第78話 お買い物
僕たちは買い物をするために、市場までやってきたよ。
市場にはいろいろな物品が並び、年中日夜、取引がさかんに行われている。
「うぁ……すっごい人なの……」
ヒナギクは目を丸くして驚いている。キョロキョロ人の顔をみて歩く。
ヒナギクがこんな人ごみにくるのは何年振りだろうか。まだ元気だったころは、こうしてよく手を繋いで散歩に出かけたものだ。
僕の右手にはヒナギクの小さいおてて、左手にはヒナドリちゃんの柔らかいおててが握られているよ。なんだか照れくさいけど、はぐれないようにしっかりと繋がないとね!
両手に花だ。
「ふたりとも、欲しいものがあったら、すぐに言うんだよ!」
僕は言う。
「わかったなのー!」「こんなにたくさんあると、迷ってしまいますわね……」
2人のかわいい女の子と手を繋いでいるものだから、かなり注目されてしまう。
我が妹ながら、ヒナギクはかなり可愛い。ライラさんが最強の美人なら、ヒナギクは可愛さ部門第一位だ!
ヒナドリちゃんもそんなヒナギクにそっくりだから、当然可愛い。
「おいおい、あの男……なんだってあんな……」
「うらやましいぜ……」
道行く人が、そんな声を上げる。まあもし僕が同じような状況に遭遇しても、同じようなことを思うだろう。
僕は歩きながら、しばしの間優越感に浸った。
「あ! これ、キレイなのー!」
「どれどれ……?」
ヒナギクがお気に召したのは、複雑な刺繍が施された外国製の一枚布だ。
たしかに、こんな細かい模様の布はなかなか見たことがないね。
「よし、じゃあこれをください」
「まいど!」
僕はすぐさまそれを買う。ここではいち早く声をあげないと、すぐに売り切れてしまうからね。
「帰ったらこの布で、いろいろ作ってあげますの」
ヒナドリちゃんが自慢げにヒナギクに言う。
ヒナドリちゃんは裁縫も得意で、よく服なんかも自作しているんだ。
「わーい! ありがとうなのー兄さん、ヒナドリちゃん!」
ヒナドリちゃんには料理のレシピ本を買ったよ。
そんなのでいいのかって聞くと、ヒナドリちゃんはうれしそうにこれがいいと答えた。
ヒナドリちゃんは料理をすること自体が好きなんだそうだ。
そんな感じで、僕たちはお買い物を楽しんだ!
◇
だが僕たちが買い物を終え、帰りの道へと歩いていると……。
見るからにガラの悪そうな男たちが声をかけてきた。
「やあお嬢ちゃんたち、俺たちと遊んでいかないか? そんな優男なんてほっといてさ」
この手の輩にはうんざりするね。まったく、仕方のない連中だ。
「うう……兄さん、こわいの……」
「なんなんですの、この山猿は……。バカそうなのに声をかけられましたわ……」
2人が怖がるから、やめてほしいんだけどなぁ……。
「ふたりとも、僕の後ろに下がって!」
僕は男たちのまえに、たちはだかる。
「おいおい、このもやしっ子、俺たちとやる気だぜ? 身の程知らずもいい加減にしろよ?」
いい加減にしてもらいたいのはこっちなんだけどなぁ。
せっかくの楽しい一日を邪魔されたんじゃ、たまったもんじゃない。
ここはびしっと言ってやろう。僕にだって、そういうときはある。
「僕の妹たちに汚い言葉で迫らないでください。耳が汚れてしまいます」
「はぁ? なに言っちゃってんのコイツ? おい! ぼこぼこにしてやれ」
どうやら暴力に訴える気らしいね。
衛兵に通報してもいいけれど、そんな暇はなさそうだ。
僕は妹たちを守ると決めたからね、こんな奴らに後れをとるわけにはいかない。
僕が自力で、まもるんだ!
――活性!
僕は自分の右腕にこっそり活性をかける。
部位を制限すれば、体力的な負担も少ない。
「ごちゃごちゃうるせえよ!」
男の一人が僕に殴りかかってくる。
だが僕はそれを、右手の人差し指だけで受け止める。
「な……なんだこいつ……!」
活性で筋力を上げた僕からすれば、こんなヤツのこぶしは赤子のように軽い。
「まだなにか用がありますか? これ以上、僕たちの休日を邪魔するというなら……僕もさすがに考えがありますが……?」
僕は頑張ってドスの効いた低い声を出してみる。似合わないけどね。
でも妹たちを守るため、精一杯相手を威嚇する。
「……っひ!?」
どうやら効いたようだね。男たちはさっきとは打って変わって、恐怖に顔を歪ませている。
「に、逃げろ……! 殺されちまう!」
男たちはそう言って、足早に去っていった。
いや殺さないけどね……。物騒な発想の持ち主だなぁ……。
「兄さん、ありがとうなのー」
「大丈夫だよ。怖い思いをさせてごめんね」
僕はいつものようにヒナギクの頭に手を置く。
あ! なんだか背が伸びた気がするね。
元気になって、栄養状態もよくなったからかな?
これからもっともっと元気になるといいなぁ。
そして成長を見守りたい。そのためにも、僕がこれからも守るんだ!
「お兄様、たくましいですわ! さすがです!」
ヒナドリちゃんもうれしそうに僕にくっついてくる。
「これからも僕がふたりを守るからね。安心してね」
帰りも仲良く手を繋いで帰った。
夕飯はもちろんヒナドリちゃんの料理!
毎日こんな愛情たっぷりの手料理が食べられて、僕は幸せだな……。
◆
久しぶりの平凡な日常に、幸せをかみしめるヒナタ。
だが一方でガイアックは人生の中で、最も苦しいであろう時期に差し掛かっていた……。
対極的な二人の状況に、これからどんな事が待ち受けるのか……!




