第118話『命の灯火』
「――はぁ、はぁ、これは、中々……」
「大変そうじゃん。もう諦めれば?」
『創世神』と吸血鬼のハーフである、アレスとセツナと戦っている『魔王』ヴァルザード。ライン、レンゲと戦っている『破壊神』アズラエルと違うところといえば、神であるか否かだ。
しかしこれは決して小さな問題では無い。
神にも、いくつか種類がある。
『時間の神』達のように力そのものの神々、『知恵の神』たちのように神の力を与えられた人間、『創世神』と吸血鬼のハーフという特殊な出生を持つ四つ子、と、それぞれ存在の在り方は別であるが、世界中の誰よりも上位存在であることに変わりはない。
力が分割されていた状態では、【十執政】も、ヴァルザードも四つ子に対抗出来ていた。しかし、全ての力を取り戻した四つ子とは圧倒的差が開いてしまった。
最低限対抗出来る条件として、神であるしかない。だが残念ながら、ヴァルザードは『魔王』であり、神の力など持っていない。
そんなヴァルザードが『創世神』に対抗するための、唯一の手段は――
「――《未来の前借》」
「……? 何か言っ――!?」
上手く聞き取れず、聞き返したセツナの目の前に、ヴァルザードは近づいていた。振り下ろす血液の鎌を素手で受け止めるセツナだが、何やら違和感を感じ、すぐさま後ろに飛んだ。
(……何、今の……?)
セツナが感じた違和感。それは、攻撃の威力だ。先程まで捌いてきた攻撃より何倍も、いや、何十倍も強力なものだった。手を開いたり閉じたりする彼女に、ヴァルザードの鎌が迫る。
「っと。ボーッとしてたら危ないよセツナ」
「あ、ごめん」
ヴァルザードに波動を浴びせて飛ばし、妹を助けるアレス。ため息を付き、『魔王』を探すアレスだが、彼は既に後ろにいた。
「――っ!? 《切断》!」
即座に反応し、不可視の斬撃を浴びせるセツナ。だが、ヴァルザードは余裕のある笑みを浮かべたままだ。
「フフッ、アハハハッ!」
不満の表情を浮かべるセツナを見て、ヴァルザードは大笑いする。すると、腕を組んでゆっくりと話し始めた。
「攻撃が通用しなくて焦ってるのか? 面白いなお前らは」
「……」
「俺がなぜ、突然強くなったか気になってるんだろ? 良いさ、今は気分が良い。特別に教えてやろう」
そう言うと、ヴァルザードは一人で語り出した。
「アレは俺の奥義だ。俺の寿命を百年にする代わりに、俺が生きるはずだった寿命を力に変換するってものだ。ま、あと百年しか生きられなくなるが」
『魔王』ヴァルザードは不死身だ。魔族と吸血鬼のハーフという出自のお陰で、一定の歳からは老いることも死ぬこともなくなる。
この奥義は、そんな彼の寿命を百年にし、生きるはずだった未来の命を力に変えられるというものだ。それも、無制限に加算される。
なぜなら、寿命が百年ほどしかない人間と違って、彼にはそんなものないから。何百年も、何千年も、何万年もこの先生きる可能性だってあった。その未来を全て、力として変換するのだ。神に対抗する力を得るために。
「……それにしては、明るいね。そこまでして、世界を自分のものにしたいの?」
「本当は使いたくなかったんだが。お前らに対抗するにはこれくらいしないと無理だと判断した。それに、俺の相方もそろそろ本気を出しそうだもんな」
アレスの質問にそう返し、離れたところで戦う相方――『破壊神』アズラエルを見つめる。同様に、アレスとセツナもアズラエルを見た瞬間――
「――は……? 何、急に……?」
辺り一面が――否、この星全体を破壊のエネルギーが覆い、赤紫色の霧が空を覆い始めた。それだけじゃない。空が段々と砕け始め、世界は少しずつ細かい粒子になり、塵となって消えてゆく。
「ハハッ、アズラエル! やったか! あと十分で世界は崩壊する! ――そんな滑稽な顔するんだな、神のくせに」
息を飲み、周りを見渡すアレスとセツナを見て笑うヴァルザード。それにイラつくセツナが攻撃を仕掛けようと振り向き、その手がヴァルザードに触れる――ことはなかった。
なぜなら、ラインの腹が突かれ、殺されるのを見てしまったからだ。ショックで身体の力が抜けてしまい、ヴァルザードのカウンターを――避けた。
「――ッッ!! あっぶな! 大丈夫!?」
「ん……エリ、シア? なんで……?」
「グレイス君と、セツナ達を助けに行こうってなって。って、これ速すぎ……!!」
《飛翔》の『権能』で空を飛び、ヴァルザードのカウンターが当たる前にセツナを掴み、風のような速度で上空に逃げることに成功したエリシア。
だが、そのスピードに身体が追いつかず、地面に落ちそうになる。
「魔法? はい、大丈夫でしょ?」
『知恵の神』の力で、その効果の原因が「ブーストリア」ということに気づき、エリシアからその効果を消し去るセツナ。急激にスピードが落ち、倒れそうになるが、セツナが支え、もとの高さまでゆっくりと降りる。
「はぁ、はぁ、ありがとセツナ……」
「礼を言うのは私の方だって。ありがとうね。ていうか、その魔法は自分でしたの?」
「あ、それは私じゃなくて……」
「俺がかけたんだが、やりすぎたか?」
腕を組み、こちらを見ている『魔導師』グレイス。エリシアに動きを速くする魔法をかけたようだ。しかも、何回も。
おかげで、速すぎる速度でセツナを助けられたが、自分自身を制御は出来なかったようだ。
「また人間が増えたか。まあいい」
「あ、グレイス! 避けて!」
ヴァルザードに背中を向けていたグレイスは、真っ先に鎌で襲われてしまった。アレスが叫ぶが、それよりも先に鎌がグレイスの肉体を――
「――エクスプロード」
そう呟き、鎌が当たる前に真後ろに最高火力の炎魔法をぶっぱなし、『魔王』を燃やし尽くす。が、耐えられてしまった。
「ま、これくらい耐えるよな。アイスバインド、サンダークラッシュ」
続けて、氷魔法で凍らせて拘束し、雷魔法で肉体を貫く。もちろん、こんなもので倒せるとは思っていない。一瞬だけ時間を稼ぎたかったのだ。そして、グレイスはすぐにアレスを見つめた。
「おい、俺らがあいつを引き付ける。だから、お前らがトドメを刺せ」
と、グレイスは言ってくれるが、アレスとセツナからすれば心配で仕方がない。生きるはずだった命を使い、パワーアップしている『魔王』と正面からぶつかれば無事では済まない。
――だが、二人は友達を信頼することに決めた。
アレスとセツナが無言で頷くのを確認したと同時に、ヴァルザードが氷を砕き、現れる。
「『魔導師』ねぇ。魔法にはあまり興味ないんだがな」
「あ? 喧嘩売ってんのかお前? お前『魔王』だろ? 普通は魔法使うモンじゃねえのかよ」
「喧嘩は売ってないが。俺には魔法が魅力的に見えなくてな。あんなもの、練習すれば誰だって出来る。それよりも俺はこの力を使った方が楽しめると思っているだけだ」
『魔王』という名前に反して、全然魔法を使わないヴァルザード。彼は魔法よりも、生まれつき持つ魔族の力と吸血鬼の力を掛け合わせる方が使いやすいそうだ。
「魔法は文明の発展をもたらしてくれたが、それまでだ。属性魔法、防御魔法、治癒魔法などと開拓されて来たが、世界のルールを覆すほどのものはない。つまらぬものを使う気などなれないな」
「ハッ、そうかよ。そう思うんなら、俺とは一生気が合わねえな」
魔法を侮辱されるのは『魔導師』にとっていい気はしない。少々苛立ちながらもそう返すと、脳内に声が響いた。
『魔法のことをどう思うか、だって? へぇ、君にしては面白いこと聞くじゃないか。そうだね、私は魔法を素晴らしいものだと思ってるよ。人類が自ら生み出し、幾年の時をかけて進化させて来たもの。それが魔法だ。不条理なことは出来ないけど、君が魔法を極めることが出来れば、可能性はあるんじゃないかな? 少なくとも、私はそう思ってるよ』
いつの日だろうか。白銀の髪と瞳を持つ、あの引きこもりの『知恵の神』が、言った言葉だ。幼かった時に聞いたものだが、それはグレイスの耳に残っている。
(――ま、信じてるぜ。『知恵の神』だもんな)
心の中でそう呟き、ヴァルザードを睨むように見つめる。そして、
「さっきまで、馬鹿みたいな力で戦ってたみたいだが……」
グレイスがそう言うと、彼の周りを大量の魔法陣が囲った。そして、『魔導師』は呟いた。
「――こっからは魔法の時間だ」
刹那、人類史上初めての――否、世界で初めての、不条理な魔法が『魔王』ヴァルザードを貫いた。
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