第72話 倍プッシュ
どうやらこのスキルには、限界というものがないらしい。
下級回復ポーションを無条件で上級回復ポーションに変えてしまった……。
問題があるとすれば、僕の体力が著しく削られるということくらいで……。
そのほかに必要な条件や素材などはない。
知らぬ間に寿命が縮まってるとかだったら嫌だけどさ……。まあそれはさすがにないと思いたい。
「先輩、今日はもう帰って休んでください。それから、この能力はもう使わない方がいいっスよ……! なにがあるかわからないんですし……」
ウィンディはいつになく真剣な顔つきで、僕に訴える。
「そうだね。……と言いたいところなんだけど……」
「え……?」
「僕はまだ先に進まなくちゃいけない!」
「ど、どうして!?」
だって、このスキルが本当にチートなら――。
上級回復ポーションにだって作用するはずだ。
上級回復ポーションを活性化させ、さらにその上――。
そしてさらに上へと、繰り返していけば……。
いずれは幻の万能薬へとたどり着くかもしれない……!
「これは妹のためでもあるんだ……! 僕はたどり着かなきゃいけないんだ……その場所へ!」
「そんな! 無茶っスよ! 先輩の身体が持ちません!」
「僕なら平気だよ……! このくらい、なんてことないんだ! 妹が苦しんできたのに比べれば……!」
僕はウィンディの制止を振り切って、再び調合台へポーションを置く。
――先輩!
遠くでウィンディの声が聞こえる気がするけど……。
もはや意識が朦朧としていてあまりわからない……。
上級回復ポーションを活性化させる。
――活性!
すると上級回復ポーションは【上級回復ポーション+】になった。
「すごい……! 本当に無尽蔵じゃないっスか……!」
ウィンディの反応は、驚きよりも畏怖のほうが勝っているように感じた。
僕も怖いよ……。でも進まなくちゃ!
「……あ……っ!」
僕は思わず机に倒れかける。
危ない危ない。ここで倒れたら、ポーションの瓶を割ってしまうところだった。
「先輩……! もうムリっス! 休んでください!」
「ダメだ……! ウィンディ! 徹夜ポーションを持ってきてくれ!」
「そ、そこまでして……!? ほ、本気なんスね……。わ、わかりましたっス!」
僕は休んじゃいけないんだ……!
活性化で進化させたアイテムは、きっと時間が経てば元に戻ってしまう。
それはスキルの説明で見たときからも明らかだし……。
元となったスキル――素材活性だってその制約があった。
それに、時間で元に戻ってくれないと、リリーさんはあのままってことになっちゃうしね……。それはちょっと困る……。
だから、この【上級回復ポーション+】を無駄にしないためにも、ここで進化させきる必要があるんだ!
きっと僕の体力的にも、そう何度もトライできるようなものじゃない。
ここでいったんやめて、次にもう一回ともなれば、それこそ倒れてしまう。
「そうだ……!」
僕はここで妙な思い付きをしてしまう。
そして思いついたらそれを試さないではいられないっ!
「先輩! 徹夜ポーション持ってきたっス!」
「ありがとう!」
「……って先輩、なにをやってるんスか!? 飲まないんスか?」
「うん……!」
僕は受け取った徹夜ポーションを、飲まずにその場に置いた。
僕の身体が問題なのであれば……回復ポーションを活性化させる前に、こうすればいいんだっ!
――活性!
すると【徹夜ポーション】が【徹夜ポーション+】に変わる。
鑑定の説明によると、通常の徹夜ポーションよりも体力増強効果などが優れているそうだ。
「すごい発想っス……! まさか徹夜ポーションを活性化させるなんて!」
「まだだ! あと一回くらいならなんとか……!」
「だ、ダメっスよ! 死んじゃうっス! はやくそれを飲んでください!」
「いや、まだいける! うおおおおおおおおおお!」
――活性!
僕は自分の途切れそうな意識などかまわず、ブーストをかける!
こんどは【徹夜ポーション+】から【不眠ポーションEX】に変化した!
これは初めて見るポーションだね……!
どれどれ……効果は……。すごい!
徹夜ポーションの何倍もの効果がありそうだね……。魔力の増強も見込めそうだ。
喜んだのもつかの間、僕はおもわずふらっとしてしまう。もう自力で飲めそうにもない。
「先輩!? はやく飲んでください……!」
そんな僕を支えながら、ウィンディが代わりに飲ませてくれようとする。
ウィンディは自分の口にポーションを含み、それを僕に口移しする……。
……って、ちょっとちょっと! そんなことしていいの!?
いくらなんでも僕に尽くし過ぎだと思う……。本当に優しい助手だ。
「う……ぐびぐび……ありがとう」
でも、これでなんとか生き返ったよ……。感謝だね。
「よかった……まだ大丈夫そうっスね……それにしても……とっさにとんでもないことをしてしまったっス……うぅ……」
「ありがとうウィンディ、助かったよ……。さっきの口移しのことなら僕は気にしてないから大丈夫だよ」
「こっちが気にするっスよぅ! まったく……これだから先輩は……すけこまし……」
「?」
まあとりあえずなんとかなったようだね。
でも僕の作戦はここからだ。
僕は自分の身体に手をかざす。
「な!? せ、先輩! ま、まさか……!」
「そう。そのまさかだよ。僕は僕を拡張する」
「そんなこと……! できるんスか!? これ以上の実験は危険っスよ!」
「いや、もう後には引けない。やるしかないんだ!」
僕は自分に向けてスキルを放つ――。
――活性!
「うわあああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
「先輩!? 大丈夫っスかあああ!?」
くそ……! 立っていられない……!
頭が爆発しそうだ。でも、ここで倒れる訳にはいかない! なにがなんでも!
――しゅうううううううううう……。
僕を包んでいた光と煙が消え失せ、思考が徐々にスッキリとしてくる。
あれ? なんだ? 世界が違って見える。
「ど、どうなったんスか……、先輩……?」
「ああ。成功だよ、ウィンディ」
「な、なんだか以前より頼もしく見えるっス……」
たしかに、何もかもがスッキリしている。思考も視界も非常にクリアだ。
活性によって自分の生命力が活性化されたからかな……。
リリーさんを活性化させたときは感情を活性化させてしまったみたいだけど……。
今回は意識的に自分の精神や生命力を活性化させようとしてみたよ。
だから手も心臓の位置に置いたんだ。それでみごと成功したってわけだね。
「それにしても……超人になった気分だよ。すごい」
「い、今の先輩は生命個体として強すぎて、少し怖いっス……。でも、ぜんぶ妹さんの為っスもんね……!」
「ああそうだ。急いでポーションを作ってしまおう……!」
僕は先ほどの【上級回復ポーション+】を再び手に取る。
これを今の体力でできるだけ、幻の万能薬に近づけるんだ……!
《新連載をはじめました!》
ハイファンの追放ものと異世界恋愛を混ぜたような作品です!
エルフ美少女が国をつくったりチートで暴れたりします!
【連載版】老害扱いされ隠居した不老不死の大賢者であるエルフ美少女は田舎でスローライフを送りたい~私をBBA呼ばわりして婚約破棄した若い王子がいたらしいけどもう忘れました~世界の秩序が大変?知るかボケ。
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