第87話 ギャンブル
「よし! では……ザコッグさん、キラさん、ヘルダーさん……ここから見ることは、他言無用でお願いしますね」
「わ、わかりました……」「ああ、わかった」「はい」
「う、先輩……まさか……!」
僕は右手に力を込め、【活性】のスキルを使おうとする。
だが事情を知るウィンディがそれを許さない。
「だ、ダメっスよ! そんなことしたら、今度こそ先輩、死んじゃいますよ!」
「大丈夫だよウィンディ。僕は死なない」
「大丈夫なわけないっス! 幻の万能薬を作ろうとして、ぶっ倒れたのを忘れたっスか!?」
「幻の万能薬だって……!?」
「何が何だかわからないな……」
事情を知らない、ザコッグさん一同が驚く。
「僕のスキル、活性は非常に強力なのですが……。その代わり、身体への負担が大きいんです。だからウィンディは心配してくれているんですよ」
「そんなスキルが……。でも、幻の万能薬だなんて……」
僕は倒れていたから、実際幻の万能薬がどんなものなのかは見ていない。
あのあと、ガイアックのせいでいろいろ忙しかったしね……。
たしかに、活性をまた使って、幻の万能薬を再現しようだなんて、正気の沙汰じゃないことは僕だって承知の上だ。
今度こそ本当に、死ぬかもしれない。失敗したら、どうなるかわからない。
だけど僕には秘策があった。
「大丈夫だよウィンディ。僕も馬鹿じゃない。前と同じ方法で上手くいくなんて思っていないさ。任せてよ」
僕はウィンディの頭に手をやる。
「うう……。またそうやって誤魔化すっス……。すけこまし……」
「でも、どうやってやるんです?」
ザコッグさんが興味深そうにきいてくる。
「ちょっと、乱暴な方法かもしれないんですが……。思いついちゃったんです。だから、試さないと」
「乱暴な方法スかぁ……思いついちゃったっスかぁ……。なら仕方ないっスね……」
ウィンディがあきれ顔をする。
「よし、いくよ」
僕は自分の装備している【黒龍のペンダント】に手をかける。
装備はしたまま、手で軽く触れるだけだ。
「先輩……まさか!? とんでもないことを思いつきまスね……」
●黒龍のペンダント
装備したものの潜在能力を最大限引き出す。
具体的には、スキルの進化や制限の解除など。
本来そのものがもつ力をすべて解放する。
黒龍のペンダント――そういう効果を持った、特別なレア装備だ。
僕はこれに、【活性】をかける!
「!?」
活性の効果は一時的なものだけど、これをなににかけるかで、かなり効率が変わってくる。
前は徹夜ポーションにかけたりして、自分の体力とかを強化したけど……。
これは逆転の発想、というか……正直、思いついた自分が恐ろしい。
試してみてどうなるかわからないけど、上手くいけば、さらにとんでもないことになるぞ……!
――【活性】!!!!
すると【黒龍のペンダント】は活性化され、【黒龍のペンダント+】に変化した。
これで、ペンダントの効果がさらに進化したはずだ。
理論上、ポーションなどの活性化ができるのなら、ペンダント自体の活性化もできるはずだ。
ちょっとずるみたいな感じもするけどね。
さっそく鑑定で見てみよう。
●黒龍のペンダント+
装備したものの未来永劫における、全潜在能力を最大限引き出し、活用できるようにする。
具体的には、スキルの進化や制限の解除など。
それと、将来的に可能になることのすべてを前借することができる。
本来そのものがもつ力をすべて解放する。
ただし、このペンダントは時間経過により破壊され、二度と使用は不可能となる。
「なんだって……!?」
「どうしたんスか、先輩!?」
僕の予想通り、めちゃくちゃ強力な装備品になったのだけど……。
正直、最後の文言は予想していなかった。
そりゃそうだ、こんな強力なペンダント、ずっと効果が使えたら、さすがに強力すぎるもんね……。なにか制限がないほうがおかしいか……。
でも、それ以上にこの効果……。そっちのほうが驚きだ……。いったいどこまでできるのだろう……。
「こうしちゃいられない。ただでさえ時間に余裕はないんだ! 幻の万能薬の製造にとりかかろう!」
「はい! 上級回復ポーションを持ってきたっス!」
「ありがとう!」
僕はさっそく、ペンダントの効能を確認するべく、回復ポーションに活性化をかける。
――【活性】!!!!
すると【上級回復ポーション】は以前のように……【上級回復ポーション+】ではなく――。
――【幻の万能薬+SSS】になった……!?
「ちょ! これ、どういうこと!?!?」
ペンダントの力で、僕の可能性が最大限まで引き出されてるとはいえ……わけがわからない。
黒龍のペンダント+の説明に書いてあった――装備したものの未来永劫における、全潜在能力を最大限引き出し、活用できるようにする――というのは……こういうことなのか!?
将来的に可能になることのすべてを前借することができる――というのも……気になる。どういうことだ?
僕は将来、【活性】のスキルだけで【上級回復ポーション】を【幻の万能薬+SSS】に変えてしまえるほどの、反則級の化物になるということなんだろうか!?
「先輩、すごいっス! きっとペンダントの力で、先輩の才能が限界まで引き出された結果っスよ!」
「えぇ……そうはいっても……コレ、行き過ぎじゃない!? なにかの間違いでしょ……もう……」
「そんなことないですよヒナタさん! ヒナタさんなら、いずれペンダントの力なしでも、このくらい、できるようになりますって!」
僕はみんなの中でいったい、どれほどの化物だと思われてるのだろうか……。心外だ。
いくらなんでも……そんなことないよな……? だって、僕にそんな才能が!?
「先輩、身体に異常はないっスか?」
「うん、いまのところ、副作用はないみたいだ。だからますます奇妙だよ……」
将来的に僕は、ノーコストで【活性】を使用できるということだろうか?
どんな化物だそれ……。
「とにかく、理由はともあれ、支度は整ったんだ。さっさとガイディーンさんを治してしまおう」
「そうですね、キラさん。時間がないんでした……」
僕たちは、さっそく【幻の万能薬+SSS】――といっても、なんだコレ……こんなアイテム、聞いたこともないぞ……ただの幻の万能薬でさえ、伝説級の代物なのにさ――を、恐る恐る使用してみる。
ポーションというのは、一つの瓶に収められている分量で、きっちり一回分。
だから、試したりすることはできないし、研究用に後でとっておくこともできない。
ぜんぶをガイディーンさんに使用する。
――しゅううううううううううううううううううううううう。
ガイディーンさんの身体が、緑のやわらかい光に包まれる。
「う、うぅ……」
「意識が……!」
そういえば……【幻の万能薬+SSS】の効能って、どれほどのものなんだろう……。
通常の幻の万能薬でさえ、神話級にぶっ飛んだ高性能だというのに……。
それの強化版ということは……? いったいどうなってしまうんだ?
◆
ヒナタの破天荒な思い付きで、事態はとんでもないことに……!
これから、一体どうなってしまうのだろうか……!?
ようやく目覚めたガイディーンの行く末は……!
500万pv達成ありがとうございました!




