第86話 リカバリー
「ガイディーンさん!」
僕はガイアックの家に勢いよく上がり込む。
はやくガイディーンさんを助けたい。
「ヒナタさん……本当にやるんですか……?」
「俺も、気乗りしないな……」
「そうですよ! 自分も、ガイアックのことはいまだに……!」
ザコッグさんとキラさんヘルダーさんが怪訝な顔で僕を見やる。
僕は医師免許がないから、三人にも同行してもらった。ヘルダーさんは助手として。
もちろんウィンディも一緒だ。彼女も助手としてついて来てもらった。
ガイディーンさんの病状はかなり悪いと聞いていたからね……。
念には念を入れて、万全を期したい。
「ザコッグさんにとってもキラさんにとっても、ヘルダーさんにとっても……ガイアックのことは許せないでしょうね……。でも、それじゃあどうしろというんです? ガイディーンさんを見殺しにするんですか? そんなこと、僕にはできません。手の届く範囲は、手を差し伸べるって、そう決めたんです」
「ヒナタさん……。ガイアックにさえ手を差し伸べるなんて……」
「僕はガイアックの頼みがあったから、ここに来たんじゃありません。自分の意思で、ガイディーンさんを救いたくて、救うんです」
「ヒナタさん。そうですね! 俺もそうヒナタさんを見習って、そう思うことにします!」
よかった、ザコッグさんたちも納得できたみたいだね。
これで心置きなく、手術に移れる。
邪魔になるといけないから、ガイアックには家の外で待機してもらっている。
もしもの場合にも……備えてね……。
ガイアックも気が気じゃないだろうけど、そこは我慢してもらわなきゃね。
「でも……なんで医術ギルドの処置で、回復しなかったんでしょうねぇ……?」
「それは、調べてみないとわからないですね……」
僕はさっそく万能鑑定でガイディーンさんを診察する。
●ガイディーン・シルバ
54歳
体調:不良
職業:医師
病状詳細――■■■不明■■■
「これは……!?」
「どうしたんです、ヒナタさん!?」
僕はこの病状に、見覚えがある。
そう、ないはずがないんだ……。
「――僕の妹と、おんなじ病気だ……」
「ええ!?」
ガイアックは、加齢とストレスによるものだと思ってたみたいだけど……。
これはどう考えても、それだけじゃない。加齢とストレスだけで、ここまで体調は悪化しないはずだ。
困ったな……ヒナギクはまだ若くて元気だったから、かなり時間的猶予があったけど……。
ガイディーンさんの場合は、思ったより進行が早い。
これは、参った……。年齢が高いことと、度重なるストレスが、病気の進行にさらに拍車をかけているんだね……。
「医術ギルドの連中は……診断を見誤ったってことか?」
「そうなりますね。でも仕方ない。僕の知る限りでも、今のところ妹以外にこの病気になった人を知らないし……。未知の病気なんだ。まだ病名もない、ね。それを誤診するなんて、あたりまえですよ」
「たしか……ヒナタさんの妹さんって……ヒナタさんのおかげで治ったんですよね? どうやったんですか? その時のようにすれば、ガイディーンさんもきっとよくなるはず!」
「う……残念ですがザコッグさん……。その方法は……もう、使えないんです」
「ええ!? そりゃまたどうして!」
「詳しくは話せないないんだけど……。それには僕のスキルも関係していて……。とにかく! 八方ふさがりですよ……」
「そんな……もう時間がないのに……」
正直、僕も自分を過信していた気はする。
たくさんのことを成し遂げて、自信はついてきた。
でも、決して慢心してはいけないんだ。僕らは……。
「なんとかしてみます……!」
「何とかって……!? 手の打ちようがないんじゃないんですか!?」
「ええ。正気の沙汰ならそうでしょうね……。ですが、ぶっ飛んだ方法なら、まだ手はありますよ」
「ヒナタさん……! なにもそこまでやる必要は……!?」
「何を言ってるんですかザコッグさん。僕たちは、人を救う立場にあるんです。患者さんがいれば、それが誰であろうと、目の前の人に全力を尽くす。それがたとえ……不可能な状況にあってもね!」
「っく……ヒナタさん! 俺、感動しました! なんでもします! なんでも言ってください!」
「ザコッグさん……! はい! がんばりましょう!」
僕は、なんとしても救わなくちゃいけないんだ!
ヒナギクと同じ病気で苦しむ人を、この世からなくすんだ!
「先輩……まさか……とんでもないことを考えてるんじゃないっスか?」
「大丈夫だよウィンディ。心配しないで、無理はしないから」
「うう……心配しかないっス……」
「それに――秘策があるんだ」
◆
ヒナギクを救うときはあれほど消耗したヒナタ……。
そんな危険な方法は、二度と使わないと誓ったはずだ。
いったいガイディーンをどう救おうというのだろうか……!?




