80 会長(?)とキャリアウーマン
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ザワザワ ガヤガヤ ゾロゾロ
学校に戻ると、既に一般開放済みだからか校内は多くの人で賑わっていた。
浮ついた空気。
こんな光景を見ると、ここが普段通っている学校とは違う場所と思えて来るから不思議だ。
まぁそこまでこの学校自体に思い入れも愛着も無いけど。
「おっ、ウカノ君じゃん」「ウカちゃーん、お祭り始まったよー。てかなんでパッツン? 可愛いけど」
早速エンカウントしたのはモブガールズだ。
学園祭実行委員会として今日は右往左往する予定なのだろう。
満足に遊べなくて可哀想に。
「なんだか哀れみの顔で見られてるんだけど……?」「なんでかわからんけどムカつくな……?」
「君達には今日自由時間はあるのかい?」
「んー、どうだろう? ねぇ?」「まぁみんなに楽しんで貰う為なら私達は身を粉にするよ。カー! 実行委員会してなきゃ今頃素敵なカレピとなー!」
「(仕事が恋人だと言い訳してる)キャリアウーマンみたいだな」
「なんか嫌味に聞こえるよ!」「変な間があったね!」
「お仕事応援してるぜ」
「心にもない感じで言われると煽られてる感凄いな……アレ?」「後ろに隠れてるのは……わらび?」
カヌレ(現わらびちゃん)を二人の前にグイッと引きずり出すと、「わわっ」と彼女は慌てた声を漏らす。
「くっ、お前らデートかよぉ!」「見せ付けやがって!」
「ち、違っ! ぅぅ……」
「おらおらアベックのお通りだ! そこのけそこのけ実行委員どもっ」
「アベックて! 仏語だけどなんか古い響き!」「コイツ……生徒会長の姉が忙しいからって代わりに妹を……鬼やで」
モブガールズが騒ぐせいで突き刺さる周囲の目。
お嬢様学校でひっそり暮らすわらびちゃん(カヌレ)の存在はそこまで周知じゃない為か、
『会長が髪を結い上げて……?』『いや、会長は別の場所に居るはずだっ』『じゃあアレが噂の妹君……?』
現れた会長クリソツ(本人)なわらびちゃん(カヌレ)に話題沸騰。
……まぁそんな反応は無視するんだが。
「それより仕事だよ実行委員会様。僕の園芸部の出し物を宣伝して欲しいんだ」
「この流れでなんて都合の良いお願いだ!」「……因みにどんな出し物?」
「かくかくしかじかで恋愛にご利益があってね」
「いつの間にそんな大掛かりな神社なんて物を……」「しかも恋愛関係とか嫌がらせだねっ……でも面白そうっ。後で確認に行くよっ」
「うむ、期待しておるぞ」
「安定の上から目線だな……」「しっかし、ウカちゃんが本気出して来たとなると、『人気投票』の企画もおじゃんになりそうだね」
「何の話?」
訊けば、学園祭の出し物で良かったモノを投票し、一位の同好会や部活やクラスには特典を授けると。
「その特典って?」
「皆が喉から手が出るほど欲しがるモノと言えば……」「学食の食事券+『一回だけカヌレを好きに出来る権利』だよっ」
「ええっっ!?」
吠えるわらびちゃん(カヌレ)の反応を見るに、どうやら知らなかったらしい。
これには僕もムッとなって、
「コラッ、人のモンを勝手に商品にするなっ」
「(ボソッ)勝手にモノにしないで……!」
「へっ、少しは周りからカヌレを奪った気持ちを味わうんだよっ」「NTRってやつさ! まぁ勿論、好きに出来るって言っても『軽いお願いを聞いて貰う』程度の常識的な範囲内だけど」
「常識的って? バスタオル一枚でスクワットして貰うとか?」
「君らの常識は範囲をオーバーしてるな!?」「ニッチなプレイしてんだな……」
「(ボソッ)そ、そんなのした事無いでしょ……!」
「ま、まぁ常識的ってーのは、カヌレに部のマネージャーして貰うとか」「学年が違おうと同じ授業に出て貰うとか、そんなんだよ。特典が特典だから、有るであろう組織票は弾くから安心して」
「ふーん、みんな謙虚だね。しかしマズいな……いくら僕が素晴らしい出し物を展示した所で、嫌われ者だから票が入らない可能性もある」
「自覚はあるのか……」「ま、まぁそこは『匿名希望さんの展示』で宣伝しとくから。バレるだろうけど」
「世話かけるねぇ」
感謝の言葉を言った後に気付いたが、そもそもこれはモブガールズの企画。
しかし吐いた言葉は引っ込めない信条の潔い僕は不満を口にしないのだ。
「あ、そういえばウカノ君、学園祭中のナンパ対策がどうたらって話、どうなったの?」「あーそんなのあったね」
「ちゃんと覚えてるぜ。今から『呼ぶ』から(ピー)」
「指笛って何かそれっぽいけど……って、何呼ぶ気?」ドドドドドッッッ「こ、この地響きは……!?」
ワーワー キャーキャー 客の驚きと悲鳴。
そんな反応には目もくれず、【みんな】は僕の所までやってきた。




