第14話 『『神龍オメガルス』による被害』
あけましておめでとうございます! 2025年初投稿ですね。今年もよろしくお願いします
身体が痛くて動かなかったラインは、セツナとレンゲに肩を貸してもらいリビングに行き、ダイニングテーブルの椅子に座った。
「痛いな……」
「おはよう兄さん。やっぱり力を無茶して使ったせいかな? 全然大丈夫に見えないよ」
「真っ白になった髪もまだ戻ってないね……」
「でも起きて良かったよ! 十日も寝たきりになってたからすごく心配したんだもん!」
レンゲが嬉しそうに言っているが、ラインは衝撃的な事実を聞かされた。
「……は? いやいやちょっと待て。俺十日も寝てたのか? ずっと!?」
「うん、そうだよ!! ずっとセツナお姉ちゃんが付きっきりで看病してくれてたよ!」
「……」
「……何よ」
「いや、ありがとう」
「別に……そ、そんな事より私達怒ってるからね?」
「え?」
「なにが『え?』よ。私達が必死に止めたのに『俺は大丈夫だ』みたいな感じで私達を相手にしなかったじゃない。それがこのざまよ」
セツナがラインの身体を指先でつつくと、物凄い表情をしながら痛みに耐える。
レンゲもまたふざけるようにラインの身体をチョンチョンしたりして遊んでいると、それを静かに見ていたアレスが口を開いた。
「早く学園に行く準備しよう。兄さんもね」
「えー俺今日行かないとダメなの?」
ラインが口を尖らせる。
「ラインお兄ちゃん! 今日は魔法の試験があるんだって! 昨日先生が言ってたよ!」
「まじかよ……俺どうやって動けばいいんだ」
「学園までおんぶしていくのはきついから結構強引にいくよ」
セツナがそう言うと、ラインの全身が血液の糸によって縛られる。
「……あの、セツナさん? どうやって俺を連れていくつもりですか?」
「お兄ちゃんには悪いけど三人で引っ張って行くから」
「は!?」
◆◇◆◇
「ちょ、痛い痛い! もう少し優しく……」
屋敷から出ると、ラインを無視して空を飛び、釣り上げている血液の糸を引っ張って学園まで急ぐ。
空中で吊り下げられながら移動しているラインは愚痴をこぼす。
「お前ら適当に運びすぎだろ!? もうちょっと――うわぁ!?」
「うるさいな。ちょっとくらい我慢しなよ」
セツナはラインに巻きついている血液の糸の一本を振ってラインを回転させる。
「セツナお姉ちゃん怖い……」
「僕達は普通に持っててあげようね」
「うん!」
かなりの速度で空を飛び、屋敷からそこそこの距離がある学園にすぐ着いてしまった。
学園に着いた四人は、ラインに肩を貸しながら教室まで歩く。
ガラッ……
ゆっくりと扉が開き、教室に入るとすぐにラインは自分の席に座り、うつ伏せになる。
「お、お前ら……よくもあんなことを……」
「ラインお兄ちゃん、ごめんね!」
「いいよ……」
再び机に伏せ、目を閉じようとすると教室のドアが力強く開き、思わず顔を上げてしまった。
「いたぞ!!」
1人の男子生徒が乗り込んできて全員がラインの机に近づいた。
「え? 何?」
「あのさ、お願いがあるんだけど……」
「お願い?」
ラインが身を引き締めるととんでもないことを口にされる。
「神龍の黒い玉で消された生徒たちいるだろ? あの人たちを復活させて欲しいんだ! 俺の親友もいるんだよ!」
急な頼みをされ、ラインだけでなくその場にいた人たちも驚いた顔をして目の前の男を見つめている。
「急に言われても……ごめん、無理だ」
「無理って……で、でも前にお前がレオと戦った時にレオの心臓を貫いたけど復活させてたじゃないか!? あれと同じ感じで出来ないのか!?」
今にも襲いかかりそうな顔をしながら、声を荒げてラインに詰め寄る。だが、ラインから返される答えは変わらない。
「無理だ。出来ない」
――『煌星の影』レオ・ヴァルディとの決闘で、ラインはレオの心臓を血液の刃で貫いた。その後、治癒魔法と『創世神』の力で心臓を治し、身体の傷も取り除いた。
まだレオのような状態で倒れているとしたらラインは全員復活させることができていただろう。しかし『神龍オメガルス』の力は''無''だ。
神龍の黒い玉に飲み込まれるとその人物が世界に存在していた歴史と共に消え、あらゆる人々の記憶にも残らなくなる。
そのはずなのだが、何故かこの学園の生徒たちは消された人のことを覚えていた。
「そんなの……あんまりだろ……」
その男子生徒泣きそうな顔でラインの胸ぐらをつかもうとする。しかし――
「クソッ!? なんで手がここで止まるんだよ!!」
「……」
ラインは『創世神』の力で《虚無の防御》というバリアを貼る『権能』を授かった。これにより、男子生徒の手がラインの目の前で止まったのだ。
「今俺身体ボロボロなんだよ。勘弁してくれ」
「お前は神龍の玉を消し飛ばしたじゃないか!! あんなことができるなら早く守ってやれば良かったじゃないか!!」
「アンタいい加減にしなさいよ。私達だってそれができるならしてるに決まってるでしょ? 責任転嫁はやめて」
「あ、う――」
ずっと黙っていたセツナが口を開き、強い言葉をかける。するとその男は何も言えなくなり、俯いてしまった。
ガラッ!
扉が開き、笑顔で二人の生徒が入ってくる。それはアッシュとグレイスだ。幼馴染の彼らは毎日仲良く登校していて、グレイスはともかくアッシュは大抵ニコニコしている。
だが、扉を開けた目の前にいるのは、どう見ても自分たちの知らない男で、それが友達と言い争っている。
「おはよ……なんだよこれ?」
グレイスとアッシュは目を見開き、ラインが来ている事に喜びながらも目の前の状況を整理出来ていないようだった。
◆◇◆◇
「なるほど。話を聞いた感じでは……」
「まあ同情はするけど……相手は神龍だしな。俺もこいつの戦い方は気になったけど、こいつらに言っても何もならないだろ?」
アッシュとグレイスは、とりあえず泣いている男を宥め、大体の内容を把握した上でラインを庇った。
「てかお前誰?」
「俺は……アレン・クロスだよ。隣の組のB組だ」
「そうなんだね」
A組の生徒であるラインたちとは、今のところ関わりがあまりないため知らないのは当然だろう。
もう少し話をしようと考えていたところで、タイミング悪くチャイムが鳴ってしまう。
キーンコーンカーンコーン!!
一瞬の沈黙が流れていると、担任のカイラス先生が教室に入ってくる。すると教室を見渡し、
「お前ら席に付け。朝のホームルームをする。そこのお前! 隣の組だろ? 戻れ」
「あ、はい……すみません」
アレンはとぼとぼした歩きで教室を出て、B組に戻っていく。それを見届けたカイラスは話をする。
「はい、では朝のホームルームを始める。礼」
全員が立ち上がり、先生に向かって朝の挨拶をする。すぐに着席すると、カイラスは話を始めた。
「本来、今日は魔法の試験をする予定だったんだが……試験場の鍵が何者かに盗まれてしまってな。先生総出で探さないといけないんだ。だから今日はこの後放課後だ。以上」
それを言い終わるとすぐに鍵を探しに行ったかのように教室を飛び出して行ってしまった。
試験のことを楽しみにしていた生徒は「えー」と愚痴をこぼし、帰れると喜んでいる生徒もいた。
「ねえライン」
すると、後ろからアッシュに声をかけられる。
「ん? どうした」
「これからグレイスの家に行くんだけど、四人とも来ない?」
「今からか……悪いけど俺は断わ――」
「え!? 行きたい行きたい!! みんな良いよね!?」
ラインが断るよりも先に、レンゲがワクワクした表情で二人の兄と姉を見つめる。
こんな笑顔で見られたら断る訳にもいかないだろう。
「わかったわかった。行くよ」
「僕も行こうかな」
「私も行く」
「やったー!!」
と、四人がそれぞれの反応をしてグレイスの屋敷に行くことになった――
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