87 会長(?)とホラー回6
全ての幽霊を祓った僕達。
「はいはい、終わり終わりー。……ったく、モヤモヤするよ。自分が除霊した相手が何者かも分からずじまいなんてさ」
「ああ。今の悪霊の事でしたら、恐らく、元アイドルの悪霊【偶像】。脅威度『A』。事故で全てを失い自殺するも悪霊化、顔の整った女性の顔を潰しに回る事で有名でした」
「今更それ言う? てかカルビちゃん。僕がアイアンクローする直前、アイドルの動きが鈍ってたけど、何かした?」
「さぁ」
キラリと妖しく輝く彼女の紅い瞳。
確か、夢先の女の瞳って……。
「……はっ! え? え? 誰も、居なくなった……?」
おっと、子うさぎちゃんが我にかえった。
悪霊は全滅した。
心なしか、理科準備室の日当たりや空気も良くなった気がする。
「じゃ、もう出よっか」
「そうですね」
「えっ!? あ、はい」
「狐ちゃんも、ありがとねー。(ゴソゴソ)はい、手作り干し芋」
「ニャー」
干し芋を咥えて窓からピョンと出て行く狐ちゃんを見届けた後は、部屋から退室。
学園祭期間中の廊下は騒がしく、陰惨な空気とは無縁だ。
でも、子ウサギちゃんの顔は未だ曇ったままで。
「……あの、本当に、もう終わりなんですか……?」
「んー? もう『見えない』でしょ」
「え? ……た、確かに……あの嫌な感覚は消えてます……で、でも、今だけって事は?」
「心配性だなぁ。さっきも言ったけど、基本は襲って来た奴らを祓えば『色々あって』おさまるんだよ。で、君から霊力も消えるから、結果的に幽霊が見えなくなる、と」
「な、なるほど……確かに、見えていた時は、お二人から『不思議なオーラ』を感じていた気がします」
「カリスマオーラってやつさ」
「……貴方が心配する気持ちも分かります。ですので、もし何かあった際はカヌレを頼って下さい」
「そ、そうしますね」
「じゃ、僕らは行くから」
「では」
「あっ……あのっ」
呼び止められ、振り返る僕達。
「は、箱庭さんは、その……前から見た目とか空気とか……色んな意味で近寄り難い人で……今は周りに色々言われていますが……こうして実際に時間を共にすると、凄い人なのだと実感出来ましたっ。あの凄い会長と仲良しなのも納得ですっ。私、その事をみんなに言って誤解を解きますっ。今日は本当に助かりましたっ、ありがとうございますっ(ペコッ)」
「へっ、そりゃあ要らぬお節介だぜ。カヌレを唆してる悪い男ってイメージは嫌いじゃないからね」
「(ペシッ)行きますよ」
「イェーイ(パシャ)」
「ありがとうございます!」「キャー! 一緒に撮っちゃったー!」
「君達、和風? 大正浪漫? 喫茶に来てくれよなっ」
「えー、おねーさんも居るんですかー?」「居るなら行きまーす」
「ばっか、どう見ても今の俺ぁデート中だろぉ?」
「じゃー行かなーい」「ねー」
「生意気なJCだなぁ」
歩く宣伝塔として写真撮影に応じるサービス精神旺盛な僕。
今のはJC二人組。
人をどこぞのランドのネズミマスコットみたいな感覚で接して来やがる。
「おねーさんまたねー」「見掛けたら声掛けてよー」
「先に店に行けー……ったく。(肩をすくめて)なぁ?」
「なぁ? とは」
「宣伝塔も思い通りいかないよねって」
「宣伝塔の役目果たしてた?」
「してたでしょー。全く、これだから大人を馬鹿にしてるようなJCはさぁ」
「キッズって馬鹿にするほど歳の差無いでしょ」
「でもたまにはJCの若い空気吸わなきゃね、身体が錆びついちゃうよね」
「私にはそんな欠陥無いけど……」
「さ、次はどこに行こっか」
「なんで一戦交えた後なのにそんなに元気が有り余ってるの……というかさ」
ボソリ カヌレは周りに聞こえぬよう呟くように、
「色々とはぐらかしたろ? 子ウサギちゃんに対してさ」
「なんだい、アレがベストだろう。『ありのまま』話したら彼女、『負い目』感じちゃうぜ?」
「まぁそうなんだけど……説明しとかないと、『何かあった時』は何も分からず混乱してしまうんじゃ?」
「そこは『諸悪の根源』を潰しとけば問題無いっしょ。『これから起こる事』は子ウサギとは無関係、それが最適解よ」
……と、タイミングを見計らったように。
ドンガラガッジャーン!
近くの教室で、何かが暴れる音。
「何してる教室?」
「……確か、『オカルト研究部』の部室だったかな……ってノンビリ話してる場合じゃないよっ」
「そだね。面白そうだから行ってみよっ」
現地に向かってみると、随分と賑やかな光景が広がっていた。
オカ研の中はカーテンが締め切られて薄暗く、灯りは蝋燭のみ……だったんだろうけど、今は普通に電気がついている。
怖い話でもしていたのか、何か『降霊術』的なものでもしようとしていたのか。
まぁ、そんな考察は置いといて、目に見える現状を伝えよう。
「こっちに来るなー!」と『見えない何か』に怯え暴れる男子生徒(一緒に来ていたであろう女の子は少し離れた所で涙目)。
状況を理解出来ずオロオロするだけの(神社の神主のような)袴姿の、アレはオカ研かな?
それと、あの腕を組んで状況を静観してる巨乳ポニテは……
「へいっ、頼んだよ君」
「ガルッ」
と僕のゴーサインに頷いたホワイトタイガーちゃん(そのエリアの守護者)は、暴れる男子生徒に近付き、シュッと猫パンチ。
それは正確に顎の先を捉え、ガクリと男子生徒を落とし(気絶させ)た。
崩れた男子生徒はそのままホワイトタイガーちゃんの背中にダラリと覆い被さる。
「職員室前辺りにでも捨てといて。はい、おやつの干し芋」
「グルッ(かぷっ)」
ノッシノッシ……ホワイトタイガーちゃんと男子生徒はその場を後にした。




