表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化決定!】薬師ヒナタは癒したい~ブラック医術ギルドを追放されたポーション師は商業ギルドで才能を開花させる~  作者: みんと
第三章 王国・首都 編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

109/130

第107話 医療の現場


困った……。

非常に困った……。


先日僕に言いがかりをつけてきた先輩(留年してるから、同学年だけど)。

ガナッシュ・ルーベラが同じ授業にいるのだ。


「うぐぐぐぐぐぐぐぐ……」


なんだか後ろのほうから唸り声が聞こえる。

僕が振り向くと、教室後方でガナッシュ・ルーベラが僕を睨みつけている。

あーあ……変なのに目を付けられちゃったなぁ……。


「さぁ、今日は実習の授業です。チームにわかれて座るように」


まさか……。

いや、そのまさかが起こってしまった。

なんと僕はあのガナッシュ・ルーベラと同じチームにされてしまったのだった。


「おう、せいぜいよろしくな」


「は、はい……」


絶対この人、なにか企んでいるよ……。

僕は生きた心地がしなかった。





「今日の実習では、実際に患者さんを相手にしてもらいます。もちろん我々教師が監督しますので、大丈夫です。ですが、くれぐれも失敗のないように!」


僕たちは大学付属のクリニックに移動する。

今日もたくさんの患者さんが待っていた。


「では、チームごとに患者さんを診ていってあげてください」


もちろん、重病や急病患者は含まれない。

今回僕たちが相手にするのは、あくまでも軽症の患者さんのみだ。

だからまあ、僕にとっては簡単な実習と言える。

でも、決して手を抜くことはできない。

実際の患者さんを相手にするわけだから、油断は禁物だ。


「では、次のかた、どうぞ」


僕たちのチームは首尾よく仕事をすすめていた。

幸い、ガナッシュ・ルーベラもおとなしい。

やはり、実際の患者さん相手だから、彼もまじめにやらざるを得ないのだろう。

先生からも、特に指導が入らずに、うまくいっていた。


「ガナッシュ・ルーベラくん、君はあまり診察に参加していませんね?」


だが突如、監督の先生がガナッシュ・ルーベラの仕事ぶりに目をつけた。


「う……」


たしかに、僕のチームの中では彼は少し浮いていた。

もともと人付き合いが苦手なのか、チームワークに入っていけてない感じだ。

僕もなんとかしてあげたいけど、正直彼とは気まずい。

他の生徒も、彼の悪名を知っているからか、どこかそっけない。


「ガナッシュ・ルーベラくん、次の患者さんには君一人で対応しなさい」


「う……は、はい……」


まあ、これは生徒に経験を積ませるための実習だから、先生の対応もわかる。

でも、ガナッシュ・ルーベラ一人に患者さんを任せるなんて……。

正直彼では力不足な気がする……。

何事もないといいけれど。


「では、次の方」


次にやってきた患者さんは……。

僕はすぐに病状がわかったけど……。

ガナッシュ・ルーベラにはちょっと難しいかもしれないね。

そして思った通りに……。


「う……、えーっと、そのーえっと……」


見ていてつらいよ……。

彼もわからないならわからないと先生に言えばいいのに……。

でもまあ、それが言えないからこうして留年しているんだろうね……。

僕も助けてあげたいけど、先生の目があるしなぁ。


「グレイン先生、少しいいですか……?」


「はい、みなさん……ちょっとのあいだ自分たちでやっといてください」


すると監督の先生が、他の先生に呼ばれて席を外した。

すぐに戻ってくるだろうけど、これはチャンスだ。

僕はガナッシュ・ルーベラに近づき、耳打ちした。


「この患者さんには、こうするんだ……」


短い間だったが、僕はガナッシュ・ルーベラが困っていた部分を助言した。

先生はすぐに戻ってきた。

でも、僕の助言もあってか、ガナッシュ・ルーベラはすぐに患者さんを診終えたようだ。


「おお、ガナッシュ・ルーベラくん。やればできるではないですか!」


「あ、ありがとうございます……」


なんだか自信がなさそうだけど、ガナッシュ・ルーベラは先生に褒められてすこし嬉しそうだ。

僕もほっと胸を撫でおろす。





実習の授業が終わり……。

僕が家に帰ろうとしていると、


「おい、ヒナタ・ラリアーク……」


ガナッシュ・ルーベラが僕に話しかけてきた。

なんの用だろう……。

さっきはいらないことをしやがって、とかって言いがかりをつけられるのかな?

もう面倒はごめんなんだけどなぁ。


「その……さっきは、ありがとう……な」


「え……?」


「さっき、俺に助言をくれただろう? お前がいなかったら、正直、先生に怒られてた……」


「なんだ、そんなことか……、それなら礼はいらないよ」


だって、あれはガナッシュ・ルーベラのために言ったわけじゃないしね。

まあ、正直に見てられなかったっていうのもあるけど……。

いちおう、チームだったわけだし、助けるのは当たり前だ。


「なぁ、お前……俺はお前にあんなひどいことをした。それなのに、なぜ助けた?」


まったく……おかしなことを訊いてくるなぁ……。


「だって、医療の現場で、そんなこと言ってられないだろ?」


「え?」


「僕たちは実際に患者さんを相手にするんだ。それなのに、私情を挟んで仲間割れなんかしていたらどうなる? 僕たちはなによりも、患者さんを優先しなきゃならないんだよ」


「な、なるほどな……。まったく、お前には敵わねえな……」


何を当たり前のことをいってるんだろう?

やっぱり、留年するべくして留年してるのかもな、この人は……。


「あらためて、ありがとな。あと、すまなかった……」


ガナッシュは、そう言って教室を出ていった。


なんだか、臆病者で愚かだけど、悪い人ではない……のかも?

少なくとも、ガイアックのような奴とは別のようだ……。


王都には、いろんな人がいるなぁ……。

そう思う僕だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] >まあ、これは生徒に経験を積ませるための実習だから、先生の対応もわかる。 でも、ガナッシュ・ルーベラ一人に患者さんを任せるなんて……。 正直彼では力不足な気がする……。 何事もないとい…
2021/09/06 01:57 赤のカポーテ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ