74 お嬢様と作戦会議
そうして、特に学園祭の準備もする事もなく、お昼休み。
新たな楽園こと屋上空中庭園にて、僕はベンチに座り、電話を掛けていた。
『は、はい』と電話を取る通話相手。
相手方からの漏れる音からは、キャッキャウフフとお嬢様達の清楚な空気が伝わってくる。
「もしー」
『ど、どうかしましたか?』
「明日の君の立ち回りの確認さ」
『……ほ、本当に私に〈姉の振り〉をしろと? 学園祭の内情も何も知りませんよ……?』
「『好きにしろ』と『君達に任せる』だけ言って腕組んでりゃいいんだよ」
『し、心配になる生徒会ですね……。当の姉本人はこの事を……?』
「明日言うよ」
『と、当日ではないですか……責任はとれませんよ?』
「うーむ、しっかし、あっさり引き受けてくれたね君。助けた恩があるとはいえ。よし、タイミングさえ合えば君とカヌレを(本来の立ち位置に)戻して遊ぼうね」
『ふ、双子だからといって漫画やアニメみたいにコロコロ気軽に入れ替われは……『別人』、ですから』
「不器用だなぁ。セレスは僕の真似、めっちゃ上手いよ?」
『……そ、想像出来ませんね、その光景は』
「私に出来ない事は無い」
『……え? そ、そこにセレスさん、いらっしゃるんです?』
「僕もセレスの真似上手いんだよ。いや、ホントは隣にセレスがいるのやもしれん」
『や、ややこしい真似を……』
「んー、折角だから、君にわざわざここまで来て貰う労いとして、一つ何かしたいなぁ。明日までに考えとくよ」
『ね、労う気持ちがあるならば、今後はこんな無理難題、やめて下さいね……(ブツン)』
プーーーー 電話を切るわらびちゃん。
何やら声から疲れが伝わって来たな。
おのれ、誰が彼女を苦しめて……!
「まぁわらびちゃんへのおもてなしは当日考えるとして……園芸部も何かやらなきゃかなぁ?」
「クークー?」
「んー? (膝の上の)コンチネンタルジャンアントウサギちゃん、心配してくれてる?」
「クー」
「鼻ヒクヒクさせちゃって可愛いっ。てか君ほんとデカいねー。中型犬くらいでかい。心配ありがと(鼻ツンツン)」
「コフッコフッ」
「んー……うさぎかぁ……ラビットハウス……喫茶店……は、被り多いか」
「ニャー」
「ん? 白狐ちゃんもいたんだ。白いから一瞬そういう犬かと思ったよ。前の中庭の時と違って、ここには色んな子達が集まるようになったからアニマルハーレム万歳だね。……ふむ、狐」
頭をよぎるのは、キツネ耳を付けた三人娘。
「狐……いなり……神社…………うむっ」
一人肯く僕は、早速スマホを取り出し、電話したくない相手だけど何とか気力を振り絞って……『オッケー。用意しとくよー』……巧みな話術で交渉を終了させる。
「ふぅ……ひと仕事終えた感。今日のターンは終了だ。良いヒントありがとねー狐ちゃん(ナデナデ)」
「ニャー」
「ゴフッゴフッ」
「わはは、嫉妬しないのコンチネンタルジャンアントウサギちゃん」
……その後。
「たーいまー。ご飯はー?」
「おかー。出来てるよー。今日はスパイスからな本格的骨付きチキンカレーだよ」
「手で食うと美味しいって美味◯んぼで言ってた!」
「熱いからスプーン使ってね。……にしてもウカノ君、いつもの帰宅時間だね。学園祭の準備とか良かったの?」
「んー? なんか学校泊まって準備する生徒もいるみたいだねー(靴ヌギヌギ)」
「他人事……君はそこまで青春を謳歌する気も無い、と」
「僕が求めてるのは性春だからねー」
「同じ音の言葉だけどロクデモナイ意味なのは分かるよ」
「言っとくけど、サボってたわけじゃないよ? 早く仕事を終わらせて帰って来ただけさ。『DIY』してね」
「日曜大工を……? 犬小屋でも作ったの?」
「似たようなもんさ。ふふん、明日の本番は僕も張り切るよー。好きな子を『もてなす』って考え方ならやる気が湧いてくるもんだね」
「ふぅん。ま、張り切り過ぎて空回りしないようにね」
「僕の目的の為ならば学園祭の破壊も辞さない」
「そこは辞しなよぉ……」
学園祭イヴの日は静かに過ぎて行く。




