第96話side3『vs『悪魔』エリゴス』
ep.100です!
――【十執政】『第二位』ルシェル・バルザーグの持つ《奪取》という『権能』。それは、触れた相手の『権能』が奪えるという単純なものだ。
何十年、いや、それ以上の時間を費やし、これまで多くの『権能』を奪ってきたルシェル。その肉体は現在、悪魔に乗っ取られているが、『権能』はもちろん使用可能だ。
「――っ。ダメか」
彼に対して何度も刃を振る『剣聖』。しかし、どれも意味を成さない。《無視》のせいだ。絶対不変の無敵状態になる『権能』。
それを突破するには《無敵》の『権能』が必要だが、残念ながらここにはそれを持つ人物がいない。
――ならば、やることは簡単だ。
「おっと。俺にダメージ入らないっていうのに、攻撃続けるのか?」
「何もしないよりはマシだろうし。それに、なにか攻略法を探せるかもしれない」
全力で叩き潰す。それだけだ。幸い、この場には人類最強である『剣聖』アッシュと、『炎神』イグニスがいる。火力的には申し分ない。
殺さなくてもいいのだ。ただ、戦闘不能にさせればいい。
アッシュとイグニスが足を動かす。その瞬間、ルシェルは『権能』を発動した。
「《破壊の衝撃》」
指先から破壊のエネルギー弾が放たれ、アッシュを襲う。《超加速》と雷の『神剣』ヴィザレストを用いた超高速移動で後ろに回り込み、刃を振るう。
「《波動》」
不変の肉体で刃を受け止め、右手から青白い波動を飛ばした。すぐに後方に下がり、避けたアッシュ。
しかし、その後ろにルシェルは先回りしていたのだ。
「――っ。危ないね」
「へぇ、これを手で受けるか」
《手刀》の『権能』により、剣と同じくらいの切れ味を持つ手刀を手で受け止めたのだ。驚くルシェルをよそに、『炎神』の炎の大剣で叩き飛ばされてしまう。
「チッ、やるじゃねえか――」
「《引力の王》!」
瞬間、遠くにいたロエンにより引き寄せられてしまった。
抵抗もできず、引っ張られるだけのルシェルにヴァルクの蹴りが入る。
「《斥力の王》!」
弾く力でルシェルを壁に押し付け、圧力をかける。普通なら圧殺されているはずだが、不変の肉体にそんな事は起きない。
「『第七位』『第十位』だったお前らが、俺に勝てるわけねえだろ。《破壊の衝撃》」
再びそれが発動される。すると、腕が少し動くだけでも全身に痛みが走るようになってしまったのだ。
「動いたら痛いだろ? むやみに行動できないな。《波動》」
動かないロエンとヴァルクに向けて、青白い波動が放たれた。しかし――
「――っ。これ以上好き勝手させる訳にはいかない」
水の『神剣』アクアリアを振り、水の斬撃を喰らわせる。
何の変哲もない表情をしているアッシュだが、その全身は《破壊の衝撃》の影響で動くほど痛みが走り、所々血が出ている。
「お、『剣聖』にもダメージ入るなんて、この『権能』強いな。痛いのに無理しやがって。お前も父親と同じようになりたいの――」
――刹那、ルシェルの全身が氷の『神剣』フロストリアにより凍らされてしまう。
「《空間操作》」
さらに、異空間の武器庫から炎の『神剣』アグナシス、雷の『神剣』ヴィザレスト、風の『神剣』エアリアを出し、ルシェルに斬撃を与える。
無論、ダメージを喰らうわけがない。はずだった。
「っ!? なんで……」
「おっ、やっぱり喰らうじゃねえか。ま、当たり前か」
横から割り込んだ『炎神』に炎を込めた打撃を顔面に喰らってしまった。《無視》を発動しているはずだ。それなのに、ダメージを受けてしまった。
その一撃で怯んだルシェル。そんな彼に一気にアッシュが接近した。
五つの『神剣』からそれぞれの属性の斬撃を放ち、ルシェルの身体を切り刻んだ。
「あっ……なんでだ……なんで俺に攻撃が……。――まさか」
地面に倒れ、どうしてダメージを受けたのか思考を巡らせる。すると、ある一つの理由が頭に入ってきた。それは、ルシェルの肉体の記憶だ。
以前、学園でルシェルがラインとアッシュと戦った時のこと。今と同じように《無視》の『権能』を使っていたが、防御を破られたことがあった。
それは――
「『創世神』の力か? でも、なんでお前がそれを……」
「お前に教えるわけねえだろバカが。潔く消えろ」
『炎神』の力は元々『創世神』アルケウスが持っていたもの。その中から切り離された炎を操る大権がイグニスに渡ったのだ。
元は同じ『創世神』の力。そのため、『創世神』の力があれば破れる『権能』をイグニスは破れたのだ。
「どう突破したか理由は知らねえけど、ここを通す訳にはいかねえな。『魔王』様に顔向け出来ねえ」
「あんな奴復活する前に石像ごとぶっ壊してやるよ」
「『魔王』様を侮辱するな!」
今までの口調からかけ離れ、大声を出した。イグニスたちがポカンとしていると、ルシェルの肉体から悪魔のエネルギーが溢れ出る。すると、空中に飛び上がり、叫び始めた。
「俺は『悪魔』エリゴスだぞ! お前ら人間とは格が違うんだ!」
「俺は『炎神』だけどな」
「お前らに出来ないことはなんでも出来る! 圧倒的な身体能力に、契約も、なんでも出来るんだぞ!」
「だからなんなんだよ」
「お前ら程度、『魔王』様に辿り着く前にぶっ殺してやる!」
「お前が? バカなのか? 出来るわけねえだろ」
「うるせえんだよお前!!」
自分がいかに凄い存在だということを豪語するルシェル――否、『悪魔』エリゴス。しかし、彼を見下した返答が何度も『炎神』から飛ばされる。
怒り狂ったエリゴスは悪魔の力を全身から放出し、迫った。
しかし――
「「「熱っ」」」
ロエン、ヴァルク、アッシュは同時にそう呟く。空間全てを覆い尽くす炎が洗われ、周りの温度が急上昇し始めたのだ。
「悪いけど、俺らはお前と遊んでる暇ねえんだ。お前らがバカみたいに敬ってる『魔王』と『破壊神』をぶっ飛ばしに行かねえといけねえからな」
「ここで、負ける訳には……」
「じゃあな」
――そして、【十執政】『第二位』ルシェル・バルザーグの肉体は燃え尽きた。
「よし。出ていくぞ。あれ、お前らどうした?」
「あなたの炎が熱すぎたんですよ! なんとか『剣聖』が氷と水の『神剣』で食い止めてくれたので焼死しませんでしたが……」
少し燃えてしまった黒色のロングコートを触り、ロエンが呟く。
「ああそう。ま、生きてんだから良いだろ」
「本当にあれで倒し終わったのかな? 前に僕が倒したはずなのに、ルシェルの身体に入ってたようだし」
前にアッシュの父親のエルンに憑依していた『悪魔』エリゴス。一度倒したはずだったが、ルシェルの肉体で生きていた。もしかすると、まだ戦いは終わっていないのかもしれない。
そんな不安がアッシュの心に残る。
「まあ心配でしょうが、進みますよ」
部屋の扉をゆっくり開き、外に出る。すると、真っ暗な空間に大量の化け物がいたのだ。
「これはまためんどくさいね」
「進むしかねえだろ。一気に燃やして行くぞ」
レンゲへの道を切り開く。そのために、イグニスとアッシュは目の前に広がる大量の化け物を一掃しようと構えた。
――しかし、彼らの後ろに立つロエンとヴァルク。二人は血の気が引いたように真っ青な顔になり、目の前の化け物を見つめていた。
◆◇◆◇
燃え尽きた『第二位』ルシェル・バルザーグの肉体。それは、吸血鬼だ。人間よりも、エルフよりも圧倒的な生命力を持つ。しかし、イグニスの攻撃によってもう再生が追いつかない。このままなら、死んでしまう。
「――っ。《複製》」
――そう呟いた。それと同時に、ルシェル・バルザーグの肉体は尽きた――
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