あら、もうそんな時間? まだいたいけど仕方ないわね…」
ルナミアが立ち上がると、レンゲがルナミアに抱きつき、
「えー! もう行っちゃうの?」
と、不満そうに頬をプクっと膨らませていた。
「私もまだいたいわよ。でもアルケウスがイグニスに招待されちゃって。話があるんですって。それが終わったらまた夫婦旅行に戻るわ」
――アルケウスとルナミアが屋敷に戻ったのは、まだラインが『知恵の神』アステナと話している時である。
両親の目的は、セレナ・クラヴィールとエルフィーネ・モランジェ二人のメイドを、ルナミアの父親達が住んでいる屋敷から四つ子のメイドとして連れて来るためだった。
しかし、2人を連れてきて、ルナミアが屋敷の事を説明していると、『炎神』イグニスと『雷神』ヴォルスがアルケウスとルナミアの二人を招待しに来たのだった。
「まあ、そういう事だ。しばらくの間離れるが、その間こいつらの面倒を頼むぞ。セレナ、エルフィーネ」
アルケウスは二人のメイドを見て、四つ子の世話をすることを頼んだ。
「はい、かしこまりました。アルケウス様、ルナミア様」
「は〜い。了解しました〜。アルケウス様〜ルナミア様〜」
気だるそうなエルフィーネを見て、アルケウスは少し心配になるが考えることをやめた。
「ふふっ。よろしくお願いね、2人とも。じゃあみんな元気にするのよ。あ、喧嘩はしちゃダメだからね?」
ルナミアの心配に対して、四人はそれぞれ答える。
「分かったよ母さん」
「もちろん、分かってるよ。お母さん」
「はいはい、分かってる」
「はーい! もちろん仲良くしまーす!!」
テンションが違いすぎる四人の返事を聞き、アルケウスもルナミアも安心したような笑顔を向けていた。
◆◇◆◇
――2人は一瞬で消えていった。
屋敷の外で、アルケウスとルナミアは手を振りながら光のような粒子になり、そのまま空に向かって消えていった。
「……一瞬だったな」
「ちぇっ……久しぶりに会えたと思ったのに。また行っちゃうなんて……」
レンゲは肩をおろし、残念そうな顔をして俯いていた。
「こら、レンゲ。そんな顔しない」
「イタ……ちょっと、アレスお兄ちゃん! 頭小突かないでよ! もう!」
「ごめんごめん」
レンゲはアレスに向かってプクッと頬を膨らませながら睨む。なんて可愛らしいことだろうかとラインとセツナは思いながら、アレスを見つめたりする。
最近……というより歳を重ねるにつれて、アレスの子供っぽいところはなくなり、兄妹の中では一番落ち着いていて頭脳担当のようなところがある。
正直兄妹で1番性格が変化したのはアレスだろう。
ラインは今と昔で見た目以外殆ど変わってない。
セツナは、昔はレンゲみたいに元気に走り回ったりよくアレスと追いかけっこをしたりしていたが、段々と落ち着いてきた。
レンゲは……見た目以外今も昔も何も変わらない。常に元気だ。うるさいくらいに。
だがアレスは、昔はよく兄妹にちょっかいをかけて遊んでいた。
例えばセツナやレンゲが育てている花を勝手に詰んで二人を泣かせては、ラインや両親に怒られたりして、それでも懲りずに何度もそんなことをしていた。
なぜ今はそんなに性格が変わったのか、両親にも兄妹たちも分からないままだが、きっとアレスなりの理由があるのだろう。
そんなことを考えていると、後ろからセレナに声をかけられる。
「そろそろ就寝の時間ですよ。ご主人様達」
「あ、そっか。じゃあ部屋戻るか……そういえばセレナとエルフィーネはどこで寝るんだ?」
「客人の部屋がちょうど二部屋ほど余っていたそうなので、私たちはその部屋で寝るようにルナミア様に言われました」
なるほど。と納得したように首を縦に振り、六人は屋敷の中に入って行く。
「では、おやすみなさいませ。ご主人様達」
「おやすみなさ〜いご主人様達〜」
二人のメイドのおやすみの挨拶に答えるように、四人もそれぞれ返事をする。
「ああ、おやすみ」
「おやすみ。また明日」
「じゃ。おやすみ」
「おやすみなさーい! また明日ね!」
――こうして、忙しかった一日は終わった。
◆◇◆◇
陽の光が窓から差し込んでくる朝、ベッドに寝ていたラインはゆっくりと目を開く。
「朝か……よく寝た」
ベッドから体を起こし、ふと窓から太陽の方を見る。
「今日も昨日と一緒で日差しが強いな……できるだけ影歩こ……」
四つ子は半吸血鬼だ。ハーフとはいえ、もちろん吸血鬼の体質を受け継いでいる。
そのため日光に弱いが、死ぬということは無い。ただ陽が出ている間にかけて身体が常にだるかったり、本調子を出せなかったりするくらいだ。
まあ四つ子は『創世神』の力も引き継いでいるため、それくらいはどうとでもなるのだが……使いすぎるとさらに疲れたり、『神龍オメガルス』と戦った後のラインのようになってしまうため、日光に我慢しながら日々を過ごしている。
「おっはよーラインお兄ちゃん!! いい朝だね!!」
いつも通り、ラインの部屋の扉を強く開けてくる。できればもう少し静かにして欲しいものだ。
「ああ、おはようレンゲ」
この末妹は、なぜ朝からこんなにも元気なのかと不思議に思いながらも、いつも通りおはようを言う。
「ねえラインお兄ちゃん、今日って魔法の試験あるのかな?」
「あーたしかに。どうなんだろうな? 行ってみないと分からない」
昨日、朝のホームルーム内でラインたちの担任かつ、魔法科の担当であるカイラス・ヴァルディ先生に言われた事は、魔法の試験で使用する場所の鍵を何者かに奪われ、試験ができないため即帰宅しろとの事だった。
鍵が盗まれたのは大問題だと思うが、一体犯人は何が目的なのだろうか……
「おはようございます、ライン様、レンゲ様。朝食の準備は既に整っておりますので、ぜひこちらへ」
扉の外で、セレナが頭を下げて二人を招く。
「あ、ありがとう」
「ありがと!」
二人は部屋から出て、セレナに着いて行く間に『創世神』の力でテレパシーで会話していた。
(やっぱメイド慣れないよな……)
(ねー。でも可愛いし話しやすいし問題ナシ!)
(楽観的すぎる……)
と、話していると、食堂に着いた。既にアレスとセツナは自分の席に座り、二人を待っていたようだ。
「あ、兄さん、レンゲ、おはよう」
「はぁ……やっと来た。おはようお兄ちゃん、レンゲ。遅い」
いつも通りに厳しめなセツナを優しく睨み、挨拶をする。
「ああ、おはよう」
「おっはよー!」
「ではお二人共どうぞ座ってください」
セレナに言われ、二人が席に着くと既に並べられていた朝食を食べ始める。
いつもとは違って、メイドが来た中での朝食は初めてで新鮮だ。しかし、二人とも話しやすいこともあって会話も弾みやすく、楽しい朝食時間を過ごせた。
セツナはふと時計を見て叫ぶ。
「あ、もうこんな時間! ちょっとみんな準備して! 行くよ!」
セツナの声掛けに応じて、三人が準備を終わらせる。そして玄関から出ようとするとセレナから声をかけられた。
「どうしたセレナ?」
「実は……私たちも本日から聖煌魔法高等学園に入学することになりました」
「そ〜そ〜。だからご主人様達待ってよ〜。アタシ達も行くからさ〜」
「「「「は!?」」」」
――と、衝撃の事実を聞いて新しい一日が始まった。
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