第16話『暗闇からの救出』
ラインは息を飲み、アステナを見つめる。
「神龍オメガルスに消されたものは――復活させることはできるよ」
「 本当ですか!?」
「うん。でも私はできないから君がするしかないんだけど」
「え、どうすればいいんですか?」
「まあその前に神龍の能力について話すことがあるからね」
アステナはそう言うと、能力について話し始めた。
「本来、神龍に消滅させられた者は世界の歴史から消されるから誰の記憶にも残らない。でも今回消滅した者は、君が『創世神』の力を使って戦ったおかげで歴史からは消えてないんだ。彼らを助けるにはとりあえず学園に行ってみるしかないよ」
「わかりました。じゃあ一緒に行きましょう」
「……」
「……?」
ラインはアステナに返答したが、アステナからの返事はない。ラインがキョトンとしてアステナにもう一度声をかけようとすると、アステナが口を開く。
「……え、私に言った?」
「あ、はい」
予想外の返答にラインが戸惑っていると、再びアステナが口を開く。
「い、いや、私じゃなくて兄妹と一緒に行けばいいんじゃないかな? 私が行く意味あんまりないと思うし?」
これまでの落ち着いた口調とは打って変わって、少し慌てているように見える。
(そういえば、グレイスはアステナが屋敷に引きこもってるって言ってたな……あんまり外に出たくないのか? だったら無理に強要する必要ないか……)
ラインは心の中でそう考えていた。すると――
「ライン君……」
「あ、はい」
一人で行こうとするとアステナがラインの名を呼び、ラインはキョトンとした顔で見つめる。
「君、今『アステナは屋敷にこもってるから外に出たくないんだな。なら俺一人で行こう』とか考えているだろう!? 私は別に外に出たくないわけじゃないし、引きこもってたい訳じゃないよ? ただ私は本を読むのが好きなだけで……」
「そ、そうですか」
初対面時の落ち着いた雰囲気からの豹変具合に圧倒されつつ、考えていることを読んでくるアステナを凄いと思っていた。
「ま、まあ、行ってあげてもいいけど?」
おそらくラインの心をまた読んだのだろう。「アステナ凄い」となっているのを読んで上機嫌になったのかアステナは一緒に行こうとする。
「じゃ、じゃあ行きましょうか」
二人は部屋から出て、玄関に向かって歩く。
すると、他愛もない会話で盛り上がっている兄妹、アッシュ、グレイスを見つける。
「あれ、ライン出てきたのか……って!? なんでお前まで出てきてるんだよ」
「別にいいじゃないか。私だって部屋から出る時は出るよ」
グレイスとアステナはお互いに睨み合っている。しかし別に嫌悪感がある訳ではなく、普段の会話として言っているのだろう。
「2人で出てきたってことはどこか行くのかい?」
「ああ、ちょっとな」
それだけ言ってラインとアステナは外へ出ていく。それを見送りながらグレイスが口を開いた。
「……あいつが外に出たの久しぶりに見たな。ラインとなにかあったのか?」
「ラインお兄ちゃん達どこ行くんだろ? あ、そうだ、セツナお姉ちゃん。今日の晩御飯ってどうする?」
「……レンゲ、まだ昼ご飯も食べてないのに夜ご飯の話する?」
と、セツナは呆れた目でレンゲを見つめていた。
◆◇◆◇
兄妹たちが屋敷の中で仲良くお茶会をしている一方で、ラインとアステナは外に出て空気を吸う。
外は先程よりも日光が強くなっており、ラインはそれを鬱陶しいと感じていた。
「ふぅ……久しぶりに屋敷の外に出たね。空気が美味しい」
「あ、そんなに出てなかったんですか?」
「……私のこと「引きこもり」と思っただろ」
アステナはラインを睨むが、ラインは構わず学園まで向かおうと膝を曲げる。
「……いやちょっと待とうか。何する気かな? まさか学園まで飛んでいくつもりかい!? 私はそんなことできないんだけど……」
「あーじゃあおんぶするので乗ってください」
「へ!? あ、う、うん、わかったよ……」
アステナは少しだけ顔を赤らめ、渋々ラインの背中に乗る。
「ちゃんと掴まってて下さいよ」
ラインはアステナを背中に乗せ、思いっきり飛び上がる。
するととてつもない速さで空中を飛び、アステナは上空からの光景に恐怖を抱きながらラインにしっかりと掴まる。
「ちょ、ちょっと、早いってぇぇぇ!!」
――数時間ぶりの学園にほんの数十秒でたどり着き、訓練場まで足を運ぶ。アステナは屋敷での落ち着いた雰囲気から打って変わって疲れているように見える。
「――神龍オメガルスと戦ったのはこの辺ですね。俺は何をすれば」
「あ、うん、じゃあ『創世神』の力使ってよ」
「わかりました」
ラインが『創世神』の力を高めると、周りから黒色の禍々しいエネルギーのようなものが見えてくる。
「あれって」
その禍々しいものに近づき、手を近づけようとすると――
「あ、待って!!」
「え? あ――」
アステナが呼び止めるより先に、ラインはソレに触れてしまい、中に吸い込まれてしまった。
「もう、何やってるのかな!?」
アステナもまた、ラインの後を追うように中に吸い込まれてしまう。
数分後、二人は暗い空間の中で目を覚ます。しかし、二人はそこで身動きをとる事が出来なかった。
「なんだこれ……」
「鎖みたいなので繋がれてるね。はぁ、なんで私は後を追ったのかな――」
パリィン!!
「あ、意外と簡単」
アステナは入ってきたことを後悔して俯いていたが、すぐにラインが血液の刃で自分が拘束されていた鎖を全て切り、アステナを拘束していた鎖まで切った。
「……吸血鬼って凄いね。正直驚いたよ」
「無事ですか? 怪我はないですね」
「うん、大丈夫だよ。でも、ここ暗くて何も見えないね……困ったものだ」
「ですね…よし」
ラインはすぐさまどんな暗闇でも周りが見える『権能』―《暗視》を自分に与えて周囲の環境を把握することができた。そして――
「あっ……」
学園の制服を着た数名の生徒が倒れているのを発見した。ラインがそこまで走ろうとすると、アステナがラインの服を掴んだ。
「待ってよ! 君はこんな暗闇の中で私を1人にする気かい!?」
(あ、暗闇が怖いんだな……)
「怖くない!」
再びラインの心を読み、必死に否定する。
「じゃあ行きましょう」
二人は倒れている生徒らの所まで行き、声をかけたり肩を揺さぶるが、誰からも反応がなく、顔色が悪いように見える。
「重症だな……すぐに外に運びましょう」
「ああ、そうだ……ね……」
アステナは倒れてラインにもたれかかってしまう。
「どうしたんですか!?」
「ここに長時間いると彼らみたいに意識が段々消えてしまうようだね……あとは頼んだよ。私を含めみんなを外に出してくれ」
アステナは意識を失ってしまう。
「早く出ないと……」
ラインはアステナをおんぶし、倒れていた生徒らを血液の糸で拘束した。
そして、その空間を創世神の力を使って無理やり破壊する。
パリィィン!!
空間がひび割れるように割れ、中からラインとアステナ、そして倒れていた生徒たちが出てくる。
生徒達の意識はまだ回復していないが、まだ少ししか暗闇の空間に入っていないアステナはすぐに意識が回復し、目を開く。
「ん……あ、れ? ここは……」
「あ、起きました?」
「うん……って!?」
アステナは慌ててラインから離れる。
「え?」
「あ、ごめんごめん。その、近かったから驚いただけだよ」
アステナはその綺麗な白銀の髪を人差し指でいじり、ほんの少しだけ頬を赤らめていた――
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