第117話『破壊と創世』
――『創世神』アルケウスと『破壊神』アズラエルは双子の兄弟だ。どうやって産まれたのか、どんな生活をしていたのか、そんなことは二人にしか分からない。
二人だけの秘密――という訳では無いが、どちらかと言うと誰にも過去のことは見られたくないとは思う。
――だがしかし、そんな過去を兄の息子は容赦なく覗き込む。
◆◇◆◇
――『創世神』アルケウスが生み出した星の中で、初めて生命を創造した星。そんな原初の世界で大事件が起こった。
この世界では、人類の発展を目指して『創世神』と『破壊神』は人類と協力していた。しかしある日、力に溺れた愚か者たちが神に刃を向けたのだ。
その瞬間、その者たちは『破壊神』に歴史から消滅させられてしまった。そして、『破壊神』は『創世神』を見つめる。
「兄さん。これは失敗だ。一度破壊してやり直そう」
それは、ここまでたどり着いた軌跡を無駄にするような提案だった。だから『創世神』は首を降り、拒む。
「完璧な存在なんて出来るわけないんだ。失敗しても、間違えても時間をかけて成長させればいい。失敗する度に壊すのなら、何度創り直しても、彼らが成長することなんて出来ないよ」
「……」
と、世界の創造者からの発言。『破壊神』は納得していないようだが、とりあえず、兄の言うことを聞いたのだった。
――あれから『破壊神』は兄の言いつけ通り、世界を破壊せず、見守った。兄の言う通りに人類が成長してくれることを願って。
だがしかしどうだ? 時が経つにつれ、確かに文明は発展し、人類は多くの事をできるようになってきた。それでも、絶対に変わらないことがある。
争いが絶えないのだ。平和な世界を創ろうと望んでいる『創世神』と『破壊神』からすればそれがネックだった。多くの大陸が生まれ、王国が出来上がると、更なる土地や力を得るために国同士、人同士の争いが起こる。それだけは長い歴史を繰り返しても変わらないものだった。
どうすれば、争いもない平和な世界に変えられるのだろうか。『創世神』がそう考え続けたある日、『破壊神』の心は先に決まった。
瞬く間に世界は崩壊し、長い間積み重ねてきた過程は、一秒にも満たない速さで壊れた。崩れていく世界の中で、双子の神は見つめ合う。
「――アズラエル、なんでこんなことを……」
「これ以上、続けても無意味だと判断した。これだけ長い時間をかけて変わらないのなら、最初からやり直すしかない」
「だが、もっと長い時間をかけてみなければ、分からな――」
「――もう、俺は兄さんみたいに、人間に希望なんて持ってない。俺はただ単に失望した。あの日、兄さんの言う事を守り、世界を成長させてきた。なのに、俺たちの願った結果は得られず、こんな結果ばかりだ」
「――っ。俺は――」
「もう何も言うなよ兄さん。俺とは根本的に考え方が違うんだ。兄さんは世界が未熟でも、間違えても、時間をかけて成長させればいいと思ってるみたいだが、俺は失敗作は壊し、新しく作り直すべきだと思ってる。考え方が一致しない以上、兄さんと一緒にはいられない。俺は一人でやっていく」
淡々と自身の考えを述べ、兄の行動を監視する。
「――お前のやり方は世界と向き合うことから逃げている。そんなやり方で上手くいくはずない。壊して、壊してを繰り返して、振り出しに戻れば何も進まないだろ? 何も出来やしない」
「……兄さんに言われても、心に響かないな。兄さんなら俺のやり方でも出来るだろ? それなのに、俺には出来ないと思うのか? 俺には、この方法しかないんだ。――もう、兄さんと話すことは何も無い」
何でも出来る『創世神』の兄に、自分のやり方を否定されても納得いかない。兄ならば、そのやり方でも出来るのだから。破壊の力しか持たない自分には、これしか方法がないのだ。
「――俺は、俺のやり方で世界を創る。お前はもう、神じゃない」
「勝手にすればいい。俺は、兄さんが創った世界を滅ぼす神になる」
――そして、『創世神』と『破壊神』は決別した。
◆◇◆◇
「――」
そこで、過去を映し出すディスプレイは止まった。過去を知り、無言で『破壊神』を見つめるラインとレンゲ。
それに対して、過去を覗かれた『破壊神』は睨みつけるような表情で二人を見ていた。
「……お父さんとは――」
「――黙れ。もういい。これでわかっただろ。俺は兄さんと根本的に違うんだ。俺を助けたいだと? 馬鹿な事を言うな。俺は、この世の全てを破壊する」
――その瞬間、夢の世界は破壊された。真っ赤な空の現実世界に落とされ、空を落ちていくラインとレンゲを『破壊神』はじっと見つめる。
そして、その手には破壊のエネルギーが溜まり始めた。
「チッ……クソが!」
「あっ、ラインお兄ちゃん! っ!」
ラインとしては、本当に『破壊神』を助けたかった。だがその想いは届かず、世界を滅ぼす『破壊神』としての責務を全うしようとしている。だから、ラインたちは止めないといけない。『創世神』として。
「――だから嫌いなんだ。『創世神』は」
目の前まで跳躍し、馬鹿げた力で『破壊神』アズラエルを蹴り飛ばすライン。その威力を受け、アズラエルはそう呟いた。
もはや常人では何してるか分からない速さで力がぶつかり合い、音を置き去りにした戦闘が繰り広げられている。
「お前じゃ俺には勝てない」
「まだだ!」
迫る破壊のエネルギーを消し飛ばし、真っ白のエネルギーを込めた右足がアズラエルの顔を擦る。
だが、その足は掴まれてしまった。
「――っ!? まず――」
破壊されないように『生』の力を出そうとしたラインだが、それよりも先に一閃がアズラエルの腕を切り落とした。
空を見上げると、風でなびく真っ白な髪を持つ少女が身体から紫電を放っていた。
「――」
そして、少女は空を蹴り、雷速で舞い戻る。少女の振る血液の刃からは風の斬撃が飛ばされ、再生した腕で防ごうとする『破壊神』に直撃する。
「――チッ、小賢しい真似を……」
その瞬間、大爆発が起き、アズラエルを一気に地面まで吹き飛ばす。
「危ねぇ……。助かったよレンゲ」
「うん! ……ねぇラインお兄ちゃん、あの人を助けるのは無理だよ。私たちと考え方が違うし、破壊することを辞めようとしない。お兄ちゃんの気持ちも分かるけど……まずは世界を守ろ?」
「――うん。そう、だよな。じゃあ、行くか」
『破壊神』を助けようとする兄を普段からは考えられないほど冷静に諭し、兄の手をぎゅっと掴む。
ラインがアズラエルを助けたかった理由としては、父親の兄弟で優しい心を持っていると信じていたからだ。しかし、過去を見た上で、彼を矯正するのは無理だと判断した。
四つ子以外の神が居なくなった今、世界を守れるのは彼らしかない。
だから、なんとしてでも倒さなければならないのだ。
――そして、二人は攻撃を開始した。
(――っ!? 何を、された……?)
分からない。気づいた頃には、腕が飛ばされていたのだ。必死に頭を回すアズラエルに、レンゲは接近する。『雷神』の力で瞬発力を上げ、『炎神』の力で火力を上げる。そして『風神』の力で加速すると、血液の刃がアズラエルを襲った。
「おりゃー!」
(――チッ、これ以上攻められるの面倒だな……。防御がことごとく通じない)
アズラエルの防御が甘いわけではない。『剣聖』、『魔導師』、【十執政】の攻撃を受けても傷一つ付かないくらいの防御力がある。
それでも、すぐ腕を切断されたりと大ダメージを受ける理由。力を出している四つ子は気づいていないのかもしれないが、彼らの攻撃がアズラエルの防御を無視しているのだ。
「――悪いが、ここから先は俺の独擅場だ」
――これ以上攻撃を受け続ければ、負ける。そう感じたアズラエルは、一撃を使った。
完全に、世界を屠るために。
「……!? な、なん、だ……!?」
その瞬間、辺り一面が……否、この星全体を破壊のエネルギーが覆い、赤紫色の霧が空を覆い始めた。それだけじゃない。空が段々と砕け始め、世界は少しずつ細かい粒子になり、塵となって消えてゆく。
世界の崩壊を目の当たりにし、言葉が出ないラインとレンゲ。そんな二人に、アズラエルは嘲笑って付け加えた。
「あと十分で世界は崩壊する。俺を止められず、何も出来ない自分たちを呪え、『創世神』!」
「――ッッ!? ま、じか……」
「ッ……!!」
『破壊神』アズラエルの腕がラインの胴体を貫通し、そこから放たれた破壊のエネルギーによって、ライン・ファルレフィアの命の灯火を消し去った。
大好きな兄を殺されたことで一気に血が頭に上り、襲いかかるレンゲの両腕を掴み、抑える。
「次はお前だ末妹」
「ッ……はな、してよ! あっ……うっ……」
『破壊神』の手から、破壊のエネルギーが流れ、腕が段々とヒビ割れていく。レンゲでも、この男から手を引き離せない。
「――それ以上はさせない」
そんな絶体絶命の状況で、救世主の一閃がレンゲの両腕を切断し、アズラエルから引き離した。
それをした張本人はレンゲのもとまで駆け寄ると、心配する表情で見つめる。
「大丈夫? あっちの腕を切るより、君のを切った方が良いと思ったんだけど、痛くない?」
「あ、うん、大丈夫だよ。もう治ってるし」
『水神』の治癒能力と吸血鬼の再生能力のお陰で、切断された両腕は既に完治している。『剣聖』は安堵した表情を浮かべ、その身を後ろに向けた。
「役に立てるか分からないけど、僕も手を貸すよ」
「うん! ありがと!」
――そう言って、最も頼りがいのある『剣聖』はその剣をアズラエルに向けた。
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