76 会長とお嬢様とラッキースケベ
……朝食も済み、片付けも終わらせ、場所は少し移動して僕の部屋。
ルーティンと化した僕のお着替えを手伝って貰う為にだ。
しかし、その前に。
「さ、今日一日の予定が決まった所で、体を清める為にも一緒に朝風呂と洒落込もうか」
「……どんだけ入りたいの。昨日も言ってたよね、それ」
「『神事』やるんだから体キレイキレイするのは普通でしょ?」
「一人で入りなさいっ」
「どちらにしろ『今から一緒に服脱ぐ』じゃん」
「どゆこと!?」
「(プルルル)っと。『良いタイミング』だ。もしもしー。うん、僕の部屋ー。もうアパートの前まで来たの? なら今出るねー」
「……誰か来てるの?」
「んっ」
今いるキッチンから数歩先、玄関の戸を開けると……一階の方に一台の車が見えた。
その車から、ガチャリと一人、今連絡してきた人物が降りて来る。
「おーい、わらびちゃんこっちこっちー」
手を振ると、ビクッと驚くわらびちゃん。
失礼な子だなぁ、僕はバケモノかなにか?
……カンカンカンと階段を上って来る彼女。
手には紙袋。
「おはよーワラビー。ここに来るのは『初めて』だよね?」
「ゆ、有袋類みたいな変な呼び方はちょっと……早く『済ませ』ましょう」
「せっかちさん。言い方も何か卑猥だし。んー……そーいえば、君の私服を見るのも初めてだね。清潔感のある白のワイシャツとタイトなスカート……OLめいててエロいけど、お嬢様なんだからもっとこうフリフリのドレスが見たいな」
「ど、ドレスを普段着にするのは手間が……」
「めんどくさがりなダウナーOLがよぉ(つんつん)」
「つ、つつかないでっ……早く話を進めて下さいっ」
「カヌレー、来てー」
「一体さっきから何を騒いで……っ」
わらびちゃんを見た瞬間止まるカヌレ。
しかしさっき説明していたからか、すぐに再起動して。
「……ウカノ君、君はこれからどんな指示を出すつもりだい?」
「話が早くて助かるよ。別に複雑な指示じゃない。『お着替え』だよ」
「……『わらびの姿に』かい? 私が山百合学園の制服を着て、わらびが私の制服を着ると」
「話が早くて助かるよ」
「はぁ……制服、部屋から持ってくるね」
「既に僕の部屋に靴下含め一式運んでるよ」
「いつの間に!? ……全く。抜け目が無い」
姉妹は示す合わす事無く、僕の部屋に入って行く。
ヒョイ カヌレは扉から顔を覗かせて、
「当たり前だけど覗かないでね?」
「うん(スタスタ)」
「……な、何故ついて来るんです?」
「僕の部屋だから?」
「……すぐ終わるから待っててね」
ガチャン カチャ
施錠の音。
ぷんぷん 家主に対してなんて扱いだ。
『ボソボソ ボソボソ』
部屋の中から、小さな会話の声。
内容は聞こえない。
傍目から見れば仲の悪い姉妹……一体どんな会話をしているのか気になる所ではあるが……今はいい。
しかし、フフン、油断したな? そこは『僕の部屋』だぜ?
「「キャア!!」」
カチャ ガチャン! 「どうしたヒロイン達可愛い悲鳴なんて上げて!」
「ちょっ! 今入ってこないでくれ! 鍵は!?」
「く、来るのが早すぎでは……!?」
「そりゃ家主だからね、鍵ぐらい持ち歩くさ(ジロジロ)」
「「見るなっっ」」
そう言われたら、尚更今の彼女らの姿を凝視してしまう。
カヌレは空色、わらびちゃんは夜色。
服を着てても卑猥な二人だが、肌色成分多めな今の姿もこれはこれで。
彼女らがサッと服で隠す前にじっくり堪能した僕なのであった。
「というか二人とも、サイズが合ってないんじゃない? 今でもキングラージサイズなのに『ミチチッ』と紐が張ってて少しキツそうだよ。この短期間で更に大きくなった?」
「なんで分か……いやっ、冷静に分析しないでくれっ」
「ま、真面目な顔で考察を……」
「で、悲鳴の原因は?」
「あ、ああ……【その子達】だよ」
カヌレの指差す先には、二匹の【虫】。
クモとゴキブリ。
しかし普通のとは違い、どちらも『拳大』のデカさ。
「なぁんだ。安心して、『同居人(者)』だから。よしよーし(ナデナデ)」
「「(ピクピクッッ)」」
「……同居人と言いつつ、紹介して貰った事は無いけど?」
「そーだっけー? たまたま外に出てたのかもねー」
「し、白々しい……狙って私達を驚かせるよう指示したのでは……?」
「疑り深いなぁ。君らの知る僕ならそれこそ小細工無しに着替えに突っ込む信頼あるだろぉ?」
「自分で言うのか……」
「まぁ想像にお任せするよ。僕はこの子らを連れてクールに去るぜっ。早く着替えて出て来いよっ」
虫ちゃん達を肩に載せてヒラヒラと手を振りながら扉を出る僕。
背中に刺さる視線がチクチク痛かった。
心配して駆け付けたのになんと理不尽な。




