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86 会長(?)とホラー回5

退魔にやってきた狐ちゃんイジりで盛り上がっていた僕達だったが、


「ニャー」


「お? そうだね。脱線しないで『早く終わらせないと』ね。

んー……何か『箔を付ける』アイテムは(袴の袖の下ゴソゴソ)おっ、【桑の実】か。これを指で潰してぇ(ヌチヌチ)」

「何故借りた袴の中に桑の実を……」


桑の実から出た赤い果汁を両手につけ、スゥと狐ちゃんの目の周りや口元に赤いラインを引く。

綺麗な白の毛の上に、それを際立たせる赤い戦化粧。

歌舞伎の隈取のようなそれで、一気にキリッとした顔付きになり、より神の使い(化身)のような雰囲気に。


……僕は理科準備室内を見渡す。


みんなに忘れ掛けられていた魑魅魍魎らが、居心地悪そうに佇んでいた。


「待たせたねー君達。空気読んで待っててくれたんでしょ?」

「下手に動けなかっただけだと思いますが」

「じゃ、再開はじめよっかー。ヨーイ……ドン!」


それは、瞬間またたくまという言葉がぴったりな光景。

僕の腕の中から飛び出た狐ちゃんは、再び風となる。


ギャアアア! グオン!! ンゴオオオ!!!


狐ちゃんにとってはただの障害物扱い。

ばったばったと断末魔を上げながら消されていく悪霊達。

弱肉強食はどの世も変わらない。


「わっ! わっ! 次々に……え、えっと、これは除霊、なのですか? 先程、除霊には手順があるとお聞きしたのですが……」

「正攻法の場合はね。『相手を穏やかに成仏させる』なら、丁寧な手順を踏むべきなんだけどぉ、数段上の実力者なら一撃でこの世から滅せられるんだ」

「無慈悲ですっ」

「まぁこれが一番手っ取り早くはあるんですけどね。特に、改心も不可能そうな悪霊相手には。……今更ですが、目の前にいる(いた)悪霊、一部は他校を拠点にしていた名有りの者達でしょう。特徴を見て思い出しました」


投身自殺者の悪霊【堕児】脅威度『B+』

いじめを苦に命を絶った子供の霊で、他者を引き摺り込もうとする。


学級委員の悪霊【校則】脅威度『B』

規則に厳しい学生の霊で、破った者の身体を逆方向に曲げようとする。


「ふぅん。子ウサギちゃん、そんなんここまで引っ張って来ちゃったのか、まぁもう狐ちゃんがヤッた後だけど。てか唐突に出て来た脅威度って何よ。意味はなんとなく解るけど、今後使われる機会がなさそうな指標だな?」

「『表』界隈での悪霊の脅威度の振り分けですよ。一般人……『霊能者や退魔師』視点から見た指標です」

「まぁだろうね。……ん? 霊能者だの退魔師だの、そういう組織は裏の界隈じゃない?」

「あちら側も自身らをそうだと思っているでしょうね。ただ、『私達基準』で考えれば一般人と大差ありませんよ」

「僕は見た事無いけどなぁ、一般霊能者の仕事現場とか。にしても、あの十分キャラの濃い悪霊でBかぁ。Sランクとか見てみたいなぁ」

「我々にしてみればSもCも変わりませんがね」

「す、すごい会話です……」


子ウサギちゃんから尊敬の眼差しにフフンとなりつつ、仕事中の狐ちゃんに目をやって、


「このまま眺めてれば終わりそうだねー。子ウサギちゃんも安心でしょ?」

「……でも、ここにいる人達が消えても、それで……終わりなんです……?」

「そこは安心して。呪いっていうのは、成就なかった場合……おっと」


ア ア ア" ア ア ア" !!!


狐ちゃんの討ち漏らし。

アイドル幽霊ちゃん(仮称)がこちらへと迫って来る。

狙いはやはり子ウサギちゃんだ。

突然の事に子ウサギは悲鳴も出ず固まったまま。


『何やってるの?』という目を狐ちゃんに送ると、『お任せしますわ』とやる気のなさそうな目で返された。


アイドルの手が子ウサギちゃんの顔に伸びる。

可愛らしい顔付きの女の子に恨みでもあるのだろうか? 彼女の怒りの感情は、死者だというのに生き生きと輝いていた。

最早、説得だのではどうしようも無い程手遅れなアイドルちゃん。


ア"……


ガシリ 伸びた手が顔を鷲掴む。

ただし、その手の主は僕。

プロレスでいうアイアンクロー状態だ。

アイドルは小顔っぽいからスッポリ手の中におさまる。

力は込めてない、なのに『彼女』は抵抗しない。

『出来ない』のかもしれないけど。


「結局、君の事は殆ど分からなかったね。死因とか、幽霊に成るほどこの世にどんな心残りがあったのかとか。今日、僕が見た幽霊の中で一番興味をそそられたのは君だったけど……」


残念だ。


グシャリ

なんて音は無い、けれど、豆腐を握り潰したような感覚だった。

さらり…… アイドルは塵と化し消えていった。

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