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第116話『最後の希望』

「おいおい、張り切ったこと言ってたのに逃げるのは恥ずかしくないか? 《確率操作(フォーチュナム)》」


 レグナードに攻撃を仕掛けず、ただ空を走って逃げ回るソールに悪魔の呪いの力で必中のビームのようなものを放つ。

 そして、それを――


「《反射(カウンター)》」


 『異能力』で跳ね返し、威力が上がった必中のそれが、レグナードに戻った。

 しかし、


「《確率操作(フォーチュナム)》。あっぶねー」


 必中効果を消し去り、ビームはレグナードを避けてはるか遠くに飛んでいってしまった。


「やっぱり一筋縄じゃいかないかー。まあいい」


「《未来の選択(オプティマム)》」


 全身から悪魔の力を放出し、向かってくるレグナードを、最善の未来を予測して避ける。

 そんなソールが懐から取り出したのは、一本の片手剣だ。青がかかった黒色で、質素なものだ。

 それを見て、レグナードはハッとした顔を見せる。

 

「その剣は――」


「《引力の王(グラビティ・ロード)》、《幻焔花界(エクリプス・ガーデン)》」


 突然、レグナードはソールに引き寄せられ、剣から花の模様の斬撃に襲われた。


「チッ……それ、クロイツが作ったものでしょ?」


「うん。前に僕のために作ってくれたものだ。『『第一位』なんだし、みんなの『異能力』使えても良いんじゃない?』なんてこと言ってたけど」


 ソールの持つ剣は、【十執政】『第六位』クロイツ・ヴァルマーが彼だけのために作ってくれたものだ。

 クロイツの持つ《複写(コピー)》をモチーフに、《造物(クリアシオン)》で作ったらしい。


 詳しいことを聞きたいところだが、肝心の相手はこの世界のどこにもいない。


 (馬鹿なことしたよなぁ、あいつ)


 クロイツがどう思ってるか知らないが、ソール自身は、友好関係を築けていたと思っている。そのため、彼が裏切ったと言うのも初めは半信半疑だったし、今でも実感がわかない。


「はぁ……」

 

 ため息を付いていると、レグナードは興味深そうに剣を見つめていた。


「……何? そんなにこれが気になる?」


「みんなの『異能力』を使えるって、やりにくいなって思っただけ。ま、次はオレから行くよ」


 そう言って、レグナードは悪魔の力で全身を強化した。そして、一気にソールに近づく。


 刃に触れないように、悪魔の力で手をコーティングすることで安全に戦える。拳と刃が何度もぶつかり合い、所々でヴァルクが魔法で割り込んでくる。


 (チッ、やりにくいな……。ソールのペースは崩せないし、ヴァルクも良いところで邪魔をしてくる。だったら一度……)


 そう考え、地面に足を思いっきりぶつける。その威力で衝撃波が発生し、ソールと、こちらに向かっていたヴァルクの身体が空に浮いた。


 (っ!? 悪魔の力で起こしたのか……。一度引くか――!?)


 (――まず、い……。《反射(カウン)》――)


 悪魔の力によって引き起こされた現象と理解したヴァルクとソール。二人とも、後ろに引こうとしたが、もう遅かった。

 レグナードの身体から紫色のエネルギーが放出され、爆発したのだ。そして、ソールは『異能力』の発動を失敗してしまった。


 強烈な威力のそれが土埃を起こしながら地面を崩壊させ、地には血が溢れ、横たわっている『第一位』と元『第十位』の姿があった。


「――ふぅ、オレの勝ち、かな? って言っても、オレの力で勝った訳じゃないから達成感ないなぁ。――ん?」


「《因果律操作(カザリティ)》……!!」


 過去改変できる『異能力』を使用し、ソール自身が負った傷をなかったことに変えた。一日一度しか使えない最後の手段のようなものだが、今使う判断は間違いではなかった。


「《時間反転(タイムリバース)》!」


 さらに、自分の時間を巻き戻し、攻撃を食らう前の状態に戻ったヴァルク。そして、ゆっくり立ち上がるヴァルクに目を向けているレグナードだったが、ヴァルクは目の前から消えた。


「――っ!? どこに――」


「《引力の王(グラビティ・ロード)》」


 探すレグナードの後ろから、そう聞こえた。ソールによって引き寄せられた相手は、もちろん――ヴァルクだ。


「ヴァルク、撃って!」


「ああ。エクスプロード」


「――っ!?」


 瞬間、引力で引き寄せられたヴァルクから、炎魔法最高火力のそれが放たれ、一直線を爆発させた。ヴァルクの魔力全てを消費し、大地を滅ぼすかのごとく、烈火がレグナードを襲う。

 悪魔の呪いの力があるお陰で何とかその身を保てたレグナードだが、意識は落ち、激しい音と共に地面に倒れた。


「はぁ、はぁ、よくやったよヴァルク。ほかのところも終わったかな。後は、『魔王』様と『破壊神』様だけか」


「そうだな。俺らはどうする?」


「後は、若い子に任せようかな」


 と、【十執政】『第一位』ソール・アスタリウスは呟き、真っ赤な空を見あげた。

 

◆◇◆◇


 ――辺り一面に広がる青空、緑が生い茂る広大な大地、楽園のように広がる様々な色の花、などなど、そんな綺麗な空間に二人の男女がいた。


 一人は、真っ白な髪と瞳を持ち、神々しさを感じさせる青年。

 もう一人は、腰くらいまである長い赤髪と緋色の瞳を持つ、若くて美しい女性だ。


「ねぇねぇアルケウス、ここ凄いわね。花がいっぱいで本当に綺麗! あの子達にも見せたいなー」


「あっちの世界にはない花もあるし、新鮮な雰囲気だよね。でも、ルナミアの方が綺麗だよ」


「もーアルケウスったらー。顔合わせてそんなこと言わないでよ恥ずかしい」


「だって本当のことだろ?」


 彼らは、『創世神』アルケウスと、その妻で吸血鬼のルナミア・ファルレフィアだ。四つ子が魔法学園生となった事で夫婦旅行をしていて、ここは別の宇宙の別の星だ。

 四つ子のいる世界とは違う雰囲気があって新鮮だ。


「そう言われても恥ずかしいわよー」


 宇宙を創世した神と、その中でたった一つの星に生まれた吸血鬼という、関係性の夫婦。

 初対面であれば、ルナミアの方がデレデレだと思うかもしれない。しかし実はアルケウスの方がルナミアにデレデレなのだ。

 

 四つ子がいる時は父として威厳を保つために、一人称や話し方を変えているアルケウスだが、このようにルナミアと話している時や神々と話している時が素だ。

 そして、素の彼は神とは考えられないくらいルナミアにデレデレである。


「もう、くっつきすぎじゃない?」


「良いだろ? ラインたちの前ではあまり出来なかったから」


「まあそうね。せっかく二人きりなんだし、もっとくっついちゃおうかしら」


 そう言って、アルケウスの腕にぎゅっと抱きつくルナミア。もちろん、彼女もアルケウスのことが大好きなので嫌な思いはしない。


「ははっ、良いね。――ん?」

 

 ぎゅっとされて嬉しそうにしていたアルケウスの顔つきが突然変わった。


「? どうしたの? 何かあった?」


 それに気づいたルナミアがキョトンとした顔をしていると、彼は何か呟き始めた。


「なんで、アスタリアたちの大権が返ってきて……?」


 彼が感じた違和感はそれだ。『時間の神』などの、自分が力を分けた神の大権が戻ってきたのだ。

 アスタリアたちが無意味にそんな事をする訳ないし、何か重大なことが起きたと思ったアルケウスは『知恵の神』の力を使い、何が起きたのかを調べる。

 ――そして、原因を突き止めた。


「……アズラエル、ヴァルザードか。封印が解かれて、暴れてるのか……。あの野郎……」


「アルケウス? 怖い顔になってるわよ? 大丈夫?」


「……ルナミア。一度、俺たちの世界に戻ろう。ラインたちが危ない」


 アルケウスの頬を触り、心配するルナミアの手を取ってそう呟いた。訳が分からなかったが、息子が危ないと聞いて納得したようだ。

 空に時空を移動する穴を開け、時空の狭間に落ちないようにルナミアを抱き抱えるアルケウス。

 入ろうとした瞬間、大量の化け物が一斉に穴かr出てきたのだ。


「なっ――」


 その数は止まることなく溢れ続け、アルケウスは直ぐに穴を閉じる。そして、周りは化け物に囲まれてしまった。


 それらからは、『破壊神』の力を感じる。おそらく、アズラエルが、アルケウスたちが帰って来れないように邪魔しているのだ。


「俺を帰らせないつもりか……」


 力の全てを取り戻したアルケウスに、アズラエルは勝てない。だから少しでも邪魔をするために化け物達を送ったのだ。


「ルナミア、少しの間しがみついてて」


「うん、分かったわ」

 

 しがみつくルナミアを左手で抱え、膝を曲げる。その状態から繰り出された跳躍は地を破壊し、そして作り直す。驚異的な力で空に飛んだ男の右手からは白いエネルギーが光った。


 一瞬でそれは空高く打ち上がり、雨のように流れ、地面にいる魔物を次々と倒していく。さすがの威力にルナミアも目を見開いて驚いていた。


 ――全ての魔物を倒し終えたアルケウスは地に足をつけ、ゆっくりと顔を上げた。


 もう一度時空の穴を開けても、化け物が来て邪魔されるだろう。だから、アルケウスは四人の子供を信じることに決めた。


「そっちの世界のことは任せたよ、ライン、アレス、セツナ、レンゲ」


 と、遠く離れた世界から、激励が送られた。

 

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