第15話 『『知恵の神』アステナ』
学園から出た四つ子、アッシュ、グレイスの六人は、ちょっとした談笑をしながらグレイスの屋敷に向かって歩く。
ずっと無言のラインを心配したのか、グレイスが声をかける。
「おい、どうして無言なんだよ」
「え? あ、ああ、ちょっと考え事してて」
「アレンって人が言ってたこと?」
アッシュが後ろを振り返り、ラインに向かって尋ねる。
「ああ、そうだよ。神龍に消された人を助ける方法って……なんも分からないし」
「それが知りたいんだったら、俺の屋敷に来るのは正解かもしれないぞ?」
屋敷の扉を開ける直前にグレイスが急に話し出した。
「え? それってどういう……」
ギィィィ……
重い音を立てて扉が開くと、その奥に謎の女がいた。
「なんだ、今日は部屋から出てるのか。意外だな」
「やあグレイス、今日は早かったようだね。アッシュ君も久しぶりだ。おや、新しい顔だね。それも四人か」
そう呟いた白銀の髪と瞳を持つ、神秘的な美貌の女性が四つ子達に近づいてくる。
「初めまして、君達の名前は?」
「ライン・ファルレフィアです。こっちは弟のアレスと、妹のセツナとレンゲです」
「よろしくね。私は『知恵の神』アステナだよ」
「「「「ち、『知恵の神』!?」」」」
急な情報をその口から出されて、四つ子は驚愕の表情を浮かべてお互いの顔を見合っている。
「おや、聞いてなかったのか。グレイスかアッシュ君が話していると思ったよ」
「なんで俺がお前みたいな奴のこと話さなきゃならないんだ」
「お、おいグレイス、そんな言わなくても……」
「ああ、大丈夫さ。あんなクソガキの言うことを気にしないでくれ」
「はぁ……そうですか」
「私はそろそろ部屋に戻ろうとするよ。……ただ」
「 なんだよ?」
「私は君と少しお話がしたいね。ライン・ファルレフィア君……だったかな?」
アステナはそう言ってラインを見つめる。ラインは驚きながらもそれに了承しアステナに着いていくことを決めた。
「じゃあ私は彼とお話をするから。グレイス、アッシュ君達にお茶でも振舞って話しているといい」
「はいはい」
グレイスは面倒そうに両手を上げ、キッチンに向かう中で、二人は屋敷の奥へと進んで行った。
◆◇◆◇
ラインがアステナについて行くと、目の前に部屋の扉が見えてきた。
「ここだよ」
部屋の扉を開けると、そこには神秘的な風景が広がっていて、たくさんの本棚があった。
「綺麗な部屋ですね。本もたくさんある……」
ラインは適当な本を取りパラパラめくっていた。
「気に入っていただけたようで何よりさ。私は『知恵の神』として様々な知識を蓄えているからね。たくさんの本を持っているんだ」
「へー……あ、そうだ。俺を呼び出した理由ってなんですか?」
「……そうだね。後からでもいいと思ったが君が聞きたいのなら仕方ないね」
「は?」
「君だろう? 『創世神』の息子っていうのは」
「――ッ」
ラインは一瞬驚いたが、すぐに平静を取り戻し語りかけた。
「なんで……わかったんですか?」
「なに、『知恵の神』だからね。それくらいは分かるさ。それに……」
アステナはラインに近づき、ラインが神龍と戦った時に『創世神』の力を使いすぎたことで白くなってしまった一部分の髪を触った。
「力を使いすぎたのかな?」
「……はい」
「身体も傷はないけど痛みが凄そうだね」
「そんなことまで……ッ」
何もかもお見通しな『知恵の神』に驚きつつも、消えない痛みが彼の全身を襲う。アステナはそんな彼を見て、なにか思いついたように「あっ」と声を上げた。
「せっかくの機会だ、私が生み出した魔法を君にかけてもいいかな?」
「え、なんの魔法ですか?」
「君のように、神の力を使いすぎた反動を少し抑制する魔法だよ。どう? 受けてみない?」
アステナがじーっとラインを見つめ、「受けてくれ」と言わんばかりの圧を放っている。ラインはそれにため息をこぼし、観念したように「わかりましたよ……」と了承した。
静かな空気が空間を満たしたその瞬間、アステナの掌に、淡い金色の魔法陣が静かに浮かび上がる。
「じゃあ早速行くよ。《理律の加護》」
アステナの言葉に応じて、紋章が宙に広がり、柔らかな光が降り注ぐ。それはラインの全身を、内から溢れる神の力の反動を抑えるように優しく包み込んだ。
「身体が、軽い……」
「良かった、成功したようだね」
先程よりもかなり身体が軽くなり、腕や足を振ったりしているラインを安心したような目つきで見ている。そして、さらに話を切り出した。
「さて、私が『知恵の神』と知った上で、なにか聞きたいことはあるかな? 私なら君の質問の全てに答えられると思うよ」
「聞きたいことですか? 特にな……あっ」
ラインはグレイスが言っていた意味に気がついた。おそらく、『知恵の神』と名乗るこの女に聞いて見ればいいと言うことだろう。
「『神龍オメガルス』の力で消されてしまった人達は……生き返ることができますか?」
「なるほど。そうだね、教えてあげよう」
「はい、お願いします」
「神龍オメガルスに消された者は――」
◆◇◆◇
一方で、アッシュ、グレイス、長男以外の三人はリビングで雑談をしていた。
「あいつラインになんの用があったんだ?」
「お兄ちゃんと話したいことあったんじゃない?」
アレス、セツナ、レンゲは普通にしているが、内心では大体の検討が付いている。
アステナが『知恵の神』ということを知ったことで、おそらく四つ子が『創世神』の力を持っていることを知っていると思ったからだ。
「それにしてもグレイス、このお茶とお菓子美味しいね。どこで買ったのかな?」
「えっと……確かじいちゃんかばあちゃんが買ってきたものだったはずだ」
「うん、ほんとだ! このお菓子美味しいよ!」
「それにしても……彼女はどんな人なの?」
アレスの質問にグレイスは腕を組み、軽く天井を見上げた。
「詳しくは知らないんだが、何百年も前からこの屋敷に住んでるんだってよ」
「何百年も!?」
レンゲが驚きの声を上げる。
「ま、相当な引きこもり野郎だし俺もそんなに毎日会うことがないかな。でもあいつの知識は本物だ。質問すれば必ず正解を貰える」
「さすが『知恵の神』ね」
セツナが優雅に紅茶を飲みながらつぶやく。
「はぁ……あの婆さんラインになに聞きたいんだろ」
「グレイス、確かに年齢ならお婆さんかもだけど見た目は二十代にしか見えないだろう? あんまりそんなふうに言わない方がいいんじゃないかな?」
「ちぇっ、うるせえな。いいだろ別に」
「良くないわよ。女性にそんなこと言うのは失礼ね」
セツナは叱りながらお茶を美味しそうに飲んでいる。
こうして、ライン不在のお茶会は賑やかになっていった――
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