77 会長とお嬢様と服の中
姉妹の着替えを待ってる間……
「のこったのこった」
「おー。蜘蛛の巣で地形フィールドを侵しつつゴキちゃんの機動力を奪う……凄い作戦ですねー」
「しかしゴキちゃんには羽という空への道がある。この勝負分からないよ」
虫ちゃんらのムシキングごっこをドライバーのメイドさんと観賞しながら時間を潰し……一〇分後。
「おー」
「分からないもんっすねー、流石は双子」
「「…………(プイッ)」」
着替え……いや、『変身』した彼女達を見て、僕とメイドさんは感嘆の声を漏らす。
カヌレはわらびちゃんになり、わらびちゃんはカヌレに。
と、言っても、二人には元々劇的な違いは無い。
体型は同じだし、髪型なんてカヌレはポニテかストレート、わらびちゃんは(イメチェン後の眼鏡なし)結い上げ髪という、それだけの違い。
制服(白シャツリボンというウチの夏女子制服と、夏セーラーな山百合夏制服)を変え、髪型を変え……だからこそ一〇分で終わった。
「ほら、早く学園に行こう」
「おー。なんかわらびちゃんの姿でカヌレな語気と口調は新鮮だね。なんて言いつつ、実は入れ替わって無かったり? 演技だったり?」
「……み、『見て分からない』ですか?」
「んー? ふふ。カヌレな姿のわらびちゃん(仮)、そこは『内緒』。みんなで『空気読んで』行こうぜ」
「私は全然分かりませんねー」
「夢先家のメイドとしてそれもどうかと思うよ?」
皆で車に乗り込み、学園へ向かう。
後ろの広い座席に、僕が姉妹の間に挟まる形だ。
あっ、因みに虫ちゃんらとはアパートで別れました。
「んふー、最高だねこの侍らせ感。雑誌の後ろのページにある怪しいスピリチュアルグッズの写真みたいだ」
「あー、ありますよねー、札束のお風呂に入ってプロっぽいお姉さんに挟まれてるアレ」
「そーそー。あっ、どうせなら再現しようかしら? メイドさん、札束ある?」
「あー、たしかそこの棚に現金が」
「何をやろうとしてるんだ二人は……写真など撮らんぞ」
「う、運転に集中して下さい……」
嫌がられつつ強引に二人の肩を抱き寄せ、札束を両手に握りしめ、信号で停車した時にメイドさんが僕のスマホでパシャリ。
「うーん、良い感じにゲスい顔ですよーウカノ様」
「グヘヘ。金になびいた卑しい女どもとしてSNSにアップしてやる(ペチペチ)」
「札束でヒトのほおをペチペチするなっ、スマホへし折るぞっ」
「あ、アップする前にデータ抜かなきゃ……」
「なんて血の気の多い姉妹だい。学校に着いたらちゃんと本性は隠して演じてくれよ? (ズボッ)」
「ひゃあ! つ、冷たっ」
「ど、どこに手を入れて……!」
「はーあったかい。夏とは言え朝は冷えるからねぇ」
「う、後ろで入れ替えられた姉妹が何かエッチな事をされてます……! 見たいのに運転中だから……!」
車内でドタバタほのぼのコメディしつつ……気付けば学校前に。
ワイワイ ガヤガヤ
まだ一般開放の時間では無いのに、既に空気はお祭りムード。
中には既にコスプレしてる者達まで居る。
「楽しそーですねー。正門のアーチの飾りも手作り感が出ていてほっこりします」
「ならメイドさんも今日僕と学園祭デートする? 幼少期から夢先のメイドとして働いていて学校に通った事も無いでしょ?」
「勝手にバックストーリーを作られてキャラ付けされてますが……んー、どーしましょーかねーお嬢様ー? (チラッチラッ)」
「知らんっ。勝手にしろっ」
「わ、私には特に決定権は……」
「あらー、ツンツンしちゃいましたよウカノ様ー」
「腹ん中は嫉妬でハラワタ煮えくり返ってるだろうにねぇ」
「どう見たらそんな好意的解釈になるんだこの二人は……」
「も、もう車降りますね……」
ガチャリ 車の扉を開けるわらびちゃん。
人通りの少ない、正門から少し離れた降りるには良い場所だ。
「じゃ、僕らは更に離れた場所で降りるね、見られたら厄介だし。また後でねーわらび会長ちゃん」
「も、もう無茶振りはやめて下さいね……?」
ジト目を向けた後、わらびちゃんは正門に向けて歩いて行った。
その後ろ姿、堂々とした立ち振る舞い……カヌレを完璧にトレースしてやがる。
「大丈夫かなぁわらびちゃん、不安じゃないかな(そわそわ)」
「君がさせておいて……二重人格か何かかい?」
「ま、カヌレより神経図太そうだしうまく立ち回ってくれるだろうさ(ケロッ)」
「……わらびには最低限会長役の引き継ぎはしたから恐らくは大丈夫だろうけど……私は今日、心から楽しめるだろうか」
「いざ始まれば楽しくて妹ちゃんの存在すら忘れるだろうさ」
「君の中の私が薄情過ぎる……」
「降ろすのこの辺りで良いですかー?」
車が止まったのは学校の裏門。
先ほどの場所より更に人は少ない。
「ではまたー」とメイドさんはブゥーンと去って行った。




