90 会長(?)とエ◯ゲめし
ゲーム研究会の自作ゲームをする事になった僕達。
部長はPCに向かってカタカタと準備しながら、
「君達がここに来た時の私達の反応を覚えているかい? あの時丁度、君達の話をしていたんだ。注目している、とね。いや、それは我々だけに限らないだろうが」
「ふーん。注目ポイントは?」
「その人ならざる空気、植物や動物と心を通わせられる奇跡……いや、神秘、か。兎に角多過ぎて絞れない、と言っておこう。逆に、君は自身という人物を一言で表せるかい?」
「完全無欠のイケメン」
「流石だねっ」
「よくもまぁ恥ずかし気もなく……」
「ふっ、そういうカヌレ会長も、この学園祭で堂々とデートする胆力……常識では測れないね。いや、嫌味とかじゃないよ、ホントに」
「え? あー、私は……」
「その子はカヌレの妹のわらびちゃんだよ。今は妹の方とデートなんだ」
「なんと! 双子姉妹ヒロインだって!? エロゲじゃないか!」
「考えなかった言えば嘘になる」
「どんな会話ですかっ」
ホントはもう一人いるからトリプルヒロインだけど。
「全く……事実は小説より奇なり。そんな現実を見せられたら、これからプレイして貰うゲームの内容が霞むじゃあないか」
「いーからいーから。辛口レビューしてやんよ」
「ああ、忌憚のない意見を頼むよ。はいマウス」
「因みに全年齢?」
「残念ながら」
「じゃなかったら即展示停止ですよ……」
起動するゲーム。
タイトル画面は……無く、突然始まるストーリー。
ああ、あるよね、タイトルが出るのはプロローグの後からみたいな演出。
カチカチ カチカチ
部室に響くクリック音。
ふむ……思った以上にしっかりしてるな。
キャラデザ、フリーでは無さそうなBGM、 UI……どれもまともな製品版と遜色ない。
「今のところは普通の学園ものなプロローグだね。この先幾らでも展開を動かせるという『タメ』の状態ではある。この幼馴染みヒロインが事故で昏睡状態になったり、この妹ヒロインと演劇したり、この先輩ヒロインからギターを教えて貰ったりと話を動かし放題だ」
「残念ながらそんな『名作エロゲ』と同じような展開は待ってないよ」
「ふぅん。別に日常ものを否定するわけじゃないけど、学園祭で公開したからには、インパクトのあるコンセプトが欲しいな?」
「うむ、一応学園祭というノリには合わせたよ。実はこのゲーム、登場人物のモデルがここの生徒なんだ」
「ほぉん、学生だけに分かるその内輪ネタは悪くないね。……ふむ。よく見ればこの先輩キャラデザ、部長に似てるね?」
「ばれたかい?」
肯定する部長。
その時、「お待たせしました」と助手君が料理を運んで来た。
ふむ……
綺麗な焼き目と具がしっかり挟まれたホットサンド、
トロトロオムライスにはトロリとしたデミグラス&揚げたてコロッケを添えて、
『こういうのでいいんだよ』的なおにぎり唐揚げ卵焼きセット。
あの短時間でこれだけのモノを仕上げる手際の良さ……出来た助手である。
「ささっ、二人とも、いただいてくれ」
「うぃー。(パクッ)うん(モグモグ)『こういうのでいいんだよ』って感じの素晴らしい出来だね」
「モグ……ほうれふね」
「だそうだよ、助手君」
「いやぁ、ありがたいですね。じゃあ僕は片付けをして来るっす。ごゆっくりー」
「ああ、よろしく。……どうだい? ウチの助手は」
「わらびちゃん一口ちょーだい。あーん」
「行儀が悪い……仕方ないですね……(スッ)」
「パクッ! んー、ぼりゅーみー。はい、わらびちゃんもオムあーん」
「完全に二人の世界……そのマイペースさは作品作りの参考になるよっ」
サクリとスプーンでコロッケを切り分け、口に運ぶ。
具はじゃがいものみとシンプルだが、ソースをかけずとも塩胡椒の味だけで十分な出来。
ふぅむ、しかし、このメニューのチョイス……何か引っ掛かる?
「気付いたかい同志? メニューの特徴に……!」
「……そうか。全て、元ネタが美少女ゲームに登場した『エロゲご飯』っ」
「グッド!」
「ネーミングで急に食欲失せて来たんですが……」
「このオムライスは卵料理が得意な『◯ルフェ』の主人公、そしてこのコロッケは『◯ョコラ』主人公が黒髪メインヒロインの為に作った思い出の料理……!」
「グッド!」
「となると、アレもコレも元ネタが浮かんで来るな……そのおにぎりセットは多分『◯ローバーポイント』かな? よるよる良いよね……」
「良いよね……あっ、ちゃんとプチプチ(緩衝剤)もあるよ?」
「暗号みたいな会話しないで下さい……」
美少女ゲームトークを交わしつつ、ご飯を食べつつ、ゲームを進めつつ……
「それで話は戻るが、助手君は本当に有能でね。料理に限らず、このゲームも、殆どは彼が作ったんだ。シナリオ以外は全て彼と思ってくれていい」
「急にめっちゃ褒めるやん。部長の彼氏か何か? それでなくとも狭い部室に男女二人だ、snegな展開もあったんじゃ?」
「ふふ、『残念ながら』まだないよ。付き合ってもいない。色仕掛けをしても揶揄いだと思われてね」
「ほぉん、ラブコメ主人公標準搭載の難聴鈍感スキル持ちかい?」
「勿論。良くも悪くもヤキモキさせてくれる」
「(ボソリ)この人にも少しくらいそんな『引き伸ばし癖』があればよかったのに……」
「なになに! わらびちゃんもっかい言って!? (ムギュ!)」
「聞こえていたでしょう! ええいっ、ほっぺ同士がくっ付くまで接近しないで下さいっ」




