第18話『二人のメイド』
久しぶりにいつもより早く書けました!!
グレイスの屋敷から帰った四つ子は、自分たちの屋敷に向かってその静かな暗闇を歩いていた。
既に外は真っ暗になっていて、空には月や様々な星座が浮かんでいた。
「疲れたー。なんなんだ今日は……」
「まあ、僕たちは全然疲れてないけど兄さんは疲れただろうね…」
アレスはそう言ってラインを見つめる。確かに今日はラインにとって散々な日だっただろう。
朝は『神龍オメガルス』との戦闘の後、十日ほど寝込み身体も酷い痛みがあったラインを兄妹は無理やり学園に連れていった。
学園ではアレン・クロスとかいう隣のクラスの生徒に怒鳴られ、昼からはグレイスの屋敷で『知恵の神』アステナと出会い、学園に行って消された生徒たちを助けた……などと、かなりハードスケジュールだった。
「しかもまた髪白い部分増えてるし……また倒れても私は何もしてあげないからね!」
セツナが呆れたようにラインを少し睨み、ラインは薄く笑いそれに答える。
「ねえラインお兄ちゃん、さっきアステナさん? と何話してたの?」
レンゲが興味深そうに首を傾げ、ラインを見つめる。
「ああ、なんか急に『知恵の神の権能を欲しい?』みたいなこと聞かれてさ……」
「突然すぎない!?」
セツナが少し大きな声を出し、ラインに綺麗な二度見を決める。それに少し笑い、
「だよな、俺も驚いたよ。急にそんなこと言われたからさ……」
と、答える。隣にいるアレスから肩を叩かれ、横に向く。
「兄さんは何て答えたの?」
「要らないって言ったよ。俺には……いや、俺らには必要ないだろ?」
ラインは「当たり前だろ?」と言うようにアレスを見つめる。すると、アレスは笑って頷き、他の二人も頷いた。
急にレンゲがラインの腕に抱きつき――
「ねえ、ラインお兄ちゃん、今日の晩御飯何にする?」
「え、話変わりすぎだろ……」
「えへへ……お腹空いちゃって。シチューとか食べたいなー」
笑顔でラインの腕に抱きつき、鼻歌を歌っているレンゲをセツナはいつもの事のように呆れた目で見つめていた。
◆◇◆◇
――屋敷の門を開くと、誰もいないはずの屋敷に明かりが付いていた。
「なっ……明かりがついてる!?」
「嘘、私達以外誰も住んでないのに……」
セツナが口を押さえてそう呟く。その時、ラインが屋敷に目掛けて急に走り出す。
「ッ!」
「ちょ、待ってよお兄ちゃん!」
玄関に向かって走り出すラインを3人は追いかける。
「気をつけてって!」
警戒の空気が高まる中、ラインが玄関の大扉に手をかける。
ギィィィ…
大きな音が響き、扉が開いて中から光が溢れ出す。
その先にあったのは――
「あ、おかえりなさいませ〜」
「おかえりなさーいっ!!」
「……は?」
四つ子は挨拶をしてきた二人の女の子を見て首を傾げる。片方は長い銀髪をリボンで結んだ、猫耳と尻尾付きの美少女。もう片方は金髪ツインテールの美少女だ。
その両方がメイド服を着ていて、手を振っている。
「いや誰だよ!?」
「どこから入ったんだろ……」
「猫耳!? メイド服!?」
と、驚いているライン、冷静に考えているアレス、何故か猫耳に驚いているセツナ達を差し置いて――
「うわぁー! メイド服可愛いい! あなたたち誰!? あ、可愛い! 猫耳気持ちいい!」
レンゲは目を輝かせながら二人に近づき、猫耳を持っている銀髪の少女の猫耳を触ったりしていた。
「レンゲ、警戒心無さすぎる……」
警戒心がなさすぎる妹に、ラインがため息をついていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「あら、今帰ってきたの? ちょうど良かったわ」
そう言った綺麗な赤髪を持つ女性は――
「か、母さん!? な、なんで!?」
四つ子は驚愕の表情を浮かべ、その女性を見つめる。それはそうだ。なぜならこの女性は、四つ子の母親であるルナミア・ファルレフィアだ。
ラインたちの聖煌魔法高等学園入学式の日に、四つ子の父親であるアルケウスとともに、宇宙旅行に行ったはずだが、この場にいることに四つ子は首を傾げる。
「お母さん! お父さんと一緒に宇宙に旅行しに行ったんじゃないの?」
セツナが母親にそう問いかける。
「あら、まだ宇宙旅行には行ってないわよ。だって私言ったじゃない? 『初めはこの世界を旅行するわ。それが終わったらお父さんの力で別の宇宙にも行くつもりよ』ってね」
「あっ……」
セツナが思い出したように手を叩き、納得したように首を縦に振る。
「なるほどなるほど……ってそこじゃねえんだよ母さん! いやそれも気になってたけど……もっと他にあるだろ!?」
「他? あ、ああー!! この子たちのことね!」
ルナミアはメイドの後ろに行き、二人の肩に手を乗せる。
「ああ。で、誰なんだよそいつら」
「こら、冷たく当たらないの。ほら、自己紹介してあげて」
「かしこまりました、ルナミア様」
そう言った猫耳のメイドの方がライン達にお辞儀をする。
「私、本日からこちらの屋敷でメイドを務めることになりました。セレナ・クラヴィールと申します。皆様の身の回りの生活、生活環境の最適化、などを務めさせていただきます。よろしくお願いします」
流れるような自己紹介を聞いた後、もう一人のメイドも自己紹介を始める。
「どうも〜。アタシはエルフィーネ・モランジェです。アタシもセレナと一緒で今日からこの屋敷のメイドを務めま〜す。料理はビミョーだけど、体力はあるからおつかいとか掃除は頑張るよ〜」
前半のセレナと比べたら気だるそうな挨拶をすることだ。「えぇ……」みたいな目でエルフィーネを見つめ、母親に尋ねる。
「母さん、何でメイド連れてきたんだよ?」
「私、あなたたちももう大きくなったから私達がいなくても大丈夫! って思ったんだけど、やっぱり心配で……でも夫婦旅行を辞める訳にはいかないじゃない? どうしようかなーって悩んだんだけど……」
「それで?」
催促するようにセツナが言葉を繋げる。
「私の家系って吸血鬼の貴族じゃない? それでこの子達の家系が代々ファフレフィア家のメイドを務めてたの」
元気にそう言って、さらに続ける。
「今お父様達が住んでる屋敷に行って、『ライン達だけは怖いからセレナちゃんとエルフィーネちゃんうちの屋敷に連れて行っていい?』って聞いたら承諾してくれたの!!」
「……なるほど。てか母さん心配しすぎだ」
子供の心配をするのは至極当然の事なのだが、年齢的に絶賛反抗期中のラインは口を尖らせて言う。
ルナミアが「えー」と、頬を膨らませると、ふとラインの髪が白くなっているのに気づいた。
「あれ、ライン、今気づいたけど髪の毛のここ、白いのはなに?」
ルナミアが自分の髪でラインの白くなった髪の部分を触り、首を傾げる。
「あ、これは……」
「お兄ちゃんが『創世神』の力使いすぎた影響」
「ちょ、セツナ」
「ほら、心配するの間違ってないじゃない」
まるで、「私が合ってるじゃない」と言うように誇らしげな顔で腰に手を当て、ラインを見つめる。気まずくなったラインはすぐに話を逸らすように別の話をする。
「……あ、そういえば父さんは? 話したいことがあるんだけど」
「アルケウス様は図書室にいらっしゃいます」
「ああ、ありがとう、セレナ、で合ってる?」
「はい、左様でございます」
ラインはセレナに礼を言い、階段を登ってアルケウスが居る図書室に向かった――
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