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最終話『創世』

「――ヴァルザードは殺られたのか。予想外だったな」


 迫る『剣聖』とレンゲの攻撃を軽々と受け止めながら、『破壊神』アズラエルはそう呟いた。その一言で、二人は『魔王』がいた方向を見つめる。すると、『魔王』が塵となって消えていく場面と、地面に向かって落下していくアレスとセツナが見えた。


「凄い、倒したんだね」


「良かった……。後は、こっちを――」


「余所見をしてる場合じゃないと思うがな」


 瞬間、破壊のエネルギーが炸裂し、『剣聖』とレンゲは吹き飛ばされてしまった。


「――そいつが致命傷を受けていないのは分かるが、なんでお前は生きている?」


 アズラエルは終始殺すつもりで攻撃をしている。それでもレンゲが死なないのは言わずもがなだが、『剣聖』が生きている理由が分からずにいる。


「『神剣』のおかげだよ。僕が致命傷を負わないように守ってくれるんだ」


 右手に持つ無属性の剣――『神剣』ヴォイドを見つめ、アッシュはそう答えた。


「ああ、『知恵の神』のせいか。厄介なことを……」


 アズラエルは、『神剣』ヴォイドが『剣聖』を守るのは『知恵の神』がそうなるように作ったと思っている。

 まあそれも間違いではないが、本当の理由としては、『神剣』と融合したアッシュの父親の形見の剣のおかげだ。

 理屈は分からないが、息子を守っているのだと考えよう。

 このことは、誰も気づいていないが。


「エリゴスもお前が倒したんだったな。人間にしてはやるほうらしい。だが、もう無駄だ。どんなに強い人間だろうと、世界が滅びれば誰も生き残れない。後五分程度で世界は終わる。残念だったな」


 流石のアッシュでも、世界が崩壊し、宇宙空間に飛ばされてしまえば生き残れない。というか、四つ子以外は全員無理だ。そうなるまでのタイムリミットは、後五分程度しかない。

 二人の中に焦りが生まれてきた。


「早く、ラインお兄ちゃんに戻ってきて貰わないと……」


「そう簡単に戻って来れない。俺はあいつをただ殺したんじゃなく、封じ込めたからな。五分以内では戻って来れないだろう」


「封じ込めた? 一体どこに……」


「お前らは『神龍オメガルス』を知ってるだろ? アレの持つ、対象の存在を歴史から消し去る力は俺の力の一部だ。さっきはそれを使ってお前の兄を消した。ただ、『創世神』の歴史は消せないからな。異空間で拘束中だ」


 以前、ラインと『知恵の神』アステナが、『神龍オメガルス』に消された生徒たちを助けたことがあった。

 その時、二人は異空間で拘束された生徒たちを救ったが、今度はラインがそこで拘束される側となってしまったようだ。


「時間が経てば経つほど、俺の力は上昇していく。もう、お前らに勝ち目はない」


「私たちは『創世神』として世界を守らないといけないから!」


「そうか。お前の兄が戻ってきても面倒だ。俺も本気でいかせてもらおう」


 全身にピキピキと圧がかかるのが分かる。冷や汗が頬を流れ、唾を飲み込む。瞬間、アズラエルの手が目の前に迫った。


「――ッ」


 破壊されないように、両手を『創世神』の力で包み込み、アズラエルの手とぶつける。その一撃で、世界を揺るがす衝撃波が起こり、空間を裂くような勢いで広がっていった。


「世界は壊させないから! 絶対!」


「お前らの気持ちなど知らん。俺は俺の使命を全うするだけだ」


 拳を交えながら、飛んでくる水の刃を壊すアズラエル。どちらも、致命的な攻撃を当てられない。長引けば長引くほど、アズラエルは強くなり、レンゲは不利になってしまう。


「――チッ、邪魔だけは一流のようだな」


「それはどうも」

 

 レンゲを消し去るはずだった破壊の光線を切断し、アズラエルの腕に『神剣』を押し付ける『剣聖』。その剣はアズラエルに掴まれ、魔の手が迫る。触れられたら絶体絶命だ。そんな危険を負ってでも、アズラエルに近づいた理由。それは――


「《空間操作》」


 『破壊神』の手と、『剣聖』の間に現れた異空間への扉。その中へと、『剣聖』は吸い込まれていった。


◆◇◆◇


「――ここは……」


 ラインが目を覚ましたのは、漆黒の空間。それは以前、『神龍オメガルス』に消された生徒たちを救う時に入った空間と同じところだ。


「《暗視》」


 どんな暗闇でも周りを見渡せる『権能』を使用し、自身の状況を把握した。見たところ、四肢は鎖で繋がれてしまっていて、真っ白だった髪と瞳は、赤髪と緋色の瞳に戻ってしまっていた。


「戻らねえと……。あ、あれ? 鎖が壊せない……」


 『創世神』の力で破壊しようとしたが、逆に力を吸われてしまった。何度繰り返しても壊せない。今度は血液操作で鎖を切断しようとしたが、それも上手くいかなかった。


「や、ばいな……。早く、戻らないと……」


 こうなれば仕方ない。鎖ではなく、手首足首を切断しよう。

 そう考えたラインは血液の刃を作り、切ろうと――


「待って、ライン」


「その声は……」


 突然、聞きなれた声が耳に入り、刃を止める。声のした方に顔を向けると、青みがかった銀髪と特徴的な剣が目に入った。


「アッシュ!? なんでここに……」


「《空間操作》でこの異空間に侵入したんだ。――時間がない。帰ろう」


 次の瞬間、『神剣』ヴォイドが軌跡を描き、ラインの四肢を拘束していた鎖は切り裂かれた。


「おっ、鎖が切れ――」


「《空間操作》」


 そして、二人は現実へと繋がる空間の扉に吸い込まれていった。

 

◆◇◆◇


 ――世界滅亡まであと三分。この七分で、『破壊神』アズラエルは先程までの数百倍は強くなってしまった。そんなのがいて、まだ世界が滅んでいないのは、彼と戦っているのがレンゲだからだ。

 今現在、唯一対等に『破壊神』と戦えるのは彼女だけ。だが、それもいつまでもつか……


「ッ!! やっ!!」


「戦い方がなってない。そんな調子で俺を倒すつもりか?」


 刻一刻と強くなるアズラエルは、属性神の力を使ったレンゲの攻撃を軽々しく弾き、破壊の衝撃波で吹き飛ばす。


「さてと」

 

 そう呟くと同時に、レンゲは一瞬で地面にぶつけられてしまった。その一撃で、抉れた地面はさらに下まで崩壊し、鼓膜を破る程の大きな音と衝撃が辺りを襲った。


「あ、がっ……。な、に? 今の……」


 砂埃がたつ地面にうつ伏せに倒れ、ゆっくり拳を握る。吸血鬼であり、『創世神』である彼女にとっては傷なんてすぐ治るしなんともない。だが、痛いものは痛い。

 

 『第九位』レヴ・ダイナスに誘拐され、『魔王』と『破壊神』の復活のために『創世神』の力を吸われ、ここまでの戦いをずっと『創世神』の力だけでこなしてきた。

 その疲労が、痛みとともに全身を襲う。

 ――そして、真っ白な髪と瞳は、赤髪と緋色の瞳に戻ってしまった。

 

「――ここまでか。どうやら力を使いすぎたみたいだな。安心しろ。すぐにお前の兄と同じところに送ってやる」


 ゆっくりと地面に降り、倒れているレンゲを見てそう話しかける。そして、掌を向けると、紫色の破壊のエネルギーが球体状になった。


 それが掌から――


「させるかよ! 血式・紅!」


 突如開いた穴から血液が放出され、『破壊神』を囲んだと同時に大爆発を起こした。

 

「――チッ……はぁっ!」


 爆発で砂埃が起こり、視界が悪くなった一瞬でラインの血液が全身を縛る。そして、アズラエルは掌に溜めたエネルギーを爆破させ、破壊の弾丸が四方八方に飛び散った。

 だが、


「はぁっ!! オラァ!」


「まためんどくさい戦い方を……」


 『風神』の力で飛び散ったそれを一点に吸い込み、『雷神』の力で一閃を描いて切り裂く。そして、上空から指先をアズラエルに向け、雷速で血液の棘を複数飛ばした。それはアズラエルの腕と胴体に刺さり、彼は呆れた顔を浮かべた。

 すると――


「血式・紅」


 二度目のそれが発言され、貫通した棘は体内から大爆発を起こした。


「――ッ、そんなことも出来るのか……。吸血鬼とは便利なものだな。――『剣聖』はどこに……」


「はっ!!」


 ラインの動きに感心していたアズラエルだが、『剣聖』の姿が見えないことに気付いた。探そうと首を動かす前に、両腕を切断されてしまった。


「――まさか人間に腕を斬られるとはな。人間はつまらない存在だと思っていたが……お前、腕は良いと思うぞ」


「――ッ」


 そう言いつつもアズラエルは『剣聖』を蹴り飛ばし、飛ばされた彼はラインの横で剣を地面に突き刺しながら膝をつく。呼吸が荒く、汗が止まらない。剣を持つ腕も痙攣し、上手く掴めない。ここまで戦い続けてもう限界なんだ。

 

 こんな状況下で疲労がないのは、吸血鬼の体質を持つ四つ子だけ。その内の二人は失神し、もう一人は力を使いすぎた影響で全身が重い。


「――チッ、ちゃんと戦えるのは俺だけか……」


「『創世神』の力を使うつもりか? 一度途切れた後に力を使えばお前はもう動けないだろう」


 そう。先程殺され、あの空間で鎖から力を吸い取られてしまった。その状態で、もう一度『創世神』の力を引き出すと、反動で今のレンゲと同じ状態になってしまう。ラインしか動けない状況でそれをするのは危険すぎる。だが、世界の崩壊までもう一分を切った。


 (どうする……どうする……!? 血液を飲んで覚醒か!? それとも創血式で……)


 今まで生きてきた中で、一番頭が回転する。さらに長い思考が一秒にも満たない間に何度も混じるが案が浮かばない。なんせ、対峙しているのが易々と倒せない上に毎秒毎秒強くなっているのだから。


「もう終わりだ。この世界とはおさらばだな。――ん?」


「――あ、れ?」


 もう終わりかと思ったその時、ラインの髪と瞳が真っ白へと変化した。彼は力を出していない。驚きが隠せず動揺していると、同じように『創世神』状態へとなったレンゲが隣に現れた。


「レンゲ……これって……」


「うん。アレスお兄ちゃんとセツナお姉ちゃんのおかげだね」


 『魔王』ヴァルザードを屠ったアレスとセツナは、失神寸前に最後の力を振り絞った。そして生み出された『創世神』の力の一部はラインとレンゲに入り、無理やりその力を引き出したのだ。


 ――タイムリミットは五十秒。一秒も無駄には出来ない。


「行くぞ」


「うん!」


 刹那の一瞬でそう呟き、戦闘が開始した。空間を抉りながら、一秒にも満たない間に数百発の拳がぶつかる。刻一刻と強化されていく『破壊神』に対応するために、ラインとレンゲも一秒毎に力を倍にしていく。

 それくらいしなければ対等には戦えないのだ。


 (――こいつらも段々と力が強くなってるな。俺が世界を滅ぼしながら自分にバフをかけているというのに、こいつらは簡単にしやがって……)


 地面を強く踏み込むと、その衝撃波が一気に広がる。だが、ラインとレンゲは気にせず攻める。

 

 自分は世界を犠牲にして強くなっているのに、目の前の二人は『創世神』の力で簡単にバフをかけている。そんな自由自在な力を持っているくせに、つまらない生き方をしている『創世神』は嫌いだ。


「はぁっ!!」


「――チッ!!」


「――ッ!」


 『破壊神』の力を全身から放出し、それを纏った拳がラインとレンゲの掌に衝突する。一瞬で腕が破壊され、痛みに堪えながらもすぐさま再生させ、掌に溜めた『創世神』のエネルギーをビームのように放つ。


「「せーの!」」


 息を合わして、アズラエルの腹に一撃を入れ、真っ直ぐ前に吹き飛ばす。五キロほど先に飛ばされ、体勢を立て直すアズラエル。だが、その後ろには既に追いついた二人が待ち構えていた。


「――」


 反応する間もなく、世界をも壊す一撃がアズラエルに入った。そして、アズラエルは一撃を受け止め、


「――ハハッ、流石の力だな。面白くなってきた。――決着をつけよう」


 そう言った。そして二人を蹴り飛ばすと、指先に『破壊神』のエネルギーを溜め始めた。空間が大きく揺れ、力の強大さが身に染みる。それに対抗するように、ラインとレンゲは掌に『創世神』のエネルギーを集中させ、時を待つ。


 ――その時はすぐ訪れた。全く同じタイミングに両者から射出され、正面で紫色と白いエネルギー砲がぶつかる。だが、アズラエルの方がやや勝っている。破壊の力が創世の力を壊しながら進み、負けじとラインたちは力を強める。


 ――互角。ラインとレンゲの二人に対して、アズラエルはたった一人で拮抗した技を出し続けている。――このままでは、押し負ける。


「――ッ! だったら――!」


「なっ……!? また、力が……。この威力は……!」


 突然、『創世神』のエネルギーが倍になり、アズラエルは一気に劣勢まで持ち込まれた。

 そう。今出している『創世神』の力は、アレスとセツナのものだ。それに加えて、ラインとレンゲは自前の力を合わせ、強大なものへと変えたのだ。


 ――全ての力を放出し、『破壊神』のエネルギーは潰され、『創世神』のエネルギーはアズラエルに向かって衝突した。


◆◇◆◇


 ――戦いは終わった。世界の崩壊は後一秒で止まり、空を覆っていた赤紫の霧も晴れ始めた。そして、段々と治っていく崩壊した地面で『破壊神』はただ立っていた。その肉体は、紫の粒子となり、少しずつ消えていく。


 正面を向くと、自前の力を使った影響で地面に膝をついて倒れ、今にも失神しそうになるラインとレンゲが目に映った。アズラエルはゆっくりと近づくと、口を開く。


「――まさか、俺に勝つとはな。流石は、兄さんの子ってことか」


「うっ……まだ……立てるのか」


「安心しろ。俺は間もなく消滅する。最期くらい、ちゃんとした話をしたいと思ってな」


 動けるアズラエルを見て、二人はまだ倒し切れていないのかと腰をあげようとする。が、アズラエルはそれを止め、話し始めた。


「俺の過去は、お前が勝手に覗いただろう。俺は、兄さんのやり方と合わなかった。何度でも壊し、やり直せば完璧な世界が生まれると思っていた。だが、違ったようだな」


 『神剣』を地面に刺し、気絶している『剣聖』、身体が動かない『魔導師』を抱えるエリシア、失神中のアレス、セツナをそれぞれ抱えるセレナとエルフィーネ、地面に倒れ、頭を抑えているソールとヴァルク、そして、ロエンを抱きしめるサフィナとミレーナを見つめた。


「人間が、こんなにもお互いを支え合えるなんて思いもしなかった。今まで【十執政】のことは駒のようにしか思っていなかったが、あいつらにも大切な人がいて、それぞれの人生がある。俺たちはそれを滅ぼそうとしてたんだな。どんな存在だって必ず間違えるんだ。兄さんが正しかった。素晴らしい世界を築くには」


「――」


「こんなことを言える立場ではないが、一つだけ聞いて欲しい。――」


「なっ……それ、本気か……?」


「もちろんだ。――あいつらは、【十執政】にならない方が良かったんだ。俺は、あいつらに平和に暮らして欲しい」


 『破壊神』とは思えない優しい顔をしていた。彼はそれだけを伝え、全身が紫色の粒子となり、消滅していった。

 ――『破壊神』アズラエルは、『創世神』によって屠られたのだった。


◆◇◆◇


 俺には兄さんの考えがずっと分からなかった。無意味な世界は壊し、作り直すのが最善だと思っていたんだ。でも、違った。兄さんのやり方で育った世界は美しかった。   

 神の仲間もいて、四人の子供がいて。幸せそうだった。


 ――俺にはそれが出来なかったんだ。なんでも出来て、全てが思い通りな兄さんが憎かった。いつでも俺を殺せたはずだ。それをしなかったのは、俺のことを見捨てられなかったんだろ。双子で、唯一の弟だから。いつも俺を信じてくれていたのに、俺は兄さんに応えることが出来なかった。――ごめんな。


 ――さよなら、兄さん。


◆◇◆◇


 ――群青と金に分かれた空に加えて、星のような光が滝のように流れている天空。

 そこで真っ白な床に座り、両足を抱えている、白銀の髪と瞳を持つ神秘的な美貌の女性がいた。


「……そっか。勝ったんだね。凄いよ、みんな。本当に……うっ……凄いよ……」


 涙を流し、目を袖で拭く。だが、それを超える量の涙が溢れて止まらない。

 『破壊神』と『魔王』を倒し、世界を復元したことでまた平和な世が戻ってきた。でも、それだけではアステナの心は癒えない。彼女の大切な友達は、もうこの地に戻ってくることはないのだから。


「ね、ねぇ、慰めに行った方がいいんじゃないかしら?」


「今は一人にさせよう。アステナにが一人の時間をあげないと。友達と会えなくなるのは辛いからさ」


 少し遠く離れたところにいる、元属性神たち。アクアがアステナを慰めに行こうとするが、ヴォルスは止め、泣き続けるアステナを遠くから見つめていた。

 すると突然、エオニアが声を上げた。


「あれ!? 見て見て! いるよ!」


「……あ、本当だ。立ってる」


「マジか……。こんなことあるんだな……」


 と、エオニア、イゼルナ、イグニスが次々と呟く。彼らの瞳の先には――


「うぅぅ……ぐすっ……うぅ……」


「何そんなに泣いてるの? らしくないなぁ」


「ぐすっ……え……?」


 泣いているアステナの耳に声が入ってきた。これからの世界で、もう聞くことが出来ないと思っていたその声が。

 パッと後ろを振り向くと、金髪と黄金の瞳を持つ美女と目が合った。

 その瞬間、


「うわぁっ! もう、びっくりしたよアステナ。急に抱きついてきちゃって」


「あす、アスタリア……アスタリア……」


「そ、そんなに泣いちゃう? 『知恵の神』とは思えないなぁ」


 アステナが抱きついたのは『時間の神』アスタリアだ。

 泣きながら周りを見ると、『空間の神』スピリア、『法則の神』ファルネラ、『生と死の神』アリシアス、『夢の神』フォカリナも立っていた。

 彼女らは『破壊神』と『魔王』に勝つために、四つ子に力を戻し、消えたはず。

 なのに、何故この場にいるのだろうか。


「な、なんで……? 消えちゃったのに……」


「わたしも驚いたよ。あの四人は、強大な力を自分たちで支配するんじゃなくて、また分割することにしたんだよ。おかげで、わたしたちはこうやって戻ってこれたの」


「まさか、こんなことをするなんて思いもしませんでしたね。ワタシも驚きましたよ。もうアステナに会えなくなると思って、いろいろ言いましたけど……恥ずかしくなってきちゃいましたね」


 四つ子は取り戻したその力を、もう一度分割することに決めたのだ。そのままであれば、世界を、宇宙をも自由自在に出来る力であったのに。


 消える直前、五人はそれぞれアステナに言いたいことをぶつけたが、まさか蘇るとは思っていなかったため、恥ずかしくなり全員が頬を赤らめている。


「でも良かったよ。ボクはもう会えなくなると思ってたからさ。またその顔を見れて嬉しいな」


「ぐすっ……うん。良かった。――本当に」


「ほら、もう泣かないでよ。僕たちはこうしてここに居るんだから」


 なおもまだ止まらない涙を手で拭くアステナの頭を、アリシアスとスピリアは撫でる。

 そんな中、フォカリナが空をふわふわと浮かびながら大きな声を出した。


「そこで立ってないでみんなも来てよー」


 フォカリナが手を振る先には、イグニス達がいる。大声が耳に入った彼らは目を合わして、ゆっくりこちらへ歩いてきた。

 すると、彼らの周りに橙赤、紫、薄緑、青、水色の粒子が出現し、それぞれの体内に入っていったのだ。そして、神々しく一瞬だけ輝いた。


「あ! 神の力がまた入ってきた!」


「また俺らに渡すのか……。何考えてんだか」


 それは、力を失った彼らが、再び神の力を手に入れた証だ。まさか、自分たちの力まで再び貰えるとは思っていなかったため、五人とも驚愕の表情をしている。


 そして、神の力が返されたのは彼らだけではない。もう一人、まだ力を貰っていない人物がいる。それは、


「あっ――」


 アステナの目の前に現れた白銀の粒子。近づいてきたそれに手を伸ばすと、体内に吸い込まれてゆき、一瞬、神々しい輝きを放った。

 そして、女は再び『知恵の神』となった。


「これからもよろしくね、アステナ」


「ぐすっ……うん!」

 

 『破壊神』アズラエルと『魔王』ヴァルザードという世界の脅威が倒され、滅亡しそうになった世界は元に戻った。

 平和になった世界で、『知恵の神』は涙を流しながら微笑んだ。

読んでいただきありがとうございました! 次回、エピローグで完結です!

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