第11話『創世神の力』
アレス、セツナ、レンゲが神龍オメガルスと空中で戦い、他の生徒たちはグレイスとレオの指示で魔法を打ち続けている。
神龍の回復速度は段々と遅くなり、弱い魔法でもちょっとしたダメージを与えられるまで弱っていた。
「結構魔法通るようになってきたな。よし、一回俺に魔法を撃ってくれ!」
レオは近くにいた生徒らに自分に向けて魔法を撃つように頼んだ。頼まれた生徒らは一瞬困ったが、「レオがこの程度で死ぬわけないか」とレオを信じて魔法を放つ。
「よし、みんなありがとう!」
レオに向けて放たれた魔法が、レオの目の前で一箇所に集まる。
レオの『権能』――《覇王の支配》により、レオの視界に収めたものを一時的に支配することができる。
放たれた様々な魔法が一箇所に集まり、高威力を誇る魔法のエネルギー弾となった。
「――!!」
レオが詠唱した瞬間、杖から魔力砲が神龍に向かって放たれた。それは、神龍の身体を一度貫く。
――神龍の絶叫が学園中に響き渡り、耳を塞ぐ生徒が大勢現れた。
「くっ!」
「うるせぇ!!」
地面に倒れる生徒が大勢いる一方で、神龍と近くで戦っていた三人は平気そうな顔をしていた。
「ちょっとうるさかったね」
アレスが『創世神』の力を使い、自分と二人の妹を透明な球体に入れたのだ。神龍の絶叫が遮断された中で三人は話す。
「アレス、ありがと」
絶叫はすぐに終わり、生徒たちもまた少しずつ魔法を撃つ体制に入った。
しかしそこに謎の声が響いた。
その声に一同は振り返ったりしてみるがどこから聞こえているか分からない。
「我をここまで追い詰めるとは……見事だ」
「は?」
再び声がした方へ目を向けると、そこには『神龍オメガルス』の姿があった。
「えっと……今の声って神龍?」
「そうだ。我こそが『神龍オメガルス』だ」
「いやお前喋れるのかよ!?」
「話せるに決まっているだろう」
と、話せるのはさぞ当たり前のように言っているが、生徒達は驚きが隠せない。
ドォォォォン!!
刹那、神龍が爆発を起こす。
しかし、その業火は一瞬にして何事も無かったのように消え去った。
「――ッ」
業火の奥から、赤髪で学園の制服を着た男がゆっくりと歩いてくる。
「あれって……」
「お兄……ちゃん?」
赤髪の男――ラインがこちらに向かって歩いてくる。
その男に、兄妹たちは妙な違和感を覚える。
「――《破壊の衝撃》」
――その違和感は正しかった。
ラインの姿をしたその男から、生徒達に向かって破壊の波動が放たれる。
「――ッ」
しかし、アレスによっていとも簡単に防がれ、横からセツナとレンゲに襲われる。
セツナがその男を拘束し、レンゲが切り刻む。
その男は、呻き声を上げながら静かに消滅していった。
「え、弱……これだけ? お兄ちゃんくらい強いかと思ったよ」
あまりの弱さにセツナは呆然として、立ち止まっていた。
◆◇◆◇
破壊の波動がルシェルの指先から光線のように放たれる。
その光線は、ラインの――いや、吸血鬼の弱点である心臓を貫いた。
「あっ……」
「ライン!?」
アッシュが驚く中でルシェルは淡々と続ける。
「吸血鬼の弱点の心臓……それは君も例外じゃないだろ? ライン・ファルレフィア。ファルレフィア家に生まれたのに……こんなもんか」
「……」
ラインの心臓を貫き、飄々とした態度で話すルシェルに冷たい目を向けるアッシュ。
ラインの身体は既に崩れ、塵になってしまい、それを見つめるアッシュを見てもルシェルの態度は変わらない。
そして、一言呟いた。
「《複製》」
「なんだって?」
ルシェルがそう呟くと、ルシェルの隣に身体が形成されてくる。
驚いて、それを見続けるアッシュだったが、生成された男を見て固まった。
「そ、それは……」
その男の見た目はラインとそっくりだった。それを見て、ルシェルは嬉しそうに、
「おっ、初めてだけどかなり完成度高いんじゃないかな? ねえ、どう思――」
と言うが、アッシュに襲われる。だがしかし――
「なっ……」
アッシュの長剣は、ラインの複製体に止められてしまう。
複製体はそのままアッシュを投げ飛ばし、先程ルシェルがラインに撃った《破壊の衝撃》を撃つ。
アッシュはギリギリで長剣で弾き、被害は抑えられた。
「なんでそいつがその『権能』を……」
「僕が与えたんだよ。《奪取》で奪った『権能』は他の人にも上げれるんだ。彼にあげた《破壊の衝撃》は、僕が今まで奪ってきたものだから僕のではないんだけどね」
どうやら、ルシェルの持つ《破壊の衝撃》ではなく、彼がこれまで奪ってきた中のものらしい。
「じゃあ、行ってきて」
ルシェルの命令に従い、複製体のラインは尋常じゃない速度で神龍オメガルスのもとに向かっていった。
「あれは……」
「ん?」
「あれは……ライン本体をそのまま複製してるの?」
「そういう訳じゃないかな。あれは僕の命令を聞く忠実な下僕ってだけ。殺した相手しか複製できないんだけど」
「殺した相手だけ?」
「うん。もし生き返って本体と出会ったら消滅する仕組みだよ」
「なんで神龍の方に行かせたんだ?」
「まあ何となく。――それに、もう君を倒さないといけないし」
「……そう」
ルシェルが不気味な笑顔をしながらアッシュに近づいていく。
だが――
「フレイムスパーク」
すると、ルシェルに向かって炎魔法が飛んできて、吹き飛ばされる。
「――は? な、なんで……」
ダメージを喰らって驚くルシェルの前に、白髪の男が現れる。
「よう、さっきはよくもやってくれたな」
その男は間違いなく、本物のライン・ファルレフィアだった。
その姿を見たルシェルは驚きを隠せない。
なぜなら、その姿が先程よりも変わっていたからだ。
赤髪と緋色の瞳は、どちらも真っ白になっている。
「ら、ライン? 髪が白くなってるけど……大丈夫?」
「ああ、心配すんな。ルシェルを倒すぞ」
「うん」
ルシェルの頬に冷や汗が流れる。先程殺したはずの男が、真っ白な髪と瞳になり、自分の目の前に現れたからだ。
その二人を見つめていたルシェルだが、瞬きを一度すると、二人の姿が視界から消える。
「な、なに!?」
周りを見通すが、二人の姿が見えない。すると、目の前にラインの手が現れる。
「なっ……」
驚いた時には遅かった。ルシェルはラインに触れられると、いっきに吹き飛ばされ倒れる。
《無敵》を使わずとも、ルシェルの無敵の『権能』を破ることができる彼は天敵だ。
「ば、バカな……ありえない……」
「なるほど……お前の無敵の正体は《無視》か」
ルシェルの顔が強ばる。そして、ゆっくりとラインを見つめる。
「まさか……本当に……」
「あ? 何言ってんだ」
何言ってんだこいつと言うような目でルシェルを見ていると、急に叫び出し、
「アァァァ!!」
高速でラインに向かって襲いかかる。
しかし――
「無駄だ」
全ての攻撃はそもそもラインに当たる前に弾かれ、消滅してしまう。
「ガハッ!」
ラインに蹴飛ばされた挙句に、《超加速》で急接近してきたアッシュが長剣を振り、叩き落とされる。
もはや何も為す術なく、二人にボコボコにされていた。
『創世神』の力で戦っているラインにルシェルが勝つのは不可能だ。
「お前……なんで生き返ってるんだよ……心臓潰されたら死ぬはずだろうが……」
声を絞り出し、ラインを睨みながらそうつぶやく。
「悪いが俺はただの吸血鬼じゃないんでね」
魔力を集結させた指先が、ルシェルに向けられていた――
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