第12話 『『神龍オメガルス』の最期』
魔力を集結させた指先を向けられ、冷や汗が流れてくる。
どれだけ攻撃をしようと、この男には無意味。そういった考えに頭が埋められる。
勝つことはできない。そうなると、ルシェルが起こす行動は――
「インフェルノ!」
炎魔法を詠唱し、火柱を生み出す。ラインとアッシュがそれに気を取られている間に、立ち上がって走り出したのだ。
「あ、待て!」
追いかけようとすると、神龍の呻き声が聞こえてくる。
「な、なんだ?」
これまで、神龍は何度も呻き声を上げていたが、今回は違った。
今までよりもかなり大きな呻き声を上げ、離れていたラインとアッシュにもうるさく聞こえるほどだった。
「今の声は……」
呻き声に気を取られていると、ルシェルは既に魔法実習場に向かって逃げていた。
「あいつ……アッシュ、あいつを追ってくれ。俺は先に結界を破壊する」
「うん、分かった」
アッシュはそう頷き、《超加速》を使ってルシェルを追いかける。
アッシュを見届けたラインが結界に近づいて触ると、体を電気が流れるような感触を覚える。
「中心から壊せばいいのか」
ラインは結界から出ると、ワープして中心まで向かった。
「ここか」
結界の中心付近を触ると、結界全体がガラスのようにヒビが入り、やがて――
パリィィン!
赤紫色の球体が割れ、下には『神龍オメガルス』と、戦っている生徒達が見えた。
◆◇◆◇
パリィィン!!
赤紫色の結界が、上空から破壊されていく。生徒達が空を見ると、真っ白の髪と瞳をした、ライン・ファルレフィアがいた。
「兄さん……」
「髪白くなってるし……」
「あ、ラインお兄ちゃん!」
兄妹の反応は様々だ。髪が白くなっていることに「またか」と呆れているアレス、セツナと、兄を見つけて喜んで手を振っているレンゲだ。
ラインに気を取られていた生徒達に向かって、神龍が雷の玉を吐き出す。
「まず……」
だが、迫り来るその雷の玉は、何事も無かったかのように消え去った。そして目の前には――
「大丈夫か?」
上にいたはずのラインが立っていた。
「ライン、お前……」
グレイスに声をかけられ、後ろを振り向く。しかし、まだアッシュの姿が見えない。
「あれ、アッシュはどこだ?」
「ああ、アッシュはお前を助けに……」
ドゴォォォン!!
大きな音がして、神龍の下に何者かが飛ばされてくる。
砂埃が舞い、目を凝らす。それは、『剣聖』に蹴り飛ばされたルシェルだった。
「うおっ!」
「なんだ!?」
驚きの声を上げる生徒たちは、ルシェルの姿を見てさらに驚く。なぜなら、その男は学園五位だからだ。
その男が、『剣聖』に蹴り飛ばされると誰が予想出来ただろうか。
だが、ひとつ問題がある。ここにいる、四つ子、『剣聖』、『魔導師』以外の生徒達は、ルシェルが敵だとは知らない。
ルシェルはそのことを誤魔化すと思っていたが――
「神龍! やれ!」
なんと、ルシェルは神龍に命令を下したのだ。
「な、何言って……」
ルシェルを不信感を持った目つきで生徒達が睨んでいると、ルシェルと神龍が同時に攻撃を始めた。
ルシェルは神龍の背中に乗り、まるでペットのように扱う。
神龍は先程よりも暴れ回り、あちこちに炎や雷、水などの魔法攻撃を落としてくる。
「チッ……面倒だ」
ルシェルが神龍と共に行動し、生徒達に魔法を撃ち続ける姿に何もすることができず、避けることしかできなかった。
そして、一番驚いた顔をしていたのは、ルシェルの友達である『煌星の影』レオ・ヴァルディだ。
目を見開き、神龍とルシェルを見つめる。
「る、ルシェル? どういうことだ……」
「フレイムスパーク!」
容赦なく、レオに向かって炎の弾丸を放つ。
棒立ちで立っていたレオに当たる直前――
「アクアパレット!」
グレイスが水魔法を詠唱し、炎の弾丸を打ち消す。
「バカ、何立ち止まってんだ! あいつを倒すことに集中しろ。分かったな?」
「あ、ああ、分かった」
段々と、落ち着きを取り出してきた生徒達は、神龍に向けて再び魔法を撃つ。
アレス、セツナ、レンゲ、アッシュは上空に向かう。すると、ルシェルが少し焦った表情を見せる。
「神龍!! 」
「我の名を呼ぶな」
そう言いながらも、上空にいる四人に向かって業火を吐く。それを上手く避け、四人は神龍に接近する。
「フリーズニードル!」
「《切断》!」
アレスとセツナの攻撃が神龍に当たり、神龍はバランスを崩す。その瞬間――
「エイッ!」
「ハアッ!」
レンゲとアッシュが高速で移動し、神龍の身体を切り刻むと、神龍とルシェルの表情は深刻になってきた。
「チィッ!! 神龍! アレをやれ!」
「……わかった。ヴォイド・オブリヴィオン」
神龍が謎の技の詠唱をする。すると、神龍の口から黒色の玉が現れ、生徒に向かって放たれる。
「なっ……」
その玉は、避ける暇もなく数人の生徒に当たり、その生徒は――
「き、消えた……」
まるで何もなかったかのように消滅してしまった。
その場にいる全員が恐怖で怯えていると、次々と黒い玉が吐き出される。
「あっ、まずい!!」
ラインは空から降ってくるその黒い玉を、全て消滅させることに成功する。
「あいつ、また邪魔しやがって……」
ルシェルは神龍の背中から地面にいるラインを見つめる。だが、一瞬で彼の視界からその男が消える。
「ど、どこに……ハッ!?」
後ろを見ると、地面にいたラインが血液の刃を持ってルシェルに迫って来ていた。
ルシェルは様々な魔法を撃つが、それらは全てラインに当たる前に消滅したり、血液の刃で切り裂いたりすることで無傷で接近してくる。
「――ッ! シャドウ・エクリプス!!」
詠唱され、闇の魔法がラインを包み込む。
だが、その魔法は何の意味も成さない。
「――四度目だ」
ラインの刃がルシェルの首に当たりそうになった瞬間――
神龍が激しい呻き声を上げ、その全身から、全方向に向けて先程数人の生徒を消した黒い玉を放出した。
「チッ……」
ライン、アレス、セツナ、レンゲは、その黒い玉よりも速い速度で移動し、全ての玉を破壊した。
地面から神龍を見つめると、神龍の口に莫大な魔力が集結し、神龍の神の力も集結していく。
「まじか――やるしかない」
ラインは指先を神龍に向ける。その掌には、『創世神』の力が集結する。
その姿を見た兄妹たち、グレイス、アッシュ、レオはラインに近づく。
ラインは片腕を神龍に向けながら、近づいてきた六人を見つめる。
「なんだよ……」
「俺らも手伝うぞ」
そうして、グレイスは神龍に杖を向けながら詠唱を続ける。
レオは、後ろにいる生徒たちに振り返り、
「みんな、俺に魔法を撃ってくれ」
生徒全員がレオに向けて放った様々な魔法が一箇所に集まり、高威力を誇る魔法のエネルギーとなった。
レオの『権能』である、《覇王の支配》によるものだ。
そうして一点に集まった魔法を、神龍に向けて詠唱を続ける。
アッシュは長剣を構え、その長剣に魔力を流し込み、詠唱する。
アレス、セツナ、レンゲは、ラインと同じように指先を神龍に向ける。その指先には、魔力、吸血鬼の力、『創世神』の力の三つが集結する。
準備が整った七人は、一気にそれを放出する。
「エレメントキャタスト!!」
グレイスがそれを放出すると、残り六人も一気に神龍に向けて放出する。
「神龍!!」
ルシェルの叫びに神龍もまた、向かってくるそのエネルギーに、溜めた莫大な魔力と神の力を一気に放出する。
その二つのエネルギー砲は、大きな爆撃音を出しながら衝突する。
「クッ……ば、バカな……そんなことがあって……たまるか――」
――ライン達のエネルギー砲は、神龍のを抑え、神龍とグレイスを一気に包み込んだ。
十秒後、神龍は跡形もなく消し飛んでいて、ルシェルはボロボロの姿のまま、地面に落ちてきた。
「はぁ、はぁ……」
落ちてきたルシェルに、七人が近づこうとする。だが、後ろから何者かに蹴り飛ばされ、倒れてしまう。
「なっ!?」
黒い羽根のような霧が、ルシェルがいたところに出現する。やがて、霧が晴れると――
ルシェルを担ぐ、謎の男がいた。
「全く……上手くいかなかったようですね。まあいいでしょう」
その男は、黒い服装をしていた。
「お、お前は……」
「ん? ああ、どうやら本当のようですね」
「そいつをどうするつもりだ?」
レオがその男を睨む。
「……特に何も。傷を治してあげるだけです。はぁ、なんでわざわざ僕が彼を助けないといけないんでしょうね。大変だって言うのに……君が自分ですれば良いと思うのですが……まあいいでしょう」
その男は、何事もなかったかのようにルシェルを担ぎ、歩いていく。
「あ、待て!!」
「動かない方がいいですよ。もう充分動けないでしょう?」
やがて、再び黒い羽根のような霧がルシェルとその男を包み込んだ。
その霧が晴れると、二人ともいなくなってしまった。
「クソッ……」
「グレイス!?」
グレイスは、急に地面に倒れ込んでしまった。
それは、今神龍を倒した時に、「エレメントキャタスト」を使ったのが原因だ。
二回目の使用は辛かったのだろう。眠るように気絶してしまった。
「グレイス……うっ……」
「ラインお兄ちゃん!?」
ラインは力尽きて倒れてしまった。真っ白な髪と、瞳のままで――
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