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78 会長(?)とパワースポット

学園祭開始前、ひと気のない校舎裏に来ていた僕達。

カヌレは今、妹のわらびちゃんの格好をしているおかしな状況。


「この時間、他校生である筈のわらびちゃんが校内にいるのは目立つからね。一般開放まで潜んでようぜ」

「サボりみたいで罪悪感が凄い……因みにどこで? いつものとこ(屋上)?」

「ふふん、そうだけど今日はひと味違うぜ。……おっ、『出来てる出来てる』。【アレ】をみたまへ」

「えっ? アレって……なにアレ!?」


指さした先。

本来ならば校舎裏の壁があるだけの場所には……【木の階段】。

イメージとしては木で出来た『石段』を想像して貰いたい。

それが『屋上』まで伸びていた。


「ふぅむ……出来立てなのにこの放置されて草も生えっぱな寂れた感じのダメージ加工……発注した僕のイメージ通りの出来だ。腐っても僕の母親、か」

「やったのはプランさん……? なんでまた、こんなものを……」

「雰囲気作りさ。【この上にあるモノ】を引き立たせる為のね。さ、登るよ」

「なんか怖いんだけど……」


一歩、僕らは階段を踏み締める。

直後 フッ と変わる雰囲気。

いや、変わったのは『世界』か。

別の世界に迷い込んだ感覚。

濁りのない、澄んだ空間。

『ママンの実家がある場所』もこんな空気においだ。

そして、ママンが建造に関わった場所も、大抵『こう』なる。

綺麗な水には魚も住まないと聞くが、ならば、この空間を心地良いと思う僕やセレスは『何者』なんだろう。


「っ……」

「ん? カヌレ、体調悪い?」

「いや……ふぅ、大丈夫だ。『久し振り』で……いや、気にしないで」

「ママンの建造物は独特の気持ち悪さがあるからね。普通の人は『空気がおいしー』だの『心が洗われるー』だのとしか感じないけど、感受性の高い人ほど車酔いみたいになるっぽいよ。ほら、手」

「え?」

「僕に触れてれば気分の悪さも中和されるよ。酔い止め効果さ」

「(ボソッ)君はこちら側に慣れてるからだろうね。うん、じゃあ、お言葉に甘えて(ギュッ)」

「なんなら僕と唾液交換すればしばらくは気持ち悪さが緩和されるぜ?」

「そんな『よもつへぐい』みたいな話……いや、『ありそう』だけど、普通に今は手で」


階段を上り始める僕達。

実際、僕がカヌレと接触した途端、彼女の顔色の悪さはスッと消えた。

屋上まで何段あるのか、目視では分からない。

近いようで遠いような、いつまでも目的地に辿り着かないような錯覚を覚えさせる建造物。

ママンは必ずそういう遊び心を加え入れる。


「はぁ……こんなのを学校のみんなが見たらどんな反応をするか……教師も卒倒しそうだ。許可を取ってるとはいえ、サプライズにしてはやり過ぎだよ?」

「ふふん、それが狙いさ。メインはこの上。ほらほら急いだ」

「無茶言わないでくれ……気分はマシになったとはいえ、足は水の中みたいに重いままなんだから」

「このツインテ掴んだら速くなる? (ギュッ)」

「馬の手綱じゃないんだから……こらっ、女の子の髪で遊ばないでっ」

「これがウ〇娘ちゃんですか。ならお尻にペチンとムチを入れれば加速を……(スッ)」

「させるかっ! (ブゥン)」

「グヘッ、ツインテが目にッ! 振り回すなっ」


わちゃわちゃしつつ……気付けば僕達は屋上へと辿り着いていた。

普段はここに落下防止のフェンスがあるが、今は取り除かれている。

『目の前の光景』は一先ず置いといて、クルリ、僕は今上って来た背後を見渡す。


「うーむ。屋上から見慣れた風景だとは思ってたけど、シチュが変われば町の景色も新鮮に見えてくるね。ゼッケーゼッケー」

「私はそれよりも『目の前の光景』に混乱するんだけど」

「せっかちだなぁ、景色を楽しめる余裕を持とうぜ。今説明するから、最奥まで進むよ」


木の石段を抜けた後、次に目に入るのは『入り口』だ。


【それ】は、例えるなら『鳥居っぽい』木製のアーチ。


四、五人は横並びでも通れるような幅と余裕のある高さ。

アーチには、何やら英語のような漢字のような記号のような、そんな読めない字が黒い墨で全体に書かれてあった。

『いかにも』な感じで、何か怨念的なのが篭もってそうなハッタリは、流石はママン。

まぁどちらにしろ、鳥居と同じく『境界』の役割なのだろう。

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