71 会長とパンケーキ
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翌朝。
……コンコン。
「(ガチャ)はぁい。おはよう、ウカノ君」
「おはよーカヌレー。モーニングコールだぞー」
「ふふ、君を迎える為にもう起きてるから」
「じゃあモーニングショット?」
「な、何を撃つつもりかな……? それかコーヒーでも飲みたいの?」
「牛乳と砂糖たっぷりな」
「はいはい」
挨拶も済ませ、カヌレの部屋に慣れた足取りで入る僕。
……ん?
ふと、カヌレの後ろ姿に目が止まる。
「どしたの?」
「ロンTだけのエッチな格好してるなー、と思ったら、それ『僕が持ってるのと同じ』だなーって」
「えっ? あっ!」
昨夜、『アンドナが』寝る時に勝手に拝借して着た僕のシャツ。
彼シャツ。
そして彼女の髪型は、僕の今のマイブーム、垂れサイドロール。
「き、君が着てるのを見て、デザインが気に入って買ってねっ。良く寝巻きにしてるんだよっ」
「寝巻きのシャツのデザインに拘るなんて流石元芸能人。下はパンツだけかな? (ピラピラ)」
「ちょっ、や、やめてっ」
「実際パンツにはそこまで興味が無くて恥じらう君が見たかったんだ」
「性格悪いよっ」
それからは二人で朝食だ。
今日のメニューは珍しく洋。
テーブルに広がるのはパンケーキ、ボイルウィンナーと目玉焼き、ミネストローネとコーヒー。
「随分と料理も上達したんじゃない?」
「焼いたり茹でたりするだけの簡単なものばかりだよ」
「世間にはそれすら出来ないレシピも守らない味見もしないそんな魑魅魍魎が沢山いるからね」
「出来ないだけで魑魅魍魎扱いは酷いな……」
「頂きまーす」
正直パンケーキを食べる時のルールや嗜みは分からないけれど、しょっぱいオカズを口に入れてご飯を掻っ込む感覚でいいだろうとナイフ&フォークでワシワシ食べ進める。
「てか、わざわざ僕の分の食器類まで用意してくれたんだ。言ってくれたら部屋から持ってきたのに」
「別にいいよ。複数あって困る事は無いからね」
「なら今度ペアの食器買いに行こー。デートデート」
「う、うん。いいよっ」
「あっ、醤油とってー」
「醤油味のおかずとパンケーキ……いや、問題はないけどさ」
食事も終わり……甘いコーヒーで一服しつつ、
「ああ、そうそう。明日の学園祭、ママンが一枚噛む事になってさー」
「ぷ、プランさんが……? どんな恐ろしい計画を……」
「別に死人は出ないよ」
かくかくしかじか。
「あ、ああ、『例の』神楽か。セレスちゃんに聞いた事はあるけれど、実際見た事は無いね。いいんじゃないかな、出し物の一つとしてやるんなら。あの人の事だ、学園への根回しはもう済んでるだろう」
「してるだろうけど、僕の気分次第じゃ本番ぶっちもあるかもね。少しでもママンをぐぬぬとさせたいんだ」
「酷い息子だ……でもセレスちゃんが逃さないと思うよ?」
「だよねぇ。後が面倒いから諦めて従うけどさぁ」
「ふふ、楽しみにしてるよ、君の晴れ舞台を」
「考えたら別にみんなが見てる前でやる必要もねぇんだよなぁ。校舎裏でこっそりと……」
「プランさん、校内放送ジャックして注目させるんじゃないかな……」
色々と詰んでいる状況だが僕は最後まで諦めない。
人目につくのは苦手だ。
「それはそれとして、朝風呂に興味ない?」
「唐突すぎるでしょ。……もう入ったよ」
「(ずりずり)クンクン……確かに、毛先が少し濡れてるし、ソープの香りもする」
「ち、近いよっ。女の子の香りを間近で嗅ぐのはマナー違反っ」
「違いますー、鼻先で擽ってるだけですー(コスコス)」
「わわっ!」
ポフンッ
ねっとりと至近距離まで近付いた結果、仰向けに床へと倒れ込むカヌレ。
構わず、僕は鼻先で彼女を擽る。
露わになった太もも、シャツ越しのおへそ、山のようなお胸、首筋、ほっぺ。
その度に、カヌレは「んっ」と息を漏らし、抵抗するでもなく、ピクピクッと躰を反応させる。
それから……
「うりうり、鼻と鼻をコスコス」
「近過ぎるよっ。あ、当たっちゃう……!」
「むちゅー? なにがぁ? (すっとぼけ)」
「くっ、唇を突き出さないでっ」
「もっと直接、二酸化炭素の交換してもええんやで?」
「色気のない口説き文句っ。ていっ(ゴロンッ)」
「ぐえっ」
ガシリと身体をカヌレの両脚で挟まれ、横に一回転。
マウントを返された。
見下ろされる僕。
「はふぅ……流石の運動神経だ。これは君を長く押し倒すのは無理ゲーだね」
「嘘ばっかり……君はこの状態からでも、やろうと思えば存分にセクハラ出来るだろう? 油断させようたってそうはいかないぞ」
「寧ろここまでが『君に押し倒される為の』シナリオだったり」
「……そんな気がしてくるから離れるね(ヒョイ)」
「ちぇっ」




