第13話 『昔の夢と変わった兄妹』
第十三話更新です! 最近更新頻度が上がったような気がする。
「ん……うーん…… ここは?」
ラインはベッドの上で目覚めた。窓の外を見てみるとまだ星が綺麗に輝く夜だった。
「なんで俺ここに? 確か神龍を倒して、それで……ダメだ。思い出せねぇ。とりあえず起きるか)
「うっ!?」
ラインは目の前の状況を理解出来ていなかったが、状況確認の為に起きようとした。
しかし、傷一つない身体に激痛が走り起き上がれずに仰向けの状態になってしまう。
(痛ってぇ……なんだよこれ……副作用か?)
ラインは仰向けで再び寝る体勢に入る。すると部屋の違和感に気づいた。
(……ここ俺の部屋じゃないよな? てか手に違和感が)
ラインがふと横を見るとラインの手を握ってスヤスヤ眠っているセツナがいた。
「うおっ! セツ……あっ……)
ラインは思わず叫びそうになったが、口を手で塞ぎ、セツナが起きていないことに安堵する。
(起きたいのに身体が痛すぎて言うこと聞かない……)
「ん……おにい……ちゃん」
(起きちゃったか……?)
「ん………スーッ…スーッ―」
(良かった。なんで俺ここにいるんだ? 朝になったら聞くか)
(……そういえば前にもこんなことあったな。あの時は泣きながら『怖かった』って言ってたっけ……)
ラインはまた目を瞑った。そして昔の夢を見た。
◆◇◆◇
静かな朝、ファルレフィア家の広大な屋敷には陽光が差し込む。朝霜が光る庭では四つ子の笑い声が響いていた。
「アレスお兄ちゃん、それズルい!」
セツナがぷくっと顔を膨らませながら兄のアレスを追いかける。アレスの手には先程セツナが摘んだばかりの花束があった。
「僕が飾ってあげるよ!」
アレスが悪戯っぽく言いながら走り回る。
それを見て『またかよ…』とため息をつくラインと――
「あ! アレスお兄ちゃんとセツナお姉ちゃんが追いかけっこしてる! 私もしたい!」
二人がただ遊んでいるだけだと勘違いした元気いっぱいの末っ子も、兄と姉を追いかけて走り出す。
「レンゲ、私とレンゲが鬼でアレスお兄ちゃんを捕まえよ! 絶対!」
「うん! 頑張って捕まえよー!」
「それズルくない!?」
仲良く遊んでいる兄妹達を遠目に見ていたラインに父親のアルケウスが話しかけてきた。
「ライン、お前は一緒に遊ばないのか?」
「今休憩中。オレがちょっと休憩してたらアレスがセツナに悪戯しててさ」
「やはりお前たちは仲がいいな」
アルケウスが腕を組んで首を上下に振る。
「そりゃ四つ子だし、オレたちは凄く仲良いから。お父さんは兄弟っているの? そういえばオレ聞いたことないや」
「……」
「お父さん?」
「ああすまん。三人を見つめていた。兄弟はいないさ」
「お父さんってお母さんと出会う前は誰かと一緒にいたりしたの?」
「いや、ずっと一人だったな」
ラインとアルケウスが話に夢中になっているとアレス、セツナ、レンゲが近くにやってきた。
「ラインお兄ちゃんも一緒に遊ぼ!」
ニコニコしながらラインに話しかけるレンゲの後ろにアレスから返して貰った花束を抱えてご満悦のセツナと悪戯など関係なく走り回って満足したアレスがいた。
そこに彼らの母親であるルナミアが全員を呼びに来た。
「みんなー! 朝ごはんできたわよ!」
「「「「はーい」」」」
四つ子が声を揃え、庭から屋敷に駆け込んで行った。
◆◇◆◇
広いダイニングテーブルの中央には長いテーブルが据えられている。その上には湯気の立つスープやふわふわのパン、果物が並べられていた。
「いただきます」
六人が一斉に声を上げると、すぐに朝ごはんを食べ始めた。
「なんだか騒がしかったけど何して遊んでたの?」
「聞いてお母さん! アレスお兄ちゃんが私が摘んだお花を奪って逃げ回ったんだよ! だから私とレンゲで追いかけ回したんだ!」
「ふふっ。アレスは悪戯が好きね」
セツナから話を聞いたルナミアが笑う。
「みんなミルクもちゃんと飲むんだぞ。健康第一だからな」
アルケウスが全員分のコップにミルクを注ぎテーブルに置く。
「僕ミルク苦手なんだけど……」
アレスがボソッと呟いた。
「アレスお兄ちゃん! ちゃんと飲まないと私みたいに背が伸びないよ!」
セツナが胸を張って答える。実際、今セツナはアレスよりも背がほんの少しだけ高い。
「わかったよ……」
アレスは仕方なさそうにコップを持ち上げ、一気に飲み干した。その苦い顔を見てレンゲがクスクスと笑った。
一方でラインはいつもより口数が少なかった。それに気づいたルナミアが話しかける。
「ラインは何かあったの? いつもより話してない気がするわ」
ラインは目を見開いて母親を見つめる。何か言いにくそうに目を逸らしたりしていたが、重い口を開き始めた。
「……さっきお父さんと色々話してた時に思ったんだ。オレ達って『創世神』と吸血鬼のハーフっていう唯一無二の存在な訳で。オレたちこれからちゃんと過ごせるのかな?」
「どうしてそう思うんだ?」
父親が優しい口調でラインに尋ねる。
「だって、たまにお父さん達から力の使い方の訓練を受けるけど、オレ達全員吸血鬼の力はそこそこ扱える。でも、『創世神』の力が全然思い通りに扱えなくて暴発することが沢山あるし……このまま訓練してもちゃんと強くなれるか分からなくて……」
「なるほど。確かにお前たちはその力をちゃんと支配できていないな。……よし、昼からは全員で私に挑んでこい。自分たちができる全力を出すんだ」
「え、でもそんなことしたら危ないんじゃ……」
「そこら辺は私が何とかするから気にするな」
「……うん! わかった」
◆◇◆◇
朝食を食べたあと、アルケウスは子供達を庭に連れ出し、創世神の力の基礎を教えようとした。
庭園には陽光が降り注ぎ、木々の間を風が駆け抜けている。
「では早速始めよう。いつでも私に襲いかかってきていいぞ」
その刹那、四人は一斉に動き出し、アルケウスに突撃する。
ラインとアレスは主に『創世神』の力でエネルギーを放出して攻・防を行い、セツナとレンゲは二つの力を上手く掛け合わせて攻・防を行っていた。
そんな五人の戦闘は簡単に庭や屋敷を破壊していたが、その都度破壊された瞬間にアルケウスが全てを元通りに戻していた。
――そうして数時間夜まで戦い続けた。するとラインとアレスが突然――
「ん? どうした二人とも」
二人が倒れてしまったのだ。
「どうしたの? って……身体が!」
セツナの叫びでルナミアが駆けつけてきた。
そして倒れる二人の身体を見てみると身体全体が光っていて今にも消えそうになっていた。
「どうすればいいのこれ!?」
「大丈夫だ。落ち着け」
セツナとレンゲが焦りまくる。すると父親が彼女らをなだめた。
アルケウスが手を二人にかざすと二人はみるみる元へ戻っていき、スヤスヤと寝てしまった。
「お父さん、お兄ちゃん達大丈夫なの?」
「ああ。すまない、これは私の注意不足だ。まだこの力に慣れてもいないのにこんなに長時間使わせたのはダメだった。おそらくかなり無理をしていただろうな……」
「うーん……今日はもう起きそうにないわね……。えいっ」
ルナミアが二人の顔を覗き込みそう言った。時々ちょっかいをかけて。
「そうだな。明日謝ろう」
アルケウスが指を鳴らすと二人はそれぞれ自分の部屋のベッドの上に送られた。
「私達ももう寝ちゃおっか」
そうして屋敷に戻った四人は夜ご飯と風呂をささっと終わらして自分の部屋で就寝した。
◆◇◆◇
真夜中、静まり返った屋敷の自分の部屋の中で、セツナは悪夢にうなされていた。
暗い夜の空で黒い霧が彼女を包み、なにか得体の知れないものに追いかけられている。
「さあ、こっちに来るんだ」
「やだ……来ないで……! 助けてよぉ!」
その時、セツナは夢から覚め、身体を起こす。息を切らし、暗い部屋の中で一人きりの孤独が彼女を包む。
(今のは……夢? 怖かった……)
セツナはもう一度寝ようとしたが、先程の夢のせいで寝付けなくなってしまった。
「……」
重い部屋の扉を開けて廊下に出る。そこには真っ暗な長い、静かな空間が続いていた。
その暗い廊下に出てセツナは夢のような恐怖を感じていた。
(お兄ちゃん……怖いよぉ……)
暗い廊下をとぼとぼ歩き、その静けさに泣きそうになっていた。
(ラインお兄ちゃんの部屋に行こう……)
セツナがラインの部屋の前に立ち、重い扉を開ける。すると――
「あれ、セツナ、まだ起きてたのか?」
「あ……ラインお兄ちゃん。起きたの? あの、えっと」
「どうした?」
ラインは読んでいた本を棚に直し、痛みを隠しながらセツナに近づく。
「……泣いてる? え、大丈夫?」
「うっ! ラインおにいちゃぁん! こわかったよぉ! 助けてよぉ!」
セツナが泣き叫びながらラインに抱きつく。ラインもまたそんな妹を抱きしめながら頭を撫でる。
「大丈夫、大丈夫だ。怖い夢でも見たんだろ? オレが一緒にいるから大丈夫」
「うん……今日は……一緒に寝てくれる?」
「ああ」
それから二人はラインのベッドの上に乗り布団を被った。
「じゃあセツナ、おやすみ」
ラインはそういうと寝始めた。その手はしっかりとセツナの左手を握って。
「うん、おやすみなさい、ラインお兄ちゃん」
(ラインお兄ちゃんは今日のことで疲れてたはずなのに……私はわがままで、そんなお兄ちゃんのことを何も考えずに部屋に来たのに……ラインお兄ちゃんは優しかった……ありがとう、大好きだよ)
セツナはラインの腕に抱きつき、眠りについた。
◆◇◆◇
太陽が昇り、窓に陽光が差し込む早朝、ラインの部屋が思いっきり開けられる。
「おっはよう! ラインお兄ちゃん! いい朝だね!」
レンゲが思いっきりドアを開け、朝の挨拶をする。 いつもだったらこの音で兄妹たちは起きるが、起きない所を見てレンゲは首を傾げる。
「うーん、やっぱり疲れてるのかなーしょうがないよねーってあれ? セツナお姉ちゃんもいる」
レンゲが部屋を覗き込もうと後ろから声をかけられた。
「おはようレンゲ、いい朝ね」
「 おはようお母さん! 見て、ラインお兄ちゃんの部屋にセツナお姉ちゃんがいるよ! すごく仲良さそうに眠ってる!」
「あら本当ね。セツナ、怖い夢でも見たのかしら? 今は邪魔しないでおきましょ」
「はーい」
◆◇◆◇
太陽が昇り、窓に陽光が入り込む朝、ラインは目が覚める。
(ん……昔の夢見てたな……七年くらい前か?)
ラインが夢の内容を内容を思い出していると隣から声が聞こえた。
「ん……うーん……よく寝た……おはよう、ラインお兄ちゃん……って、え!?」
セツナがラインに抱きつくと、セツナは兄が起きていることに気づいて驚いた。
「おはようセツナ」
「あ、おはようお兄ちゃん! えと、あの、その……」
セツナが頬を赤らめながら何とか言葉を紡ごうとする。
「どうした?」
「起きてたんだ……えっと……身体大丈夫?k
「正直動くだけでめっちゃ痛い。傷はないんだけどな」
「なら良かった……」
一瞬の沈黙が流れるとセツナの部屋のドアが思いっきり開けられた。
「おっはようセツナお姉ちゃん! 良い朝だね! ってあれ、ラインお兄ちゃん起きた!?」
「お前は昔から変わらねぇな……」
「なんか言った? ラインお兄ちゃん?」
「いや、なんでも」
こうしてラインは新しい朝を迎えた。
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