第19話『創世神と神々の力』
セレナ、エルフィーネという二人のメイドの自己紹介で騒がしかった玄関から距離が離れるにつれ、うるさい声が段々と消えていく。
目的地は、屋敷の東側にある図書室だ。
セレナからそこにアルケウスがいると教えられた。
「よし」
ガチャッ
ドアノブを回し、図書室の中に入った。すると、父親は椅子に座り、こちらを見つめてくる。
「どうした?」
「父さん、今いい?」
「ああ。なにか話したいことがあるんだろう?」
「うん」
ラインは近くにあった椅子に腰をかけ、話し始める。
「さっき、グレイスの屋敷に行ってたんだ。そこで『知恵の神』を名乗るアステナって女性に会った」
「ああ、アステナか。どうだ? 元気だったか?」
「なんだ知ってるのかよ。まあいい」
意外な父親の反応に驚きつつも、話を続ける。
「帰る時、あいつに聞かれたんだよ。『知恵の神』の力欲しい? みたいな事を」
「なるほど。それで、お前はどう答えたんだ?」
「いらないって言ったよ。別に必要ないし。てか、この質問ってどういう意味なんだよ」
その答えを気に入ったのかわからないが、アルケウスはフッと笑い、再びラインを見つめて話す。
「で、お前はそれを聞きに来たわけか」
「そういうこと」
ラインがそう呟くと、アルケウスはニヤッとしながら急に立ち上がった。
「うおっ! なんだよ、驚かせんなよ……」
「私が簡単に答えを教えるわけないことは知っているだろう? だからヒントをやろう。あとは自分で考えろ。お前自身の知恵でな」
「はいはい……」
いつも通りの父親の様子に安心して、立ち上がっているのを見つめる。
すると、アルケウスは炎魔法を使い、手のひらに炎の球体を乗せた。
「何してんの?」
「お前はこれを『創世神』の力を使わずにできるか?」
「いや、できないから魔法使ってる」
『創世神』の力があれば、できないことはない。しかし、四つ子だけでなく、父親であるアルケウスもまた、炎・水・氷・雷・風を生み出す時は魔法を使っている。
なぜこんなに万能な『創世神』の力でそのようなものを生み出せないのか。その理由は――
「お前達は数年前にこれらの属性を司る神に会ったことがあるだろう?」
「あ、うん」
そう、『炎神』イグニス、『雷神』ヴォルス、『風神』エオニア、『水神』アクア、『氷神』イゼルナ。彼らはそれぞれの属性を司る神である。
この五人の神は一緒の屋敷に住んでいて、数年前に四つ子が泊まって世話になったことがあった。
「で、あの人たちになんの関係が?」
「この世界に魔法があるのは、彼らが持つ神の『権能』によるものだ。彼らが人類に炎・雷・風・水、・氷魔法を使う事を許可しているため、人類は魔法が使える」
「へー」と言うような顔でアルケウスを見つめて、アルケウスも話を続ける。
「そして、彼らが持つ、属性を支配できる神の『権能』は誰に与えられたものだと思う?」
「……まさか」
「そう。それは元々私の力だ。数百年前、私が彼らをそれぞれの属性を司る神にしたのだ。もちろん適当に選んだ訳じゃないぞ? 将来的に見込みのあるやつを選んだ。だから彼らは私の力――つまりは『創世神』の力の一部を持っている」
「いや結構大事な事だよそれ!? なんで教えてくれなかったんだよ?」
衝撃の話を聞き、内心穏やかでは無いが落ち着いているライン。それに答えるように、手でラインを落ち着かせて続ける。
「まだいいだろうと思っただけだ。教えるつもりがなかった訳では無い」
ラインが呆れたように父親を見つめる。そして何かに閃いたように口を開いた。
「あ、てことはアステナの『知恵の神』の力も……」
「そう、元々私の力だ」
「なるほどなー」
納得して椅子から倒れ落ちてしまった。
なぜアステナはわざわざそんな質問をしたのか。その理由はおそらく――
「怖かったのだろうな。お前たちが」
「は? アステナが俺らのことを怖がってたってか?」
ラインはアステナのことを思い出すが、怖がっている表情は思い出せない。
最初は落ち着いたミステリアスな女という雰囲気だったが、意外と感情が表に出ることはわかっている。
この父親は何を言っているのかと思っていると、それに勘づいたのかアルケウスは口を開く。
「彼女は『知恵の神』だぞ? 人に対する警戒心など考えられないほど強いだろう。もしお前達が彼女を倒して力を取り戻すというつもりで屋敷まで来たと考えたら気が気じゃなかっただろうな」
ラインはアステナの問いに乗らなかった。そしてラインなりの知恵に関する事を述べた後、帰ろうとするラインの背中を、アステナはありえないくらいニコニコした姿で見つめていた。
それは、最初は警戒していたラインに心を開いた証拠なのだろう。
「なるほどな。そういえば、また来てくれとも言ってたっけ……」
「なんだ、お前、彼女に気に入られてるじゃないか。あいつはこういうのが趣味なんだな」
「アステナはこんなのが好きなのかー」と言うようにラインを見つめ、少しニヤニヤしている。
「うるせえよ。まあ、謎は解けた。俺はみんなの所に戻るよ。父さんも行くか?」
「ああ。私も行こう」
二人で図書室から出て、来た道を戻る。その間に会話は何も無かった。
◆◇◆◇
玄関に戻ると、まだみんな話をしていた。飽きないのだろうか……とは思ったが笑いながら近づく。
「あら、ライン、アルケウスも。戻ってきたのね」
「ああ」
「あ、お父さーん! 久しぶりー」
レンゲはアルケウスの胸に抱きつきに行った。アルケウスはめちゃくちゃ嬉しそうな笑顔をして、抱きついてきたレンゲを抱きしめ返す。
「おーレンゲー。お前だけだぞ、私に抱きついてくれるのは。ラインなんか見てみろ。久しぶりに会ったのに挨拶も何もしなかった」
「えへへー」
「はぁ……」
父親とレンゲを呆れたように見つめながら、周りを見渡す。
「あれ? アレスとセツナ、あとメイドたちは?」
「キッチンに行ったわよ。夕食の準備をしているらしいわ」
「へー」
と、そんな話をしていると金髪ツインテールのメイド―エルフィーネがやってきた。
「ご主人様達〜料理出来ましたよ〜。どうぞこちらに来てくださ〜い」
そう気だるそうにライン立ちを呼びに来たエルフィーネについて行った――
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