第10話 『無敵vs無敵』
血描写あります。気をつけてください
襲いかかってきたルシェルに対し、アッシュの長剣が襲いかかる。しかし、先程と同様にダメージが入らない。
ラインはそんな状況を見てルシェルの無敵を攻略する方法を思いついた。
(これならアッシュも攻撃を通せるな)
「アッシュ、俺が殴ったらそれで切れ」
「え、わかった」
ラインは創世神の力で『権能』を手に入れ、ルシェルに向かって拳を振るう。
その拳は、飄々とした態度の顔を崩し、ルシェルの身体は飛んだ。
「ガアッ!?」
無敵状態が一時的に消えた所にラインの蹴りとアッシュの斬撃が襲いかかる。
ザァァン!
「ガァァ!?」
その刃に片腕が切断され、血が溢れ出る痛みで絶叫する。
もう一度長剣を振ろうとした瞬間――
「何!?」
一瞬の内に、切断された片腕が完治した。
その腕に目を取られていた矢先、アッシュは威力が上がった《破壊の衝撃》吹き飛ばされた。
「はぁ、はぁ……なんでアッシュの攻撃が僕に……」
「さっき言っただろ?《無敵》の『権能』は、相手も無敵状態なら相殺してダメージを通すことができるって。だから俺の殴りで無敵状態を解いて、アッシュの斬撃を当てるって戦法だ」
本当は《無敵》を持つグレイスを連れて来たかったが、あれほど強い魔法使いを神龍との戦闘から離れさせる訳にはない。
「まさか、そんな方法が……」
すると、後ろに吹き飛ばされたアッシュが戻ってくる。
「ライン、ルシェルの再生力は一体なんの『権能』なんだい?」
アッシュ的にはルシェルに攻撃を与えられたことよりもその再生力の方が気になるらしい。
だが、その再生力は『権能』ではない。
「ああ、そりゃだってこいつ吸血鬼だからな」
ルシェルが一瞬、ラインを睨んだ。
それは、兄妹達を神龍の方に送る少し前の事だ。
『それで、そっちの女の子は僕と戦い始めてからどうしてそんな顔してるんだい?』
『……あなた、どうして……吸血鬼と同じ匂いがするの?』
『なっ……!?』
レンゲはルシェルと戦った際、吸血鬼の「匂い」に気づいた。この匂いは、吸血鬼や他の種族はそれぞれの匂いに気づく場合が多いが、人間の中にはほぼいない。
ルシェルはかなり限定的で、匂いが殆どしない吸血鬼だった。その上、戦闘中も『権能』しか使ってなかった為、四つ子はルシェルが漂わせる吸血鬼の匂いに気づきにくくなってしまっていた。
「はぁ、信じられなかったけどやっぱレンゲは正しかったんだな」
ラインはその匂いに気づいた妹に感心した上で、ルシェルを倒す方法を考える。
「でも、吸血鬼か……倒しにくそうだね」
「これはやられたな」
現在、ライン達が戦っているのは日陰だ。そのため、吸血鬼の力が日向よりも上がっている状態になっている。
「アッシュ、吸血鬼の弱点は心臓だ。潰せば勝てる。行くぞ」
「了解」
そして再び、戦闘が始まる。ラインに攻撃されると一瞬だけルシェルの無敵状態が解除され、そこを切ってダメージを与えるという戦い方だ。
「チッ……面倒な戦い方しやがって、お前らぁぁ!」
ルシェルはそんなウザったらしい攻撃をしてくる二人に怒りをぶつける。
だが、そんなものに構わず二人は猛攻を仕掛け、何度もルシェルの手を切り落とす。
仮にも学園の生徒である彼がなぜ神龍が現れたタイミングで邪魔してきたのか、何が目的なのかも分からない。
だがしかし、早く決着を着け、結界の解除と神龍の討伐まで行わなければならない。
――まだ半信半疑だった吸血鬼という事実が完全にバレた今、ルシェルは全ての能力を出し切って全力で戦うことが出来るようになった。
「シャドウ・エクリプス!」
「またかよ……」
ラインだけが闇に包まれる。だがこの魔法を受けるのは三度目、もはや通用しない。
「よっと――」
闇から脱出したライン、その胸にルシェルの手が触れた瞬間――
「《奪取》」
ルシェルがそう呟くと、ラインの身体が黄色く光り、その光がルシェルに飲み込まれていった。
それは、ラインが自分に与えていた『権能』――《創造》、《破壊》、《真実の瞳》、さらに三分経ち、時間切れとなった《無敵》が奪われた合図だ。
――そして、それだけでは終わらなかった。
「《破壊の衝撃》」
破壊の波動がルシェルの指先から光線のように放たれる。
その光線は、ラインの――いや、吸血鬼の弱点である心臓を貫いた。
「あっ……」
「ライン!?」
ラインは地面にバタリと倒れ、その身体は段々と塵になっていく。
アッシュが驚く中で、ルシェルは淡々と続ける。
「吸血鬼の弱点の心臓……それは君も例外じゃないだろ? ライン・ファルレフィア。ファルレフィア家に生まれたのに、こんなもんか」
(……クソが)
「――」
(あ?)
ルシェルがアッシュの耳には入らない小さな声でなにかを呟いた気がした。
◆◇◆◇
グレイスにより、最高火力の炎魔法が放たれ、辺りに散らばる氷の雨が燃え尽きる。
さらに、それに続き、
「ハイドロスパイラル、フリーズニードル、サンダークラッシュ、ルミナスアロー、フレイムスパーク、ウィンドカッター」
と、水、氷、雷、光、炎、風の魔法を詠唱し、その全てを神龍に畳み掛ける。
その全てが神龍に命中し、神龍は呻き声をあげる。
それに加えて、他の生徒達も魔法を撃ち続け、それにより、神龍の回復速度は遅くなり、弱い魔法でもダメージを与えられるほど弱っていた。
「《切断》」
「エイッ!」
アレス、セツナ、レンゲも、空中で斬撃を浴びせまくる。
切り刻まれたその身体は、治ることはなく、傷だらけになっていた。
生徒達が神龍と戦っている中、魔法実習場に近づく赤髪の男がいた――
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